銀魂〜突撃! 真選組!!〜

□原作長編リメイクPart2
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〜何でも実況解説があると締まるね〜









 車道の真ん中で、鉄之助とお付きのBボーイ達と民間人もとい坂田銀時。





「マジでコイツだけは許せねえファッキン天パアァ!!」





「誰がファッションパーマだ!! 確かにお洒落なパーマだけれども!!」





 どうしてこうなった。





 土方は思う。だが、同じ状況に身を置かれれば、誰しも同じ事を思うに違いない。





 確か、信号が赤になってからは、ずっと鉄之助が銀時に、ラップの歌詞の解説をしていた筈。





 しかし聞こえづらかったのか、銀時があの木刀で「五月蝿い」とパトカーのミュージックプレイヤーを破壊したのだ。





 お気に入りの曲が誰か、他人の手で強制的に止められたのが気に食わなかったのだろう。





 怒った鉄之助が、銀時に向けて「Fuck!」という一言を贈った。





 外国の言葉とはいえ、罵り言葉を贈られた銀時はこれに怒り鉄之助を暴行。





 更にそれに怒ったお付き達が外国語で銀時を罵るも、返り討ちにされる。





 しかし、いずれの罵り言葉も、彼の耳には至極都合の良い単語として記憶されたらしいのだが。






 こんな公道の真ん中で何をする気なのかは分からないが、嫌な予感はハッキリとする。





 車から降りて、止めるように言っても、鉄之助は聞く耳を持たなかった。





「俺とサシのラップディスり合いで勝負しろ。恥かかせて二度と街歩けねーようにしてやるYO!」






 銀時の否応無く、その言葉で、戦いの火蓋が切って落とされた。





 どこからともなく現れたカセットプレイヤーが、また俗っぽい音楽をかき鳴らした。





 オイ、何か始まったぞ。何やってんだコイツ等道路の真ん中で。





 もうこうなったら土方一人ではどうにもならない。





「オイ、恋歌。今からあのバカ共止めに行くからお前もちょっと手伝……」





「さぁ、始まりました『チキチキ☆ラップディスり合い勝負〜公道の中心で不満を叫ぶ〜』。実況は私、須藤恋歌でお送りします」






 言葉は、振り向いてマイク片手に、何故かサングラスをかけてそう言った恋歌の声に遮られた。





「どちらが勝つと思われますか? 解説の土方さん?」





「誰が解説だコラ!! 何がしたいんだテメーはよ!!」





 反射的に伸びた土方の平手が、恋歌の頭から子気味のいい音を出す。





「だって手伝えと言うから……」





「誰がこのバカ騒ぎを盛り上げんのを手伝えっつったんだよ!!」





 実況解説が放送席で揉めている間にも、勝負は続いていた。





 作曲、どっかの誰か。作詞、佐々木鉄之助のラップがいよいよ始まる。







 YO! YO! お前、どこの馬の骨?


 島根? 赤羽? 白金? 黒船?


 それより俺のパンツしらね?








「おおっとコレは中途半端に韻を踏んできました! でも歌詞はカス同然!! 何の面白みもありません!! これは高得点は厳しい!!」






「面白みって何!? 何を基準に点が付けられんのコレ!?」






 実況のボケと解説のツッコミを背後に、鉄之助はお付き達と「FU」とハイタッチを交わす。





 その直後、「FUー!」と言った銀時の右手が、鉄之助の頬に綺麗に入った。





「これは見事に決まりましたねぇ。相手の一瞬の隙を突いた一撃。かなりの高得点が期待されますね」





「『期待されますね』じゃねーよ!! 何でアイツもFU!? あそこで攻撃!? そういう対決なの!?」





 放送席での分析が終わったら、今度は作詞、坂田銀時の番だ。





 銀時も、鉄之助達と同じように体全体を使ってリズムに乗った。





 YO! YO! お前こそどこの馬の骨?





 ク●ス? フ●フ●? モ●? カ●イ?





「誰ディスってんだ!! 馬の骨っつうかホントに馬のツラじゃねえか!!」





「韻も踏めてないしリズムもアレだし、正直苦しい展開になりましたね……!?」






 本人達が聞いたら、苦情の電話でも入りそうな失礼な歌詞に土方はツッコミを入れる。





 そんな中、恋歌は銀時の手が懐に突っ込まれた事に、目を見開いた。





「ああっとぉ!? 坂田選手!! 懐から何かを出そうとしています!! あ、あれは……ッ!?」






 銀時の懐から、青空の下に晒されたソレ。





 対戦相手のサングラスに隠れていても、鉄之助の表情が変わったのが分かる。





「それよりこのパンツ、プールに落とした奴ファキナッ!!」





「鉄之助選手が探していたパンツだアアァァァ!! しかも白ブリーフ!! これは恥ずかしい!!」






 最後のワンフレーズが歌われたと同時に、真っ白なブリーフが勢い良く遠くに投げ捨てられた。





 鉄之助は必死にその後を追い、近くの八百屋の店先の売り場に飛び込む。





 売り物が置いてある台ごと壊された店の主人が、そんな彼の背中を箒ではたきまくった。






「FUー!」





 一方、とどめを刺した銀時は、鉄之助のお付き達とハイタッチを交わしている。





 まるで、鉄之助と彼等がこれまで送ってきた毎日が初めからなかったかのように。





「何で喜んでんだ? テメー等仲間じゃねえのか?」





「利益を前に、友情は儚いものだという事が垣間見えるワンシーンですね」





「さっきから何真面目に実況挟んでんだよ!! それなりに上手い分余計に腹立つわ!!」





 土方の拳が固まってきた時、公道の方で一つバシンという音が響く。





 何があったのかと思えば、ちょっとオネエ気質なオッサンの右手が銀時の頬に綺麗に入っているではないか。






「何か知らねー奴もFUー!!」




 オッサンの退場と同時に、鉄之助がヨロヨロと起き上がる。そして苦しそうに、だが清々しい笑顔で言うのだ。





「負けたぜ……兄弟……!」





「誰が? 俺から言わせれば全員敗者ですが?」





「解説っていうかほとんどツッコミしかしてない奴に言われたくないでしょうけどね」





「やかましわ!! つーか何時まで実況口調!?」





 出発の準備をしている銀時には、土方のツッコミも鉄之助の敗北宣言も聞こえない。





 辛うじて、「またいつか……一緒にコラボってくれるかな?」というような声がエンジン音混じりに聞こえた。





 しかし、よく聞こえなかったので何と言ったか、もう一度聞き返そうとした時だ。





 後ろから、結構なスピードの出た車が銀時のスクーターを押しのけて登場した。





 サイレンを鳴り響かせた、黒い塗装を施した車。





 その車の後を追うように、同じ車が数台同じように登場する。





 車を止めたと同時に、一斉にドアが開く。どこかで見た事のある、白い制服の男達が現れた。





 その内の一人が、伸びている銀時に後ろ手に錠をかけた。





「確保。午後三時四十分。公務執行妨害で逮捕」





 彼等が纏う制服に、土方達は覚えがあった。





「あ、あやつ等は……」





 先程まで、実況口調だった恋歌の声に緊迫感が漂いだす。唇が微かに震えていた。





 ちょうど同じタイミングで、一番奥出にあった車の扉が重々しく開く。











「余計な助太刀でしたでしょうか? 申し訳ございません。真選組の縄張りを荒らすつもりは無かったのですが」






 貴方がたに仇なす賊を黙って見過ごせなかったもので





 淡々としているがどこかねちっこい、鼻にかけたような男の声がした。





「わたくし、真選組のファンですから」





 そうのたまった男は、微かに乾いた嗤い声を発し、白い制服の戦士達が作る道を進んでゆく。





 その制服に、土方は見覚えがあった。





「その制服、まさか、お前等……」





「鬼の副長殿に存じて頂けるとは、同じく江戸を守る者として光栄であります」





 真っ直ぐ、土方に向かって歩いていく男は、風に丈の長い上着をたなびかせている。





 そして土方の真正面で立ち止まり、敬礼する男の姿を恋歌はじっと見つめた。





 二筋ほど前に残した以外は、全て後ろに固められている白系統の髪。





 高貴そうな顔には、モノクル。





 腰に提げた得物も、顔に似合った上等なものだということは、一目で分かる。





 観察を続ける恋歌には一瞥もくれず、彼は口を開いた。




「見廻組局長、佐々木異三郎と申します」





 佐々木と名乗った男は、自分達が着ている制服も真選組のものをモデルに作らせたのだと、上質な布地をご丁寧に説明した。





 そうして真選組のファンぶりを示した佐々木は、土方の横を通って、自身のポケットから何かを取りだした。






 ピッ、ピッ、と短い電子音を、佐々木は実に嬉しそうに鳴らした。





「アドレス、『サブちゃん』で登録しておきましたから、メールして下さいね。こっちは『トシにゃん』って登録しておくんで」





 佐々木がボタンを押して鳴らしているプッシュ音は、ポケットに入れていた土方の携帯のもの。





 違和感も、抜き取られた感覚も与えることなく取られたことに、土方の顔筋に汗が浮かんだ。





 隣で堪えきれなかった笑い声が漏れる音がして、一発頭を殴る。





 佐々木がいた方向から携帯電話が二つ投げられた。内一つは土方の手に落ち着く。





 もう一つは、まだ『トシにゃん』で笑っていた恋歌が、慌てて両手で作った器に収まった。





「貴女の事は『恋たそ』で登録しておきましたが、よろしいですよね?」





「ああ。はい」





 いつの間に取っていたんだ。と心の中でツッコみながら、恋歌は携帯を元の胸内ポケットに突っ込んだ。





 訝しげな面々の表情を見て、佐々木は「友達が少ないものでついがっついてしまって」と弁明をする。





 そしてもう一度「真選組のファン」と言い加えたのだ。





 しかし次の瞬間には、薄い笑みを浮かべていた佐々木の表情が変わる。





「貴方がたはまさに奇跡のような存在」







 生まれも育ちも貧しい、何の才能も持たない者たちが皆で力を合わせ、今まで江戸を護ってきたなんて素晴らしい美談ではありませんか






 一切戸惑った色を見せない声に、それが佐々木が心から思っている発言であることを思い知らさせる。





 聞き手の表情が険しくなるのを楽しむ様に佐々木は続けた。





「貴方達のもとならば、佐々木家の落ちこぼれにも何らかの使い道があるやもと思っていたのですが」






 どうやらこの様子では、愚弟の居場所は無かったようですねぇ





 わざわざ振り返らずとも、鉄之助が肩をビクリと震わせ地面に目を馳せたことは分かる。





 改めて振り返ると案の定、鉄之助はサングラスの奥の瞳を俯かせていた。





 佐々木は白い上着をたなびかせて鉄之助を横切ると、彼を数歩分の距離を背後に残したあたりでぴたりと止まる。






 そして短く言ったのだ。








「斬っていいですよ、それ」





 この時、土方は勿論、真選組に入って比較的日の浅い恋歌にも、局中法度の事を指していることは分かった。





 この発言を聞き流せるほど、恋歌は大人ではなかった。





「佐々木殿、お言葉ですがそれはあまりに……」





「お心遣い痛み入りますが、佐々木家の名を汚すだけの劣等遺伝子はこの世に必要ありませんよ」






 アドレス帳から妾の子はもうとっくに削除してありますから






 悠々と言い放ち、懐から携帯を取り出してボタンをプッシュしていた、その時である。





 携帯電話のディスプレイ画面に二つ。真っ直ぐな切れ目が入ったのだ。





 綺麗に、とはいなかかったが、三等分された携帯の画面はバラバラの方向に散り、ぱたりと地面に倒れる。





 同じ頃、土方の刀の刀身が、鞘に収まる音がした。






「悪いなぁ。ついでに俺達のアドレスも削除しといたぜ」





 こっちのに入った優等生のアドレスもな。そう言った土方の笑みは、それは好戦的なものであった。

















 生憎、俺のフォルダの区分はバラガキしかねーんだ
















 その意味をなさなくなった携帯電話を、佐々木は何時までも握りしめていた。






 
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