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□飴玉
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「…じゃあ話を整理しますよ。」

タンコブを頭にこさえた正座の二人が、僕の言葉にコクコクと頷く。

「貴方の名前は松尾芭蕉さん。俳句を創るために和国中を旅してる、と。ここまでは大丈夫ですか。」

「……はい。そして自慢のマッスルで土砂崩れをせき止めたりもしているのです。」

芭蕉さんの言葉に、太子が目を輝かせた。
…くそ、このやり取りは何回目だ…

「…二人とも。頭にもう一つアイスクリームを乗せられたくないなら、黙りなさい。」

「「はいいぃぃいぃぃッ!!」」

………たく…

「で、旅の途中に此処を通りかかった際、貴方は弟子である河合曽良くんと喧嘩し、半殺しにされたと。」

「…………うん…」

「……で、その曽良くんという人は何処に居るんですか。」

「…此処からちょっと離れた所に茶屋があるでしょ? 曽良くんはそこに居るって言って気がする。……気絶しかけてたから自信ないけど」

「……ふーん じゃあ一件落着だな。その茶屋に行って仲直りしてくるおま。頑張れよ」

太子が何処かつっけんどんに言い放つ。
とたん、芭蕉さんは涙目になり、太子を振り返った。

「………え?! 一緒に行ってくれないの?!」
「当たり前だ。お前はさっき妹子に抱き着いてたし…」

「うー… 飴ちゃんあげるから……ね?」

そう言って、芭蕉さんは鞄から飴玉を出した。
それをコロンと手の平で転がす。
すると、それまでそっぽ向いてた太子が、何処かソワソワし始めた。

「…そ…そんな飴玉1つくらいで…」

「じゃあ2つあげる。」

「よぉぉおしッ!!妹子ぉ!!私達が二人の仲を取り持つぞおぉぉおぉッ!!」

とどめだったようだ。

…燃え上がる太子を見て、舌打ちしたい衝動にかられる。
太子の「妹子に抱き着いてたし…」という言葉が、たかが飴玉2つに負けるなんて……。
そんな釈然としない気持ちで僕が二人を見てしまっていたことに芭蕉さんは気が付いたのか、「太子くんには秘密だよ」、なんて言って僕に飴玉を3つくれた。

……いや…そういう問題ではないと思うのだけど…

まぁそれは置いておいて…



こうして、僕たち一行は、芭蕉さんいわく「鬼弟子」こと曽良くんが居るという茶屋に行くことになってしまったのだ。







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