魔法少女リリカルヴィヴィオ

□第七話 入隊!
1ページ/4ページ

▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 第七話『入隊!』

「「昨日は本当に申し訳ありませんでした!」」
「……あはは。怒ってないから大丈夫やよ〜?」

 朝九時。ヴィヴィオと祐希奈の二人は早々に部隊長室へ突貫。驚くはやての前で深く頭を下げた。
 あまりの勢いに一瞬呆けたはやてではあったが、すぐに喧嘩のことであると理解したようで、心配ではあったがなのはから事情を聞いていたはやては朗らかな微笑を浮かべて頭を上げるように促した。
 
「その様子やと仲直り出来たんか?」
「ばっちりよ!」
「……祐希奈さん、敬語。敬語」
「えー、だってめんどいじゃない? ね? いいでしょ。はやてさん?」
「公的な場以外なら構へんよ。その代わり私も祐希奈って呼ぶけどええかな?」
「全然オッケー♪」
「もう……」
「なんならヴィヴィオもそうすれば?」
「ええかもなぁ。私も一応保護責任者やったんやし、なのはちゃんやフェイトちゃんみたいに楽に話してくれてもええんよ?」
「出来ませんし、やりません。私は六課に所属した時点ではやてさんの部下ですから」
「固いわね……」
「祐希奈さんが柔らか過ぎるの!」

 ある意味柔軟すぎる祐希奈に隊員としてのあり方をつらつらと述べるヴィヴィオだが、祐希奈は聞いているのかいないのか――後者であろうが――にははと笑って受け流す。
 礼儀作法など楽しさ最優先で考える彼女にとっては二の次。合わない相手は何をしたところで合わない。無駄なことはしない。よって敬語も使わない。
 そんな彼女の最近の娯楽の一つがある。

「柔らかいと言えば〜、ヴィヴィオのほっぺよね♪」
「ふぇ!?」
「じゅるり……」
「ゆ、祐希奈さん? 今はそういう話じゃなくてね?」
「むにむにーーーーーーー♪」
「にゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「おー……」

 言わずもがな、ヴィヴィオ弄りだ。
 周囲をぐるぐると旋回し、机を飛び越え、壁を蹴り、スライディングではやての股をくぐり。
 ヴィヴィオが逃げ回り、祐希奈がそれを追い回す。揃って身体能力が高い故に部屋のあらゆるものを利用して逃走ないし追撃を行う二人。さながら犬と猫といったところか。
 部隊長であるはやての部屋は物が多いこと災いしてか、二人が走り回るだけで大量の物が四散する。
 被害者であるはやてはと言うと怒るよりも感嘆の溜息を漏らし、そのまま呆けることさらに三秒。

「あははは!」
「「?」」

 いきなり笑い出したはやてに二人して動きを止めて首を傾げる。

「あぁ、ごめんなぁ? あんまりにも二人が仲良くしてるから」
「そう? これくらい普通じゃない?」
「うん。そうやな。普通なんかもしれん。でも私はそれが嬉しい」
「意味わかんないんだけど……」
「部隊長……」

 何がおかしいのかわからないと言った様子で祐希奈は肩を竦めるが、ヴィヴィオは何かを感じたようで複雑な表情を浮かべている。
 友達と過す穏やかな時間は祐希奈を含む一般市民にとっては普通でも、ヴィヴィオにとってはそうではない。
 常に自らに厳しくし、強くなるために突き進んできたヴィヴィオには友達との触れ合いなど無いに等しい。
 そのヴィヴィオがこんなにも自然に遊びまわっている。そのことがはやては嬉しいのだ。
 
「それだけ仲良しなっとるゆうことは、これからも問題なさそうやね」
「はい。朝少しお話して、一緒に頑張ろうってことになりました」
「良かった。これで安心して今後のお話が出来るわ」

 そのお話というのは祐希奈の乱入によって先延ばしにされていた事柄――カナンのことについてだと二人は理解した。
 まず第一に二人が懸念しているのはカナンが関わっている事件の担当に六課が選ばれるかどうか、ということだが。

「一先ず、この事件はロストロギアが絡んでるゆうことで管理部である六課に一任されることになった。必然的にカナン君の扱いも六課が担当ってことで話は通ってる」
「「良かった〜……」」

 はやての言葉に少女二人は安堵の溜息を漏らす。
 これで事件から外されでもしたらどうしたものかわからなかったからだ。

「ほんなら、ヴィヴィオ?」
「はい」

 その一言でヴィヴィオは前に進み出る。
 はやては少しでも多くの情報を欲している。そう察したからだ。

「今回の事件の中心にいる人物は風間カナン君。年齢は私と一之瀬さんと同じ十三歳です。
 ロングアーチの方でも捉えているとは思いますが、今回彼が行ったことは無差別な破壊活動ですが、被害状況からなんらかの封印処置を行ったものを推測しました」
「意図して破壊活動をしたわけではないゆうことかな?」
「はい」

 理由は二つ。
 一つ目はフェアリーが魔力の方向が均一過ぎると指摘した。
 無差別破壊を行うなら圧縮したあとに放出すればいい。だが、カナンは終始抑え付けたまま終わっている。
 二つ目はカナンがその場に寝ていたこと。
 破壊が目的ならば現場から逃走していなければおかしい。管理局が気付かないはずもないし、全力を使い果たして倒れて捕まっては意味がない。
 あまつさえカナンは管理局員であるヴィヴィオと会話までしている。普通に接してくれていたし、笑ってもいた。
 少なくとも最初の段階では犯罪者特有の狂気というものがカナンには一切なかったのだ。

「本当は優しい人、だと思うんです」
「祐希奈から見て風間カナン君はどうやった?」
「……まぁ、ちょっと大人びてるとこはあるけどどこにでもいる中学生よ」

 そんな無差別破壊を好むような人間ではない、と憮然とした表情で祐希奈が語る。
 表情が不機嫌に歪んでいるのはこれが好ましい質問ではないからだろう。
 これは地球で言う事情聴取のようなものだ。仕方のないこととは言え、友達が疑われて嫌な顔をしないわけがない。

「祐希奈、あのな?」
「……わかってる。でも、ポーカーフェイスで流せるほど大人じゃないからそこだけは許して」
「堪忍や」

 理解を示してくれた祐希奈に感謝しつつ、はやてはヴィヴィオに先を促す。
 カナンが優しい子であるかもしれないということはフェイトからの証言である程度わかっていた。
 問題はその前、何があったのかということ。その場に立ち会ったヴィヴィオが口を開く。

「仲良くお喋りしてたんですけど、いきなり人が変わったみたいに冷たくなって……」
「きっかけはわからへん?」
「ジェイル・スカリエッティ、だと思います。復讐だって、言ってましたから……」
「ここでその名前が出てくるかぁ……」

 紡がれた言葉ははやてが頭を悩ませるのに十分過ぎる言葉であった。 
 ジェイル・スカリエッティ。機動六課でその名前を出せば笑顔でいられる隊員などいないだろう。
 はやてとヴィヴィオも例に漏れず視線を落として俯いた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ