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□白玉餡蜜
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…嫌な沈黙が、僕たちが座っているこの茶屋の一角に流れている。
芭蕉さんと曽良くんは、どうやら甘いものに目がないようで、無言で注文した白玉餡蜜を頬張っていた。
太子といえば、すっかり曽良くんの気迫に蹴落とされてしまったのか、いつもはあんなに五月蝿いのに、黙って俯いていた。
…もしかしたら、単に人見知りをしているだけなのかもしれないけど。
僕も特に話す内容も思いつかなかったし、何よりこの話しかけにくい雰囲気に立ち向かえるほど強者でもなかった。
だから、黙って僕の目の前に置かれている白玉餡蜜を見つめていた。
可哀相に、長い間僕に放置されたせいでトッピングの生クリームが少し溶けはじめていた。
コロンと白玉が皿の上で転がる。
「……食べないんですか…?」
白玉の様子が目に入ったのか、曽良くんが僕に話し掛けてきて、この沈黙を破ってくれた。
「……い、いえ…」
そんな曽良くんに内心感謝しながらも、慌てて木製の匙で白玉を口に運んぶ。
「……あ! これ、美味しいです!」
…本当に美味しかった。
程よい甘さを帯びた白玉が、口の中でとろける。
しつこくなくて、後味も申し分なかった。
「…そんなに美味しいのか?」
太子がキョトンとした顔で僕を見る。
僕が、美味しいですよ、と言うと、太子も白玉を口に入れた。
途端、太子の顔が綻ぶ。
太子にとっても、この白玉餡蜜は美味しい味だったようだ。
可愛らしい笑顔を浮かべ、白玉を次々と頬張る太子。
なぜだか照れてしまって、太子から目を反らした。
「……よかったぁ…!」
と、芭蕉さんが、僕達に微笑みかけた。
「てっきり妹子くんと太子くんは甘いものがあまり好きじゃなかったのかな…て心配しちゃった!」
この白玉餡蜜を注文してくれたのは芭蕉さん達だ。
僕は慌てて首を振るう。
「とんでもない!僕も太子も甘いもの好きだし… そ、それにこの白玉餡蜜、とっても美味しいです!……でも…」
「……? どうしたの?」
「…本当に、僕たち奢ってもらっても良いのですか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!! 妹子くんたちのお陰で、芭蕉は曽良くんの元に来れたんだから!! お礼の印しだよ」
お礼の印し、か…
僕たちはただこの茶屋に付いてきただけだが…
……ん? そういえば…
「芭蕉さん。曽良くんと喧嘩したって言ってましたが、仲直り出来たのですか?」
芭蕉さんの顔が、サッと青く染まった。
そして、ガクガクという効果音が聞こえてきそうな動きで、恐る恐る曽良くんを見る。
どうやら、今までの出来事で、喧嘩をしていたことを忘れてしまっていたようだ。
「そっそそそ曽良くん さっきはそのぉー… ごめんなさいッ!! お願いだから芭蕉のこと見捨てないでぇえぇぇええ!! 坂道だって頑張って登るか」
「大丈夫ですよ芭蕉さん。僕はもう怒っていません。今回の芭蕉さんは、中々良い働きをしましたから。」
曽良くんがサッパリとした声で言いきる。
……ん…?
……芭蕉さんがした良い働き?
曽良くんが褒めるような芭蕉さんの行動なんかあったっけ…?
失礼だが、なんのことだか全然わからず、芭蕉さんを見てみた。
小首を傾げていた。
芭蕉さんにも心当たりがないらしい。
「……? 私、曽良くんに何かしたっけ?」
「…それは、」