銀魂〜突撃! 真選組!!〜

□原作長編リメイクPart2
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バラガキ篇! チェケラ!!






「佐々木鉄之助?」





 新選組屯所稽古場にて。



 入口で近藤、土方、沖田、李麻の四人が、土方が口にした名を付けられた少年を値踏みするように見る。



 近藤達の向かい側の壁にもたれて座る鉄之助少年は、少年というには老けすぎているような出て立ちだった。



 サングラスにヒゲ。分厚い唇。くっちゃくっちゃ。竹刀がぶつかり合う音に混じって、かすかに聞こえるガムを噛む音。



 よく中年層が「これだから最近の若い子は」と後ろ指をさす若者そのものである。



 これが幕臣の中でもエリートを輩出している名門・佐々木家のご子息というのだから、世の中とは分からない。



 しかしこの鉄之助だけは職にもつかず、悪さばかりをして家の者も困ったという。



 そして彼らは、真選組に預けられたのだ。



「要するに、世間体を気にして見捨てられた落ちこぼれのボンボンですかィ」



 近藤が柔らかい物腰で長々とした説明を、沖田が端的にまとめてみせた。



「近藤さん。ここは更生施設じゃねえんだぜ」




 沖田に続くように言った土方は、更に思ったことをそのまま続けた。



 同じ警察でも、家柄も才能も選りすぐったエリート警察、見廻組に預けるのが筋ではないのか。



 確かそこの頭も佐々木某ではなかったか。



 これに李麻は「そういうトコたらい回しになって最終的に最底辺(ここ)に落ち着いたんでしょ」とバッサリ。



 それに一拍間を置いてから、沖田は言った。



「いいですよ。俺の一番隊で預かります。前線に立たせて即殉職させてやりまさァ」




「いや、僕の二番隊で預かるよ。何かあった時は盾にするし」




 物騒な単語を言い連ねた二人に、近藤は一応名家の息子だからと冷静に却下した。




「じゃあ雑用でもやらせるか?」




「いや、それも角が立つしぃ〜……」





 すこし眉根を寄せてうーんと低く唸った近藤。しかしすぐに、なにか思いついたようなハッとした顔を土方に向けた。





「そういえばトシ」





 何か、胸のつかえが取れたような表情を浮かべる近藤に、土方は嫌な気配を感じ取った。






「お前、恋歌は働かないわ雑務が増えた上に恋歌は働かないわ挙句の果てに恋歌は働かないわで小姓が欲しいとか言ってなかったっけ?」





 案の定。その言葉に土方は、あらん限りで嫌そうな表情を浮かべた。



















 チィーッス。TETUっす



 えーっと、ドホウさんでしたっけ?



 イヤ俺正直コショーとかよく分かんねーんだけど、要はジョーイとかいうチーム狩ればいいんすよね?




 俺マジ喧嘩なら敵ないんで、俺にもヘッド張らせてくんないすか




 正直、自分より弱ェ奴に頭下げんのがポリシーに反するっつーか、縛られたくねーんすよ




 俺達は上も下もねェ生まれながらにして自由で、そこにあるのはダチか敵かそれだけっすよ




 なんでェ、あんまナメた口利かれっと俺キレッかもしんないんで、マジ気を付けた方がいっすよ




 手がつけられなくなるんで。ま、お互いフェアにいこうぜってことで




 ヨロシクTOTHI。Yeah









 一度、副長室にいる自分のところまで顔を見せに来るようにと近藤を通じて伝えた。




 指定した時間から20分ほど待たされた後に、今の挨拶だ。




















 ガムを噛む音を鳴らしつつ「ヨロシクTOTHI。Yeah」と鉄之助が拳を差し出してきた瞬間。




 書類をまとめていた小筆をへし折り、勢いのまま拳を、差し出してきた鉄之助の拳にぶつけた。






「イエエエェェェェェェェ!!」



「ギャアアアアアアアアアアアアアア」




  悲鳴とともに、ぶつけられた鉄之助の拳はありえない方向に曲線を描きつつ弾かれる。




  激痛に悶える暇も与えず、土方の左手が鉄之助の両頬を鷲掴みにした。







 オイテメー人に挨拶する時にクチャクチャ何食ってんだ




 テメーみてーのはおいしんぼ17巻でも見てグルテンクチャクチャ噛んでろタコ助エエェェェ!!




 それから何でズボン片方裾上げてんの、ねえ? 片方寸法足んないよー?  






  直後、ザシュッ。という不吉な音と共に、副長室の障子が赤く染まる。






 ホオォラこれで両方揃った良かったねー




 いいかァ。真選組(ここ)に来たからには真選組(ここ)のルールに従って貰うぞボンクラァ!



 テメーみてーなチャラついたB(バカ)ボーイは士道不覚悟で即切腹だアァ!!




 パパが誰だろうが関係あるかボケエェ!! パパの所まで、首かっ飛ばしてやらアァァァァ!!
















 なんて事が、出来りゃいいのにな。




 土方はそう思いながら、チョイッと鉄之助の拳に、己の拳を合わせた。




「イエーイ、ヨロシク。TETU」



「コレで、アンタと俺は一生モンのDACHIだぜ、Yeah!」




 そう言って、鉄之助は副長室を出て、縁側を歩き始めた。




「んじゃ、喧嘩になったらすぐ呼んでくれよな。ダチ招集して何時でも来っからよ」



「うーん。よろしくね」




 土方の返答に満足して鉄之助が角に消えたのを確認した瞬間、土方は障子の角に頭をぶつけた。




 行き場のないフラストレーションを吐き出すように。ぶつけながら近藤の言葉を思い出す。





『真選組(ココ)を追い出されたら、アイツはホントに行き場がなくなっちまう』





 多少のことは目を瞑ってやれ、と。ゆっくり色々教えてやればいいさ、と。










 しかし、と土方は思う。ゆっくりって、どれくらいゆっくり?



 そして、それまで俺はあのムカッ腹の立つガキに理性を抑えられるのか?


















 その日から、鉄之助少年の新生活は始まった。



 彼は意外にも、土方が命ずる事に特に反発せず、お付きのBボーイ達と仕事に取り組もうとしていた。




 昼食時、食堂でカレーの配給係をやらせれば、山崎の持つライスを掻払ってひと舐めし



「「「CHERRY BOY!」」」



 とお付き達と一緒に笑い合う。



「誰がチェリーボーイだ!! 何で今ので分かるんだよ!!」



 そう言った山崎の隊服のポケットに、お付きの一人がアブナイ品物を忍ばせるようにカレーを配給された。



 「あっぱあああああ」という虚しい叫び声が、食堂中に谺したのを皆は覚えている。





 隊士達の稽古の見学を命じれば、どこからともなく持って来たバスケットボールでバスケに明け暮れる。



 勝手に稽古場にバスケットゴールを配置しているだけならまだ可愛いものだが



「チャラついたスポーツじゃねぇんだ!! 小賢しい小技なんて」と隊士達に教えを説く近藤の顔面にシュートするのはいただけない。



 ぶつけた事にも悪びることなく「HEY! パスパス!」「HEYゴリ! カモーン!」とパスを要求する。



 それを三度も続けられたら、近藤も彼等に一緒に混じってシュート練習するしかなかった。



「左手は添えるだけだ!」



「「「「「ナイッシュー!」」」」」








 その他にも、





「畳の下に隠してあった夜のお楽しみビデオが盗まれたんだけど!?(M月さん16歳談)」





「野郎共がチョコマカしてるお陰で落ち着いて土方抹殺が出来ないのが難点ですかねィ(O田さん18歳談)」





「人がちょっと書類置いて出かけようする度について来るのはいい迷惑じゃ(S藤さん19歳談)」






 などと、日を追うごとに鉄之助少年の勤務態度により被害を被った隊士達が増えていった。





 鉄之助が失態を増やす度に、被害者の怒りの矛先は彼が仕えている土方に向けられる。





 その度にブチ切れそうになる理性。しかし寸でのところで近藤の言葉が蘇り、憤りのぶつけどころが消える。





 騒々しいヒップホップをBGMに、パトカーの助手席で土方はここ数日を振り返った。





 すると、真後ろからひょっこりとこちらの様子を伺う人影があった。





「お前も大変だな。こんな使えぬ小僧を小姓にせねばならんとは」





 そう言ったのは、本来は非番だったが今までの職務怠慢のツケだとパトカーにねじ込まれた恋歌。





 けたたましい音楽の中でも、近くで話す彼女の声はよく聞こえる。





「お偉方に押し付けられたか何だか知らんが、嫌なことは嫌と言うのもまた世渡りには必要じゃ」





 早いところ、佐々木家の人に突き返した方がいいのではないか。






 その言葉はいずれも、土方の心労を彼女なりに察して言っていることなのだろう。





 声色に真剣味が帯びているのが良い証拠。恋歌にも、そういう気配りが出来る所があるのは皆知っている。





 だが。と、土方は思う。よく考えて欲しい、と。






 どこぞの誰かがもう少し真面目に働きさえすれば、事足りることなのだという事を知ってほしい








 取り敢えず、広い場所に出たらこの女は一発殴る。胸に誓い、土方は曖昧に返事をして話を切り上げた。





 それから、この耳障りな音楽に合わせて首を軽く左右に振りながらハンドルを握る鉄之助に向けて言った。






「オイ、鉄。もう少し音小さくならねえのか?」





「オーケーオーケー。TOSHIも気に入ってくれた? キてるだろこのリリック」 





 切実な気持ちで投げた願いは、全く見当違いの言葉で打ち返された。





 痺れを切らした土方は、そもそもヒップホップは大嫌いだと、ボリュームコントローラーを捻る。





 「RENは結構好きだぜヒップホップ」とコントローラーに手を伸ばしかけた彼女は、一発殴って黙らせた。





 いったぁ……折れたわ。コレ絶対折れたわポキッていったもの。という呻き声は、聞かなかったことにする。





 それで幾分か落ち着いたからなのか、胸内ポケットにあるタバコの存在に、ようやく気が回った。





 お気に入りの銘柄を一本箱から取り出して、そのまま口に咥える。





「オイ、鉄。お前、何時までこんなこと続けるつもりなんだ?」





 問いながら車窓を開けて、車に内装してある火種に煙草の先端を押し付けるその動作は、至ってスムーズだった。





 味わうようにひと吸いし、吐いた煙は窓の外に出て風にたなびく。





「テメーのやり方じゃ社会じゃやってけねえのは、テメーが一番思い知ってるはずだ」





 怒鳴るわけでも、宥めすかすわけでもない。ただの問いかけ。ただの、真剣な問いかけだ。





「Shit。お説教なら聞き飽きたぜ。例えTOSHIでも俺のやり方に指図はさせない。コイツが俺の生き方なんだ」






 今まで、彼にお説教を垂れた人間達に片っ端からそう言ったのだろう。





 特にその言葉に反応することなく、土方は「お説教」を続ける。





「壁にぶつかった時にだ。ソイツを見ないふりしたり開き直る奴は何時まで経っても前には進めねえよ」






 壁は何も変わらねえからだ。進みてえならテメーが変わるしかねえ






 今のテメーは耳触りのいい言葉並べて、ソイツを言い訳に壁の前でダダこねてるただのガキだ





 今までのぬるま湯ならそれも許されたんだろう





 だが、俺達の戦場で遅れを取ることは、即ち「死」を表す





 これ以上、真選組の足を引っ張るようなら、俺ぁテメーを斬らなきゃならねぇ





 「士道不覚後は切腹」





 テメー並に頭の悪い悪ガキだった俺達は、そんな不退転の覚悟があったからこそこうして前に来れたんだからな





「……だったら、斬ればいい」





 淡々と続いたお説教がひと呼吸すれば、鉄之助のこの返事である。





「どうせ俺は兄貴みたいにはなれねぇ。佐々木家にも此処にも入れねぇ、俺ァ生まれついての落ちこぼれなんだよ」






 だったら俺は俺のやり方で、好きなように生きて好きなように死んでやらァ






 また大音量に鳴るヒップホップ。車を止めろという土方の声も当然届かない。





 窓を開ければ、けたたましい音楽は、そのまま静かな外にたちまち広がる。





 その時、ヒップホップに混じってこのパトカーとはまた別のエンジン音が聞こえた。






 開いた窓から見えたのは、一台のスクーターに乗った男性であった。





「YO、兄ちゃん! 何こっち見てんだYO! 何か文句あるのかYO!」





「オイ、止めねぇか!」





 土方が止めにかかっても、鉄之助は民間人への悪絡みを止めない。





 終いには「言っとくけど、こっち警察! おたく軽率! ブタ箱警告! Yeah!」などと、即興でラップを吟じる始末。





 しかし民間人は逃げるでもなく、眉をひそめるでもなく、気怠げで何も考えてないような声で言うのだ。





「え? 何? なんて?」





 その声で初めて土方は民間人を視界に入れる。そして、大きく口を開けた。





「は? 何て?イエース?」





 耳に手を当てて、鉄之助の即興ラップの歌詞を繰り返し訊く声は、紛うことなく、銀時のそれだった。









 
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