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□放課後時間☆ 芭蕉と閻魔Ver
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「………はぁ…」

夕日が、教室を赤く染め上げ始める。

……カリカリカリカリ

いつもだったら、鬼男くんとまったり自販機で買った暖かいココアでも飲みながら、一日のご褒美である美しい夕日を鑑賞するのに…

カリカリカリカリ…

この後の予定… テレビを見たりだとか、音楽を聴くだとか、甘い物を摘むため何処かに行くだとか…

考えて微笑むことができるのに……!

カリカリカリカリ…

なのに…なんて今は憂鬱なんだろう……

カリカリカリカリカリカリ…

カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ…





「………………あぁッ!!」

閻魔が大声出したかと思えば、持っていたシャーペンを投げ捨てた。

「………もーー無理ッ!飽きた!こんなんやってたら頭逝かれちゃうって」

閻魔が投げ捨てたシャーペンを拾いながら、閻魔の向かいの席に座っている芭蕉は、困ったなぁ…という表情を閻魔に向ける。

「あぅ…… 閻魔くん…もうちょっとだから頑張っ」
「あぁあぁぁあッ! 芭蕉センセー見逃してよぉぉおぉッ」

閻魔は今、現代文の授業で出た宿題に追われている。

授業一回一回の宿題の量はた
いしたことないのだが、それを閻魔は溜めに溜めたため… 取り返しのつかない量となってしまったのだ。

「ううぅぅうぅ… 芭蕉も見逃してあげたいんだけど、曽良く…曽良先生の言い付けだから…」



『芭蕉さん、僕は今から会議があるので、3Cの閻魔さんの補習、見ていなさい』

『見ていなさいって………曽良くん、相変わらず芭蕉には命令口調だよね… 松尾バションボ』

『もし、閻魔さんを見逃したりしたら』

『見逃したりしたら?』

『芭蕉さんは明日から灰と骨になるでしょう』

『ひぃぃいいぃぃぁあああぁあッ』




「……芭蕉センセー?」

ブルブルッと身震いする芭蕉を、閻魔が不思議そうに見つめる。

「うぅん ななななんでもないよ! さぁッ 閻魔くん、早く終わらせちゃお」

「うわぁあぁぁあぁん!センセーの鬼ーー!」

目を潤ませ、勢いよく机に突っ伏せる閻魔に、芭蕉は哀れみの目を向けた。

確かに、閻魔の自業自得だが、こんな長い時間問題を解いているのに、まだ残りが山の様にあるのは可哀相だ。

でも……

(閻魔くんごめんね… 芭蕉も君を逃したら、明日が無いかもしれないしれないんだ…)

芭蕉は、机の下に置いて
あった鞄を持ち上げる。

そして、携帯電話を取り出す。


閻魔が芭蕉の仕草によって立てられた音に反応して顔をあげた。

芭蕉の様子を怪訝そうに見つめていた閻魔だったが、しばらくすると、ニンマリとした笑みを芭蕉に向けた。

「……もしかして、芭蕉センセー、曽良先生呼ぶの? 無駄だよ、俺曽良先生の断罪チョップはもう見きってあるか」

「確かに、曽良くんの番号も知ってるけど… 違うよ」

「え?じゃあ誰に」

閻魔は思わず言葉を詰まらせ、ヒッと小さく息を呑んだ。


…芭蕉が……弱々しい小動物の様な表情から、いつのまにかに、今までの芭蕉の様子からは想像もできないほどの冷たい笑みを浮かべていたからだ。

冷たい風が教室を抜けてゆく。



「……ちょっと考えてみてよ、閻魔くん」

芭蕉に促され、閻魔は我を取り戻した。芭蕉が、何か悪いものに憑かれてしまったのではないだろうか?という馬鹿馬鹿しい考えを押し込め、芭蕉の意図を読み取ろうと頭を働かせ始めた。


……校長とか理事長に連絡するとか?

いやッ!たかが生徒が補習から逃げだそうとしただけで大袈裟すぎるだろ!

もしかしたら案外、芭蕉センセーが強がってるだけなんじゃ…

…でも、いつも温厚派な芭蕉センセーがこんなに強気になるんだから、相当な秘策があるのかも……?

閻魔がゴクリと唾を飲み込んだ。

今、主導権は完全に芭蕉にある。

閻魔は、芭蕉が次に発するであろう言葉に身構えた。

芭蕉は何やら携帯を弄っていたようだったが、不意に閻魔に目を合わせると、いつものようにニコッと笑いかけた。



「今ね、鬼男くんに連絡しといたから」

「え?嘘」

「嘘じゃないよ」

教室がシンと静まり返る。


芭蕉が暖かスマイルを浮かべるのと対照的に、閻魔の顔は徐々に真っ青に染め上がり、体を震わした。

が、次の瞬間、何かの関を切ったかのように泣き叫びだした。

「うわぁあぁあぁあああ!!酷いよ芭蕉センセー!!!」

そんな閻魔の頭を、芭蕉は撫でる。

「安心して、閻魔くん。まだ私は、鬼男くんにスタンバイしていてって送っただけだから。」

「………ってことは!」

閻魔が目を見開いた。芭蕉は優しく頷く。

カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……

シャーペンが机を叩く音が教室に響く。

芭蕉は、ハァッと溜めていた息を漏らした。

辺りは既に暗くなっていた。



続く



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