銀魂〜突撃! 真選組!!〜

□原作リメイク
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〜冬休み明けは流石に大人びては見えない〜





 土方と新八の間で行われている鍔迫り合い……いや、ハリセン迫り合いを恋歌は呆然と見ていた。






 そして、ハッとしたように口を開く。






「何をしとんじゃ貴様はあああああああああ!!」







 ようやく少し慣れてきたツッコミを、土方は意に返すことなく。






 新八のハリセンを受けながら、妙に……正確には彼女が抱える赤子に顔だけを向けた。






「その前髪は……そのV字前髪はまさかっ……!!」






「ンな訳ねーだろ!! 何で全く接点もない二人に子供が出来るんだよ!!」






 新八のツッコミを他所に、昼間のドラマ並に泥沼化した男と女の物語は続く。






 妙が、抱えていた赤子と共に、土方の胸に寄り添ったのだ。






 彼女の背中に、髪には。土方の手が添わないまま、妙は口を開く。






「ごめんなさいトシさん。私やっぱり隠しきれなかった。貴方への想いを押し殺して勲さんと仮面夫婦を続けるだなんて」





「ちょっとオオォォ!! 姉上もとんでもないビッチに成り下がってんだけどオオオオォォ!!」






 自分と、そして子供を、ゴリラのいない世界に連れて行って。





 逼迫した表情に目つきで訴え掛ける妙。





 しかし、土方はそんな妙の両肩を掴んだと思うと、無情にも引き剥がしてしまう。






「そんな安い手に俺が惑わされると思ったか」






 シリアスパートと何ら遜色ない、刺や針をたっぷりと含んだ声色。






 彼はこの口調を崩さず続けた。






「さっさと子供だけ置いて消え失せろ。俺が面倒見る」






「思いっきり惑わされてんだろうがアァ!!」






 それだけツッコミを入れて、新八はほんの一瞬だけ恋歌の方を見る。






 もはやサンドバッグと化した李麻の胸ぐらを掴んだまま、眉の一寸たりとも動かさず昼ドラを見ていた。






 まるで、停止ボタンを押したかのように彼女の周りだけ時間が止まっているようだ。






 ご愁傷様。と冥福を祈り、妙の代わりに赤子を抱きかかえ、新八に迫る土方に向き直った。






「オイ。この子だけは見逃してくれねェか。十五郎だけは俺の手で育てさせてくれねェか!?」






「落ち着けエエェェェ!! 十五郎って誰……」






「いい加減にしろ」






 新八の声を遮って、恋歌の声を無機質にしたような声がボソリと響いた。






 乗りかかっていた李麻から立ち上がり、こちらを向いた彼女の顔は、能面のように表情がない。






 憤慨、嫉妬。あまりに多く押し寄せて来たがために、無我の境地に達したのだろう。






 僅かな光も宿さぬ目が、土方と、「十五郎」と付けられた赤子に向けられていた。






「いきなり訳の分からん事を言い出して……いきなり十五郎とか言われても納得筈がなかろうが」






(そりゃそうだよね。そりゃ怒るよね。怒って当然だよね)






 新八がそう思う中、無表情のまま、怒り狂うことなくそう告げる彼女に、土方は悲痛な表情を浮かべる。






 それが癪に障ったのだろう。恋歌の血管が大きな音を立てて切れた。






 同時にハリセンを握り締め、切っ先を土方に向けて、あらん限りの声を上げた。































「いくら何でも『十五郎』は安直すぎるだろうがアアアアアアァァァァァァ!!」






「怒るトコそこおおおおおおおおおおお!?」







 既に、土方とハリセンの打ち合いを始めた恋歌に、新八のツッコミが届くはずも無く。






 最初こそ受身に回っていた土方であったが、徐々に十五郎を抱えながらの戦闘にも慣れたのか互角に張り合いだした。







「子の名は一生モンだぞ!! もっとちゃんと考えたヤツを付けてやらんか!!」






「どこが安直だ十四郎の子供だぞ十五郎でいいだろうが!!」






「それが安直だと言うんじゃバカタレが!! じゃあお前の父ちゃんは十三朗なの!? お爺ちゃんは十二郎なの!?」






「何でそんな一番どうでもいいトコで喧嘩が盛り上がるんだよ!! バカかオメー等はよ!!」






「「うるせえすっこんでろ!!」」






「うぜーよ!! 久しぶりだなそのパターン!!」







 ギリギリギリ。ハリセンで争っているとは思えないような音が周囲の鼓膜を震わせる。その時だった。














「へぇ。十五郎っていうんですかぁ」






 妙な声と共に、ガラガラ……と何かを転がすような音がする。






 ハリセンでの争いは、その音でピタリと止まった。






 見てみれば、真っ赤なドレスに帽子を身に纏う人間が、ベビーカーを押していた。






 黒いパンプスが、コツコツと心地良い音を立てている。






「可愛いお子さんですねぇ。ちょっと抱かせて頂いてもよろしいかしら」






 ベビーカーごと土方の正面で立ち止まり、その人間はそう言った。






 土方は、十五郎の首がまだ坐っていないことを告げてから了承する。






 イボでありながら、息づく小さな命はそうして得体の知れない人間の手に渡った。






 本当に可愛いお子さんだこと。と優しげな声で十五郎を褒め称える。






 その際に、父と母の容姿の事にも触れるあたり、それなりに年増の人間らしい。






 顔を土方達に真っ直ぐ向けると、目深に被っていた帽子からその人間……近藤が姿を現した。






 愛する女性の愛は自分にではなく、自分の部下に一直線に向いていた事実を既に知ったのだろう。






 目つきが、確実に不法に人を殺し回っている人間のそれだ。






「でも残念ながらウチの子には負けるのかしら。ねぇ……」






 十五郎を抱いたまま、近藤は自分がここまで押してきたベビーカーに話しかける。



「いさ子ちゃん」






 近藤が覗き込んだベビーカーでは、ホラー映画に出てきそうなガラス製のフランス人形だった。






 素敵に着飾っているドレスは所々破けており、可愛い筈の顔にはヒビが入っている。






 まともな思考力を持つ人間には、とてもコレを可愛いとは言えなかった。






 これには新八も、そして恋歌も。二度と塞がらないほど大きく口を開けた。






「局長オオオオオオオオオオオオオオ!?」






「病んでるウウゥゥゥ!! とてつもなく病んじゃってるウウゥゥゥゥゥ!!」






 ツッコミ班が叫んでいる間に、近藤は高笑いしながら、十五郎をいさ子の隣に寝かす。






 病んでいるとは思えないほど丁寧な手つきで。






「アナタ達だけ幸せになんてさせない!! 皆、皆……」







 不幸のどん底に叩き落としてやるウウゥゥゥゥ!!







 超特急で、近藤がいさ子と十五郎の乗ったベビーカーを押してどこか遠くへ行く。






 そのせいで舞った土煙に視界を眩ませながら、真っ先に。一人の男がその後を追っていった。






「十五郎ウウウウウウウウウ!!」







 仕方がないので、残りの連中もその後を追った。








  
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