魔法少女リリカルヴィヴィオ

□第二話 少年と少女
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 第二話『少年と少女』

 力が欲しかった。
 現代の人からすれば意味がわからないような言葉だろう。
 でも、本当にそんなことが言えるのだろうか?
 大切なモノを奪われて尚、そんな綺麗事を言える余裕が残っているだろうか?
 少なくとも俺は無理だった。両親を二人揃って奪われて、二人の事を忘れて自分だけ平和な日々を送るなんて許せない。
 殺してやりたい。引き千切って、すり潰して、抉り抜いて、恐怖で歪んだ顔をぐしゃぐしゃに斬り刻んで。
 それでも足りない。何をしようとも満たされない。
 てめぇだけは、許せねぇんだよ。ジェイル・スカリエッティ……。
 でも、何より許せないのは、思うだけで実行すら出来無い無力な俺だ。
 数年前から記憶すらおぼろげで、憎悪だけで生きている風間カナンってガランドウが、何より許せねぇんだよ……。

「くそったれ……」

 ここ最近、やたらと憎悪が心を満たす。
 俺自身を許せないのは本当だ。
 けど、最近は拍車がかかってイライラしている。
 それを今だけでも表面に出したのは間違いだったんだ。

「何が?」
「何でもねぇよ」
「へぇ……?」

 コイツが気付かないわけがないから。
 適当に答えるが、この瞬間に俺は失敗を悟った。
 後頭部をがっちりと掴まれる感覚。
 やばいと理解しながらも、指が離れる気配はない。
 つぅか何でコイツはこんなに力が強いんだ。仮にも女子ならもっとか弱いもんだと思うんだが。
 まぁいい。いくら文句言った所でもう諦めるしかない。

「私に隠し事するなんて、アンタいつからそんな偉くなったわけ? ねぇ? 聞こえてる? ねぇってば〜」
「いででででで!」

 とは言うものの、くっそこの怪力女め。
 棒読みでのアイアンクロー。少なくとも女子がやることじゃないだろう。
 正直、女子っぽいとこなんて皆無なんだが――。

「何か今ムカつくこと考えてるでしょ」
「ぐぅぉぉぉぉ……」

 ――結構マジで痛いんでやめてください。

「おお〜? 朝からラブラブだねぇお二人さん♪」
「どこがだこの能天気が!」
「おはようございます。カナン君」
「てめぇも暢気に挨拶してんじゃねぇよ!」
「つまり、カナン君は挨拶なんてそっちのけで愛を叫べと?」
「頭おかしいんですかカナン君……」
「コイツが頭おかしいのなんて今に始まった話じゃないじゃない」
「「確かに」」
「しばき倒すぞてめぇら……」

 ああ、どうしてやろうかコイツら、朝っぱらからすっげぇウゼェ……。
 さっきからアイアンクローかましてくれてるのが一之瀬祐希奈。能天気に笑ってるのは橘美鈴、場違いなボケ言ってるのが白河神楽。
 三人揃って俺に関わろうって言う変な奴らだ。
 年齢は俺と同じ13歳。私立聖祥大付属中の中等部一年。
 一応、コイツらとの関わりも3年目になるが――。

「アンタが? 私を? 出来るならやってみれば?」
「頭が、割れ、る……!」
「ま、今の体勢からどうやってって話だけど。正々堂々勝負しろって? 何で私がアンタのためにそんな譲歩しないといけないのよ?」

 ――この一之瀬祐希奈との関わりは特に深い。
 正確には深くなってしまったってのが正解で、学校なんてとこに引きずり出される始末。
 これが許せないんだ。
 力を求めてるくせに、こんな生活も悪くないと思う自分がいて、違うだろ。こんなことしてる場合じゃないし、本来なら関わるべきじゃない。俺が望みはここには無くて、遂げるべき目的はスカリエッティへの復讐。
 コイツらといるとそれを忘れそうになる。
 
「離せってんだよ!」
「っ!」
「ありゃ?」
「カナン君?」

 そんなことを考えていたからだろうか。
 いつもなら祐希奈が満足するまで我慢するだけなのに、振り払ってしまったのは。
 悪いことをした。別段祐希奈に悪気は無くて、いつも通りでいようとしてくれただけ。
 粗暴なようで祐希奈は聡い。俺が変なことを考えていることくらいわかった上でいつも通りからんでくれたんだろう。
 謝らないといけない。頭ではそうわかっているのに。

「チッ……」

 身体は言うことを聞かない。
 後で、謝ろう。
 そう理由をこじつけて、俺はその場から逃げた。
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