魔法少女リリカルヴィヴィオ

□第四話 漆黒の剣
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 視点・カナン

「あの、大丈夫……ですか?」
「へ?」

 我ながらすっとぼけた声をあげてしまった。
 まさか声がかかるとは思ってなかったから。
 何故、ここがバレたのかはわからないが、十中八九俺に利のある来訪ではないだろう。剣を引き抜いて出迎えた。
 草むらから現れたのはツーサイドアップにした金髪と、紅と翡翠のオッドアイを持つ女の子だった。
 お世辞抜きにして可愛かった。
 不本意ながら朴念仁やら唐変木やらの称号を持つ俺でさえ心臓が跳ねた。
 こんな反応は祐希奈以来だ。まぁ、アイツの場合は中身が中身だけに見た目に騙されるとえらい目見るんだが、この子はパッと見はそんなことはなさそうに見える。
 とはいえ、油断は出来無い。
 手に持つのは、デバイスであろう杖。局員かもしれない。
 いぶかしんでいると戦いに来たのではないという意思表示なのかニコリと笑って杖を消した。
 取り合えず、相手の情報を探らなくては始まらない。

「何だお前……。局員か?」
「私ですか? 私は高町ヴィヴィオっていいます。階級は二等空尉。肩書きだけだけど」
「……お、おう。なるほど」

 はずだったのだが、この女の子は全開で暴露してくれた。
 いや、普通もうちょい隠そうとか思わないだろうか。俺も変な対応しちまったじゃねぇかよ。っつぅかそれでいいのか管理局員。人手不足だからって人事採用いい加減だろう管理局。
 もしかしたら、これは策略なのかもしれない。とぼけているように見えて実はこの子は切れ者――

【マスターいきなり正体をばらしてどうするんですか……?】
「ん? あ、まずかったかな?」
【まずすぎです。せめて階級くらい黙っていてください。二等空尉なんて階級、普通は思いっきり警戒されますよ?】
「そ、そうなんだ……。えと、後半は聞かなかったことにしてもらってもいい?」
【……フォロー出来ません】
「ふぇ?」

 ――なわけは無かった。ただのポケポケしてる子でした。
 寧ろ使われる側のデバイスの方がちゃんとした対応してるんだがどうすればいいんだろうか。
 デバイスか。デバイスと交渉すればいいのかこの場合?

【ほら、マスターがおかしなことを言ったせいで少年が混乱していますよ?】
「わ、私が悪いのかな?」
「寧ろお前以外に原因がいないんだが……」
【清清しいほどにマスターしかいませんね】
「……ごめんなさい」

 頭下げたぞ局員。
 法を取り締まる側が法を乱す側に普通に頭下げたぞ。
 打たれ弱すぎるだろうこの子。
 弄りやすそうな性格にしろ、容姿にしろ、祐希奈が好きそうだとなんとはなく思う。
 このやり取りを含めて大掛かりな策略を容易しているなら大した演技力だ。

「そんなに変なこと言ったのかなぁ……」
「ああ。かなり」
「うぅ……」
【初対面の相手に変と言われれば認めるほかないでしょう?】
「普通にお願いしただけなんだけど……」
「普通ではないな/普通ではありませんね」
「ふぇぇ!?」

 まぁ、それは無いだろうと判断した。
 コロコロと変わる表情から故意的な所は感じられないし、あくまで自然体。
 だからかもしれない。俺が警戒を解いてしまったのは。

「さっきから普通じゃない普通じゃないって、じゃあ何が普通だと思えば……」
「初対面なんだし、始めまして。俺は風間カナンっていいます。よろしく。くらいだろ?」
「あ、そっか。階級のことなんて言ってもわかんないかもしれないもんね」
「必要な相手なら言えばいい。少なくとも俺にはいらん」

 思わず自分の名前を教えてしまったことに気付く。この子のことを言えない。無警戒にも程がある。
 気付いた時にはすでに遅い。この子も気付いたのか嬉しそうに笑っている。

 ――まぁ、いいか。

 その笑顔が可愛くて、許せてしまった。
 中々の反則技をお持ちのようだ。美鈴曰くニブチンの俺でこれなら大概の男はノックアウトに違いない。

「風間さん?」
「寒い。止めてくれ……。慣れてないんだ」

 少しの間思考が停止していたせいか、いきなりの不意打ちに寒気が走った。
 昔から苗字で呼ばれるのは慣れてない。特に面と向かって言われると怖気が走る。

「じゃあ、カナンさん?」
「さんもいらねぇ。呼び捨てでいい」
「んー、カナン君?」
「あー、もういいよそれで」

 即座に順応してくれたのは嬉しいけど、どうにもむずがゆい。美鈴と神楽にも同じ呼び方をされてるが、こんな気分になったことはないというのに。

「カナン君、カナン君」
「何だ?」
「あ、ごめんね。呼んでみただけなんだ」
「さいですか……」

 あーもう、何なんだろうこの子は。
 人の名前ぶつぶつ連呼してるし、やたら嬉しそうだし、呼ばれるこっちの身にもなってほしい。
 はにかんだ笑みを浮かべて、たまにえへへとか頬緩めてるし、何がそんなに楽しんだか、こっちが恥ずかしくて耐えられない。

「なぁ、えーと……」
「あ、私のこともヴィヴィオでいいよ?」
「りょーかいしました。高町さん」
「ヴィーヴィーオー!」

 よし、中断成功。
 にしても、思ったとおりの反応を返してくれる子だ。
 ついさっき知り合ったばかりとは思えない。
 何をしているのやら。こんなことをしている場合ではないというのに。
 頭ではわかっていても、久しぶりに感じる安らぎの誘惑は強かった。
 ヴィヴィオは局員だ。本来なら俺を追う立場にいるはずで、逃げなければならない相手。

 ――局員?

 先ほどの会話の内容を思い出す。二等空尉。それがヴィヴィオの階級だったはずだ。
 肩書きだけとは言え、下位にある管理局員よりは情報を持っているはずだ。
 三分の一しかない確立を減らせる可能性がある。そうなればスカリエッティを殺せる可能性が上がる。
 そう考えた瞬間、いきなり憎悪が鎌首をもたげた。
 これが悪魔を呼び起こすスイッチだったのだろう。
 封印処置を行った直後であるはずの剣が、脈打った。
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