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□飴玉
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地面に突っ伏した太子が、僕の足に絡み付いてきた。

「もう私は無理だぁあぁあぁ!! お前だけでも頂上に上り詰めるんだ!!妹子ぉーー!!!」

「えー 太子、此は丘ですよ。そんな死にそうになる所ではありません。それに頂上までほんの数メートルです。」

「え? そうか?」

僕の声を聞き、太子はあっさりと立ち上がる。

「よーし妹子!! 頂上まで競争だ!!」

と言い残し、太子は走り出した。
僕はそんな太子の背中に叫びかける。

「太子ぃぃ!! そんなに急いだら危ないですよぉーー」

なんて叫んでるうちに、太子の姿は見えなくなってしまった。
まったく、転んだりしなければ良いが…

「おまぁああぁあああぁぁあッ」

太子の叫び声。
ほら、言わんこっちゃない。
僕は小走りで太子を追った。







「太子ぃーー…あれ、転んだんじゃ無いんですか?」

太子は、もうすぐ頂上だ、という何とも微妙な位置で立ち尽くしていた。

「どうしたんです?」

僕の言葉を聞き、太子は無言で頂上のほうを指差す。
太子の指が細かく震えていた。
何事かと、太子の指差す方に目を凝らしてみる。




「………ヒッ」

思わず息を飲んだ。

太子の指差す先。
その先には、

なんと、ひ、人が、顔を真っ青に染めながら泡を吹き倒れていたのだ!!


「いいいいい妹子!! さっき丘登りだから瀕死になることなんか無いって言ってたじゃないか!!!」

「普通ならありえませんよ!!ちょっと貴方大丈夫ですかあぁあぁあぁ!!!」

急いで太子と共にその人の元へ駆け寄る。

「…………んーー 曽良くんがぁあ 曽良くんがあぁああぁぁあ 」

良かった、なにやら譫言を言っている。
呼吸はあるようだ。
心臓も安定しているようだし…

「よし!妹子!そこを退くんだ!!」

「……え? 太子何を考えているんです?」

先ほどまでの震えは何処へやら。
自信満々の笑みを浮かべる太子の手には、そこら辺で毟ったのであろう細長い葉っぱが握られていた。

「この葉でちょっと鼻の穴をコショコショーってすれば一発でおま!」

「たっ太子!! それは色々まずいんじゃ」

「……ハ…ハ…ハ…ハーークショイッ!!!」

一足遅かった。

「んあっ!! ……あれ?君たちは……?」

「ほらみろ!!私の治療のおかげで生き返ったゾ!!」

「太子、勝手に人の事殺しちゃダメですよ… というか、僕の時にはやってないですよね?!」

「……………さぁー」

「さぁー じゃないですよぉおぉぉ!!」

「…ええぇぇええぇぇ!!私の事は無視なのおぉっ?!」

…………はッ!!

「す、すみません。大丈夫でしたか?」

「あぅッ ごめんね。芭蕉はお蔭様で元気になったよ。ありがとう。」

「……いっいえ…」

……お蔭様でって…
思わず苦笑してしまう。
僕たちは、ただ貴方の姿を見て騒いで鼻こゆりしただけなんですが…
…まぁ、本人は嬉しそうだから良いか。

「ところで、さっきソラクンソラクンとうなされてましたが…」

「………うっ……」

おじさんの目から涙がこぼれ落ちる。
僕の言葉が、なにかしらの地雷だった様だ。

「―――ふわぁああぁぁあぁん!! 曽良くんがね、曽良くんがね!!」

おじさんが僕に抱き着いてきた。
なんとも言えない微妙な気持ちになったが、無下に振りほどくのも何だし、おじさんが泣き止むようにヨシヨシと優しく頭を撫でてやる。

……ヨシヨシ…

「……なっなんですか…?」

太子からの視線。

「止めるおま!! 妹子に抱き着くなぁあぁあぁ!!」

今まで無言だった太子がそう叫び、話が入ってきた。

そして、おじさんを僕から引きはがそうと、おじさんの頭を無理矢理引っ張る。
すると、おじさんは太子の力に逆らうように、僕に一層僕に抱き着いてきた。

あぁ… 何だよこの状況は…

話が拗れるフラグが、見事にたったな…


「ひぃいぃぃぃいいん」

「止ぁーめぇーるぅおまぁあぁぁああ!!」

「やだやだ芭蕉だって寂しかったんだもんッ」

「だからって妹子に抱き着くなぁあぁあぁぁ!!」

「ふぁあぁあああぁああぁあああ!! うわあぁああぁぁああぁ!!」







「やめいッ!!!!」







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