魔法少女リリカルヴィヴィオ
□第八話 祐希奈とカナン
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第八話『祐希奈とカナン』
「「はぁ〜〜〜〜〜」」
二人揃って溜息をつきながら二人揃ってベッドに倒れこむ。
ボフッという音を立てて包み込んでくれるこの暖かな存在が疲れた身体にはたまらなく心地良い。
入隊式は一言で言えば「凄かった」に尽きる。
何がと聞かれればスピーチの後のパーティが。もう少し詳しく言うならそこで押し寄せてきた人波が、だ。
新人二人。なのはの娘。異世界の協力者。揃って美少女。これだけのネタがあれば嫌でも気になる。
自己紹介に告ぐ自己紹介、度重ねて求められる握手に新人二人の少女は懸命に対応するも、疲労というものは誰しも訪れるものであり、はやての計らいによって二人はパーティを抜け出してきたのだ。
「はやてさんには感謝ね……」
「うん。部屋も同じにしてくれたし、優しい人だよ。本当に」
「あ、それだけど、良かったの? 他に仲良い人いるでしょ?」
「ううん、私も祐希奈さんとがいいなって思ってたから」
「そりゃあ光栄なことね」
「こちらこそ、かな?」
ニコリと笑う祐希奈にヴィヴィオも微笑んで返す。
それが極自然に出来たことに自分でも驚いていた。以前の自分ならばありえない。同期の子にもこんなに自然に笑えたことはなかった。
「可愛く笑うようになったじゃない」
「そ、そう、かな?」
「うんうん。抱きしめて独占したいくらいに可愛くなったわね♪」
……喜んで、いいのかな? いいんだろうな。
多分、喜ばしいことなんだろうと思うことにする。何やら祐希奈の目に邪なオーラが漂っているような気がしないでもないが。
「こんな可愛い子が、アイツにねぇ……」
「祐希奈さん?」
笑みの種類を苦笑に変えて祐希奈が寝返りをうち、うつ伏せから仰向けに。天井を見る瞳は何を考えているのか計れない。少なくとも今の自分には。
今は天井を見つめている彼女は瞳を閉じている。眠っているわけではない。何かを考えているとなんとなくわかる。
「ねぇ、ヴィヴィオ?」
「何?」
「汗、かいてない?」
……えーと?
あまりにも話の脈絡が無さ過ぎて頭が混乱した。
かいてるかかいてないかで言えばそれはもちろんかいている。あれだけ人波に揉まれたんだから当たり前。
けれどそれとさっきの思考の時間の関連性が意味がわからない。
「私ね、慣れないことばっかしたからさ、変な汗かいて気持ち悪いのよね」
「う、うん。大変だとは思うし、それは私も同じだけど」
本当にそう思った。完全にアウェーの環境にいる祐希奈の心労はかなりのモノだと推測できる。
きついだろうし、疲れるだろう。けれどそれを今暴露してどうなるのだろうとヴィヴィオは思う。それよりもさっきの沈黙の時間が気になって仕方がない。
ヴィヴィオの返事に「よし」と満足げに頷いているのもまたわからない。
ただ、何か返事の仕方を間違えたような気がして――
「なら、一緒にお風呂入らない?」
「……ふぇぇえ!?」
「じゃあお風呂場にレッツゴー♪」
「何で!? 何で!?」
「ふふふ……」
「絶対おかしなこと考えてるよぉぉぉぉぉ!!」
――多分それは、事実だ。
必死の抵抗も空しく、部屋に備え付けのバスルームへと引きずられていく天然金髪さん一名なのであった。