銀魂〜突撃! 真選組!!〜

□原作リメイク
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 あるビルの屋上。他にももっと高いビルはあるが、人間が死ぬには十分な高さがあった。






 ビルの床の端に片足を掛けた近藤。その手にはいさ子と十五郎が眠るベビーカー。






 それを先陣切って止めに来た土方。そんな土方に添うようについてる妙。






 バカ共の暴走をツッコみに来た新八と恋歌。成り行きでなんとなくついて来た神楽。






 既にハリセンで叩きのめされた山崎や沖田、李麻は今頃下で伸びている頃だろう。






「それ以上こっち来ないでエエェェ!! 子供もろとも飛び降りるわよ!!」






「落ち着け近藤さん!! 早まんじゃねぇ!!」






「お前がな!!」






「僕等はイボ退治に来たんですよ!? 何でイボの自殺止めようとしてんの!?」






 飛び降り宣言をする近藤。それを止める土方。ハリセン片手にツッコむ恋歌と新八。






 ドラマだったなら、確実にジャンルが迷子になっているような状況である。






 しかし、最早土方の目には十五郎以外映らない。打ちひしがれたような顔で口を開いた。






「子供に罪はない。悪いのは、俺とお妙だ」






「悪くない! 誰も何も悪くないよ!! 悪いものがあるとすればそれはお前の頭だけじゃ!!」






「殺るなら俺を殺れェ!! 十五郎だけは……見逃してくれエエェェェ!!」






「何でイボの身代わりになろうとしてんのオオォ!!」







 その時だった。女にしては男のように野太く、男にしては女のように艶めかしい声が響く。







「子供を身を張って守る。これこそが親の姿というものじゃない」







 誰もが声のした方を向き、その先に藤色の着物を身に纏い、藤色の頭巾で顔を覆う女性の姿を見たのだ。






 女性は、十五郎とはまた違う、小さな命をその両腕に抱えていた。 






「なのに貴方は何? 私とこの子を残したまま、一人死んでいくというの?」






 顔を頭巾で覆う女性の言うことに、近藤も、残された人間とイボ達も首をかしげた。






「あ、あんた一体……」






「薄情な男ね」






 女性はため息をついて、近藤の問いに答えた。そしてこう続ける。






 奥さんに逃げられ、バーで荒れていた貴方を慰めてあげたのは一体どこの誰かしら、と。






 そしてその言葉に、近藤は心当たりがあったらしい。記憶の靄が晴れたような表情を浮かべた。






 近藤に応えるように、小さな命を片腕で抱き直した女性は、顔を覆う頭巾に手を掛ける。






 現れたのはヅラ子と化した、攘夷志士、狂乱の貴公子こと桂小太郎だった。






「「何でお前が子供産んでんだアアァ!!」」






 ツッコミ班の声が重なっても、新たに作動した恋情物語は加速する。






「貴方はもう立派なお父さんなのよ。だから、この子のためにも私のためにも……生きてお父さん」






「つーかテメー等敵同士で何してんだよ!!」







 新八の声などまるで聞こえないかのように、桂は布にくるんでいた赤子の顔を近藤に見せた。






 この人が貴方のお父さんなのよと。







「ほーらお父さんよ、ゴリ子」






「絶対お父さん局長じゃないよね!? 絶対お父さんモノホンの方だよね!?」







 おしめを付けられた小さなゴリラの姿を見て、恋歌がそう言うのも無理はない。






 ツッコミ班に息切れが見えたところで、またゴロゴロとベビーカーを押す音が聞こえた。






 赤いパンプスがコツコツと小気味の良い音を鳴らしている。






「へーえ。ゴリ子って言うんですかぁ」






 見てみれば、白いワンピースを纏った、華奢な体をした人がこちらに向かって歩いて来たのだ。






 近藤と同じように、ワンピースと揃いの色の帽子を目深に被っている。






 ただ近藤と違って、帽子から長い黒髪がはみ出しており、声も高いことから女性ではないかと伺える。






「可愛いゴリさんですね。ちょっと抱かせて頂いてよろしいかしら?」






「あ、まだバナナ剥けてないんで気を付けてください」






「あたりめーじゃ!! 赤子の小さな手でバナナが向けるわけなかろうが!!」






「そのバナナじゃねーよ! 分からないなら黙ってろ僕の仕事が増えるわ!!」







 恋歌のツッコミ、そのツッコミに対する新八のツッコミ。それが聞こえないかのように、話は更に進んでいく。






 桂の言葉を聞いた近藤は、抱っこしていたゴリ子を白いワンピースの人にそっと手渡した。






「まぁ、本当に可愛いゴリさんだこと」






 ゴリ子を抱きながら、白ワンピースは優しげな声でそう言い、ひと呼吸。






 次の瞬間には、顔を勢いよくあげ、目深にかぶっていた帽子からその顔を現した。






「でも残念ながら、ウチの子には負けるかしら」






「九ちゃん!?」






 白ワンピースもとい九兵衛は、ゴリ子を抱いたまま持参のベビーカーを覗き込む。






 そしてその中にいる、何かに慈愛に満ちた声で語りかけるのだ。





「ねぇ、●ン子ちゃん?」





「ナニ育ててんのこの人オオオオォォォ!?」





「コレはダメだぞオォォォ!! 病んでるなどというレベルではないぞオオォォォ!!」






 ツッコミ班のツッコミを背に受けながら、九兵衛は高らかに笑い出し、朗々と話しだす。






「僕はお嫁さんも旦那さんもいらない! たった一人で母と父を兼ねる、究極の生命体になったんだ!」






 そしていつの間にか、十五郎、いさ子、ゴリ子、そしてチ●子を乗せた自分のベビーカーに手を掛ける。






 狭いスペースでも、行儀よく、仲良く眠っている子供達に気を払いながら超特急で走り出した。






「この子達はきっと幸せみせるから、安心してくれたまえエエェェェェ!!」











 十五郎オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!






 ゴリ子オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!






 チン●オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!











 我が子を奪還すべく、九兵衛のあとに続く土方、近藤、桂。






 新八と恋歌は、いよいよ限界が来た。一度互いに憔悴しきった顔を見合わせると、こくりと頷き合う。






 ハリセンを強く握り締め、天高く跳躍した。







「「いい加減にせんかアアアアアアアアアアアアァァァァァァい!!」」







 二人のツッコミに辻風が舞い、六人の体はシャボン玉よりも高く飛ぶ。






 そうして、ドスリと無様に着地した頃には、全員、恋歌もよく知る姿に戻っていた。






 床には、BB弾くらいの小さな球体が転がっている。恐らくこれが「キューサイネトル」なのだろう。






 そして、そのキューサイネトルは土方の額にも着いていた。






「何か様子がおかしいと思ったら……」






「いずれにせよ、これで元の世界は取り戻せた、って事でいいんじゃな?」






 勝者達を称えるように、爽やかな風が彼等の服や髪を撫でていく。






「せっかく真選組シリーズも再開したんじゃ。出番がなかった分、バリバリ働くとするかの」






「頼みましたよ、須藤さん」






 生意気な眼鏡に、恋歌はフッと鼻を鳴らした。






「貴様に言われるまでもない。ともあれ、これで全部終わり……次回から気を新たに頑張らねばな」








 その瞬間、吹いていた風がぴたりと止んだ。



















「いや、まだ終わってねーよ」







 二人で和やかに笑っていると、どこかで聞いたことのある声を背中で感じた。






 次には、ハリセンの先端が二つ。新八の頭を捉えている。






「「(お前/貴方)もイボ(だぞ/よ)、新八(君)」」






 重なった声に振り返れば、ヤムチャ銀時と、男好き時雨が揃って新八にハリセンを入れていた。






 何が起こったのか分からない恋歌。叩かれた本人も含めて驚いたが、叩かれた瞬間、顔が変わり隊服からいつもの着物に戻った辺りを見ると本当らしい。







 新八はあらん限りの声で「ええええええええええええ」と叫んで、地面に伏した。






 恋歌といえば、そんな新八の傍で膝を着き、絶望するしかなかった。







「ブルータスお前もかアアァァ!! って事は何!? あの場でイボじゃなかったのは私だけ!?」






「そうなのよ。うつくも終わって新シリーズやるってなった途端皆こうなるんですもの。ビックリしたわ」






「マジで皆成長してるんだもんよー。周りに合わせるのに必死だったぜ」






 ヤムチャのカツラを脱ぐと、そこにはいつも通り草野原のような銀髪がこんもりと現れる。






 つまりアレは連中を欺くための化粧だったらしい。








 そしてどこかで納得している自分もいた。そういや銀さん、向上心なかったわ、と。






 時雨殿、イボごときに負けるようなキャラじゃなかったわ、とも。






「でも、どうするの? この子達、またうつくも始まったら本気で修行するんじゃない?」






「止めてくれない? このシリーズ始まったばっかりなのに終わった後の話とかやめてくんない?」






「仕方ねぇ、そん時は……」






「オイ無視すんじゃねーぞ。段々私の時代かかった喋り方が取れちまうぞ」







 しかし次の瞬間には、ゴッという凄まじい光と風が銀時を包む。






 光が消えた後、銀時は某死神代行の対愛染(最終戦)のような格好をしていた。






「これで行くか」






「まぁ大変。ホコリが焼けてカス炭になっちゃったわ」






 キマった。という表情を浮かべてご満悦の銀時と、クスクス笑いながら毒を吐く時雨。






 恋歌はどこか遠くの世界を覗き込んだかのような感覚に陥りながら、懐から携帯電話を取り出した。


















「もしもし斉藤さん? うん、あの……もうしばし京(そっち)にいても大丈夫かな?」











                                                          FIN.
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