銀魂〜突撃! 真選組!!〜

□原作リメイク
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〜連載明けは、みんな結構大人びて見える〜












 









 車窓の景色が、緩やかに変わっていく。土方十四郎と名乗った男は、笑いながら話を続けた。






「どちら様だなんて酷いなぁ。『二年後、シャボンディ諸島に集合』って約束だったのに。忘れちゃった?」






「イヤ知らぬけどそんな約束ゥ!! 他の奴とした約束持ち込んで来んじゃねぇよ!!」






 江戸に帰還してから、後部座席に座る恋歌と眼鏡もとい新八は頭の整理が追いつかずにいた。





 彼等を乗せたパトカーは、緩やかなスピードで真選組屯所を目指していた。






 助手席から、容赦なく土方を殴る山崎。それを返り討ちにする事なく笑って流す土方。






 そんな光景を、現実逃避も混じった目で眺めながら新八と恋歌は小さな声で話し合った。







「須藤さん、僕の記憶が正しければ土方さんはあんな爽やかに笑いませんよね? 山崎さんに殴られて笑っていられませんよね?」






「ああ、貴様の記憶は正しい。そして私の記憶が正しければ、貴様と私は初対面の筈だが?」






「その記憶は間違ってます。でも気にしませんよ。僕の記憶が正しければ貴女はそんな人ですから」







 腰を落ち着けて、車の揺れに身を任せれば、一気に頬が痩せこけたような感覚に襲われる。






 そんな二年後の世界とやらに取り残された彼等を放って、土方は口を動かしながらハンドルをきった。






「僕も色々あってねぇ……」






「ありすぎでしょうよ!! 一体何があったら瞳孔どころか瞼が閉じるようになるんですか!!」






「近藤さんが寿退社してから局長に就任したんだけど、以前のような恐怖政治じゃ誰もついて来ないことを痛感してね?」






「何があった!! 私の留守中に一体何があったんじゃ真選組に!!」







 プロフェッショナルなツッコミと、不慣れなツッコミをスルーし、土方は続ける。







 要するに、今までの局中法度や士道に背いたものは切腹などというスパルタが通用しなくなったという事だろう。






 それで彼なりに色々考えて、生き方もマヨネーズもカロリー二分の一にしようと思ったらしい。






 彼の考えるままに行動すれば、次第に部下達も声をかけるようになったそうな。






 最終的に『真選組仏のパシリ、トシさん』と呼ばれるようになったそうだ。






 顎が外れそうなほど口を開けて絶句しても、車は止まりはしない。







「でもまさか恋歌ちゃんが帰ってくると同時に新八君働くことになるなんてー。何か照れるね」






「色々よく分からんが取り敢えずちゃん付けは止めようか気持ち悪いから!! ゾワッてなるから!!」






「銀さんや神楽ちゃんは元気? 一緒に来ればよかったのに。近藤さんが居なくなってから寂しくてねー」






「ヒジカタアアアァァァァ!! いい加減にしろオォォ!! それでも土方か!! 土方なのかアアァァ!!」







 叫ぶ新八を他所に、恋歌はある不安を抱き始めていた。






 うつくもが連載終了してからシリーズ再開に至るまでの僅かな時間でこの変わりようは確かに驚きものだ。






 だが、連中に限って、果たしてこれだけで済むものなのだろうか。何かもっとある気がしてならない。






 しかしそんな彼女の不安を嘲笑うかのように、パトカーは移動を続けていた。

















「真選組怪童オォォ!! ソウゴ・ドS・オキタ3世閣下にイイィィ!! 敬礼イイイィィィィィィィンヌァ!!」





 懐かしの屯所は、その面影すら跡形もなく消え去っていた。





 加藤みどりならば、この悲劇的なビフォーアフターっぷりに『何ということをしでかしてくれたのでしょう』と言うに違いない。






 消えないカイザーコール。部屋の一番奥の玉座に鎮座する、沖田らしき青年。






 恋歌はもう背筋を伸ばしていられる気力もなかった。






 カイザー……いや、ここは敢えて沖田と書いておこうか。彼の制止でようやく止むコール。






 沖田は朗々とした口調で、話を始めた。






「新生真選組帝国誕生より二年」






(帝国ゥ!? 帝国なのコレ)






 などという心のツッコミが沖田に聞こえるはずがない。演説は続く。






「諸君の働きにより、我が帝国は着実に勢力を拡大し、今や江戸の大半を勢力下に置くことに成功した」






「スイマセン! さっきから出てくる単語がとても警察が口にするものとは思えぬのだが!!」






「将軍を血祭りにし、江戸城に我が帝国の御旗を建てる日も、そう遠くはないだろう」






「「それ攘夷浪士だけれどオオォ!?」」







 恋歌が久々に帰って来た真選組は、もはやただのテロリスト集団以外の何者でもないのか。






 どうなる真選組。どうなる江戸。いや、どうなる地球。






 着々と広がりつつある彼らの不安感が更に大きくなっていく。







「しかし、初戦を前にどうしても落とさなければならない要所がある」






 難攻不落の鉄の街。江戸中の荒くれ者が集まる無法都首。かぶき町。






 この街を落とさずして江戸城を攻めれば、必ずや後顧の憂いとなる。






 しかし安心しろ。如何なる頑強な城塞とて必ず弱点がある。






 その手段をこの度手に入れた。








 沖田の合図と共に、新八の後ろにいた隊士達が一斉に刃を向けてくる。






「かぶき町きっての猛将、坂田将軍の縁者を人質に取った」






 コレを利用すればあの鉄の街も容易く落ちよう。いつの間にやら、剣を向けてくる隊士達が八方に立ち塞がる。






 新八は咄嗟に、隣にいるはずの恋歌に向けて彼等を何とかするように体ごとむけた。






 しかしその恋歌がいない。よく探すと、四面どころか至る面で楚歌が歌われている中に、彼女がいた。







「チョット待てエエェェ!! お前は何をやっとんじゃアァ!! 何アンタまで僕に攻撃的なんですか!!」





「だってツッコミ疲れたんだもん」






「『だもん』じゃねえんだよ!! 全然可愛くねえんだよ!! イラッとくるんだよ!!」






 そのツッコミのとおり、殺意むき出しの刃を向けてくる恋歌の表情に可愛げなどない。






 惜しげもなくふてぶてしい表情を披露しているではないか。



 顔面に一発拳をぶち込みたい衝動を抑えて、新八は沖田に向き直った。






「それにしたってアンタ何時から江戸征服なんてベタな野望考えてたんですかバカイザー!!」






「おい、バカイザーはないだろう。せめてちゃんとバカカイザーと言え。併せ技は腹立つ」






 沖田の出で立ちは、真選組の隊服の上に、赤地の布を黄色く縁ったマントを羽織っているだけ。






 ただそれだけなのに、彼からは並々ならぬカリスマ性が解き放たれている。






 一瞬声を落としてツッコんだ後、またすぐによく通る声を出して話し出した。






「本来なら処刑してやるところだが人質として使うまでは生かしておいてやる。土方、連れて行け」






「はい。バカイザー」






 仏の笑顔を崩さないまま、土方が敬礼する。






「山崎。ソイツを殴れ」






「ハイ! バカイザー!」






 アホのような笑顔を崩さないまま、山崎が敬礼する。






「須藤。そこの二人を斬れ」






「はーい。バカイザー」







 突如起こった、このプチ流行には流石にバカイザーも露骨に嫌な顔を浮かべる。






 しかし、人質以外を処刑しろと隊士達に命ずれば、各々の声がピッタリそろって帰ってくるのだ。






 「はい! バカイザー!」と。





「よし分かった。明日からバカイザーに改名する。但し『バ』の音は聞こえるか聞こえないくらいで言え」






 その言葉が聞こえた直後、枷をはめられた新八は山崎に引っ張られて大広間を後にした。























 
 一体、どうなっている。






 土方……といって良いのか今やあやふやになっている男や山崎と新八を連行しながら、恋歌は考えた。







 先程から、皆一様に「二年」という言葉を使うが恋歌の体内時計が正しければ、そんなに経っていない。







 皆に何かあったのか? あったと仮定して、隣で半べそかいた眼鏡が皆の様に何らかの変化を遂げなかった理由は何なのか。






「もうこんな世界嫌だ。ここに……僕の知っている皆はいない」






「弱気になるでない。きっと貴様のような奴が他に一人や二人は……」






 終いに愚図りだした新八に、かけかけた声が止まる。






 激しい激突音が聞こえて、短い悲鳴が聞こえたからだ。






 振り返れば白目を向いた山崎が床で伸びている光景が彼等の視界に広がる。









「ベソかいてんじゃねえよ情けねえ」




 聞きなれた声がした。






 次に、カチャカチャと金属音が鳴り、ガランと大きくなった頃には新八の手が自由に動かせるようになった。







「ようやくまともな奴等を見つけたと思ったら……これじゃ役に立ちそうにねぇなあ」






 台詞と共に、煙たくて体に悪そうな匂いが鼻をくすぐる。






「ひ、土方さん!?」





「お前……も、もしかして……!!」






 彼らは、魔王に支配された村に住む人間が勇者に向けるような眼差しで、土方を見た。







「俺もお前等と同じ……『二年後』とやらに取り残された人間だ」







 煙草の先端からは、灰色の小さな煙が立ち上っていた。
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