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□贈君
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岸辺から、彼の声が聞こえた気がした。急いで僕は上半身を起こし、岸辺の方へ目をこらす。


誰もいなかった。


僕の師匠である芭蕉さんの笑顔が脳裏を過ぎる。

芭蕉さん……

彼に、僕が芭蕉さんの元を離れる事を告げたとき彼は、

「絶対に見送りに行く」

と笑顔で言ってくれた。


それなのに



………今思うと、その笑顔は僕が消える事を純粋に喜んで浮かべた笑みだったのかもしれないな…


僕が思っていた芭蕉さんと、松尾芭蕉という男は違っていたのだ。



僕は鞄の中身を勢いよくぶちまけた。

静かだった船内に、物がたたき付けられる汚らしい音がこだましたが、今の僕にはそんなの関係ない。

散乱している僕の私物を漁り、紙と筆を見つけだした。

そして僕は一句、紙に殴り書いた。




せめて、僕の中での芭蕉さんは美しくあってほしい。

そんな僕の願いが込められた一句。


「……………はは」


熱い何かが僕の頬をつたい、ポタリと船の床に黒いシミを作った。




あとがき



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