魔法少女リリカルヴィヴィオ

□第六話 勝者
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 第六話『勝者』

 世界は次元世界ミッドチルダ。場所は湾岸地区機動六課。現在時刻は午後の一時。仕事でさえなければロングアーチスタッフも外に出て身体を動かしたくなるような雲ひとつない快晴。
 そして、前線メンバーにとっては、絶好の訓練日和である。
 本来ならばメンバー揃って鍛錬に励むはずだったが、訓練所に立つのは高町ヴィヴィオと一之瀬祐希奈の二人だけ。
 なのはが特別に認め、二人の模擬戦を許したためだ。
 フォワードメンバーは見学または自主トレということになったのだが、好奇心に勝るものは無く、揃って見学、ということになっていた。
 それは他の面々も同じなのか、なのは以外の隊長陣まで加わっている。

「な、なんか、ぴりぴりしてるね?」
「喧嘩してるって話だったけど、あのヴィヴィオがねぇ……」
「あんなに怒ってるヴィヴィオ初めて見たかもしれません」
「ちょっと、怖いかも……」

 幼さすら残す二人だが、無言でストレッチをこなす様を見て防災士長となったスバル・ナカジマが冷や汗をたらす。
 苦笑を浮かべながら怖いというキャロにフォワードメンバーの四人はうんうんと頷く。
 普段どれだけぽやっとしていてもやはり高町なのはの娘だということを実感した。その高町ヴィヴィオに立ち向かうのは魔導師になって間もない少女だと言う。

「ティア、どうなると思う?」
「無理。勝てない。そんなに甘い世界じゃない。経験差があり過ぎる」
「だよね……」

 ティアナが勝負にならない。と思うのも無理はない。
 純粋にそう思わせるだけの実力をヴィヴィオは持つ。元より訓練校の中でも頭一つ分抜きん出たのがヴィヴィオだ。覚えたての拙い技術でひっくり返る実力差ではない。

「勝負はやってみなくちゃわからないよ。単独でここまで転移出来る魔力量、固い意志。何より祐希奈って子は緊張してない」

 ヴィヴィオの親であるなのははわからないと見解を述べる。
 祐希奈という少女にとって、ここはアウェーだ。
 見知った顔一つ無く、相手の仲間達に囲まれているという状況は度量の小さい器ならば動作に何かしらの変化が起こる。
 だが、少女は淡々とストレッチをこなし、ヴィヴィオだけしか見ない。ヴィヴィオしか見えていないと言うべきか。
 才能は未知数、意思は堅牢、緊張は皆無。
 これだけの要素があれば逆転もありえる。
 だから、ヴィヴィオのあの真剣な様子も相手を認めてのことだろう。
 最も、それ以外の要因も多分に含まれていそうだが。
 そう考えて、クスリとなのはは笑った。

《あの子と、一之瀬さんと戦いたいの。迷惑だって言うのはわかってるけど、この勝負だけは譲れない。ママ、お願い!》

 ――ヴィヴィオの我侭、久しぶりだったなぁ。

 これは先日の夜の話だ。
 病み上がりのはずのヴィヴィオにお見舞いに行こうと部屋を訊ねた途端にこんなことを言われて目を丸くした。
 何故そんなに焦っているのか、何故頼み込んでまで模擬戦を行いたいのか、それはなのははわからない。
 事実はいつも素直過ぎるヴィヴィオが我侭を言ってくれているということ。
 理由は今日尋ねてきた子と喧嘩をするからだとヴィヴィオは言った。それ以上は教えてくれなかったし、本人もよくわからないと言っていた。
 ただ、それが驚いた。
 ただ、それが嬉しかった。
 喧嘩をするということと、理由もわからないということその両方が。
 わからないことだらけで混乱しているヴィヴィオが愛しい。わからないのに怒っているヴィヴィオが愛しい。
 愛しい我が子に道を示さずして誰が親だと認めるのか? 誰も認めないだろう。
 だから、なのはは道を示す。己が信じる道を。術を。

「わからないから、この模擬戦を認めたんだ」

 全力でぶつかり合える場所を与え、ぶつかって来いと教えた。
 痛いかもしれないし、実際痛いだろう。
 でもその果てには答えが見えてくると信じているから。

「これ以上わかりやすい手段はありませんからね。――モニタリングの準備、オーケーです」
「ありがとう。シャーリー」

 そうで無いならなのはが自分が組んだ訓練メニューを変更するなど在り得ない。
 なのはの思惑を理解しているのかいないのか、恐らくは後者だろうが、どちらにせよ全力でぶつかることには違いあるまい。
 それで良い。そのために舞台を用意したのだから。
 シャリオが訓練施設に設置されたスフィアから送られてくる映像から二人の状態を展開。
 魔力量、疲労、リンカーコアの状態、メンタルに至るまで、今の技術で展開出来るありったけの情報を一度に展開し、シャーリーはサムズアップ。
 頷き返して快晴の元、なのはが手を振り上げる。ここに、勝負の火蓋は切って落とされようとしていた。
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