銀魂〜突撃! 真選組!!〜
□原作長編リメイクPart2
4ページ/15ページ
〜背筋が曲がってる男子はそっとしておこう〜
土方が佐々木と一悶着起こした。そんな噂が隊内に広まるのに、時間は必要なかった。
中には、殴りあったなどと言う噂もあるが、それが事実無根であることは目撃していた恋歌はよく知っている。
訂正するのも面倒だし、どの道面倒は起こした事には変わらないし、間違った事をしたという訳でもないので黙っておいているのだが。
結局、あれから一悶着は繰り広げられることはなくなり、互いに乗っていたパトカーで帰った。
鉄之助、土方に続いて後部座席のドアを開けようとした時、いつの間にかすぐ近くにいたパトカーの窓が開く。
黒塗りのパトカーから、佐々木の顔が現れたのだ。
「貴女のお噂も広く聞いておりますよ。しばらく京に身を置いていたとか」
「行って来たのも、こうして帰って来たのも。全て上からお達しがあっただけの事にございますれば」
ねちっこい口調は京の高慢な人間たちにも引けを取らない。不快感をどうにか抑えて会釈をする。
「話に聞いていた通り……長い髪がよくお似合いですね」
意味深な笑みを浮かべてから、佐々木は窓を閉めた。そのまま彼を乗せたパトカーは去ってゆく。
見送りながら、恋歌は自分の心臓が早鐘を打っているのを感じた。
彼の言葉に、ほんの一瞬だが危険な匂いを醸し出した。そして、同じものを以前にも自分は感じている。
『長い髪がお似合いですね』
肩などとうに通り越して、腰辺りにまで伸びている髪の一束をそっと撫でてからパトカーに乗った。
一方、一悶着の事など噂程度にしか知らない李麻と、隊士たちは喫煙所で管を巻いていた。
「えー……見廻組ってのなら確かに聞いたことあるよ? ってか最近話題のヤツだよね?」
李麻の言葉に、隊士は煙草を片手に頷く。
見廻組。そのほとんどが名家の血筋の者、またとてつもなく腕の立つ者達で組織されている武装警察集団である。
真選組よりも浅い歴史を持ちながら、あらゆる警察組織をごぼう抜きにするような業績を見せつけてくれたのだ。
中でも、局長の佐々木異三郎という男がキレ者らしい。
名門佐々木家の嫡男にして、剣を取れば二天、筆を取れば天神。「三天の怪物」と謳われ、幕府お歴々の信頼を高く買っている。
今、真選組が預かっているボンクラ……もとい佐々木鉄之助はその腹違いの弟にあたる。
「何がともあれめんどくさいよねー。土方さんの事だから局中法度にかけてさっさと捨てると思ったけど」
「それが今回の件は副長があのボンクラ庇ったらしいですよ」
「マジで!? 世の中わかんないねぇ。怖っ」
などと話していると、後ろから木製の床を踏み歩く音が聞こえてきた。
恐る恐る音のする方を見やると、案の定、そこにはガムを噛んでいる鉄之助の姿があるではないか。
特に興味もなさげに見遣る李麻とは対照的に、ヤバイ聞かれていたのかもしれない。と立ちすくむ隊士達。
噛んでいるガムに味がないのか、不機嫌な表情に見えなくもない鉄之助。
直立不動で目の前に居る隊士と、落ち着いた姿勢を崩さない李麻に対して鉄之助は何も言わない。
ただガムを噛む音だけが聞こえていた。
それはしばらく続いたが、やがてガムを噛む音の持つ独特な不快感に耐えられなくなった頃。
鉄之助はようやくガムを噛む代わりに、声を発した。
「失礼します先輩イイィィィ!! 大変お手数おかけしますが、ちょっとそちらの自販機、使わせて頂けないでしょうかアァ!!」
そう言いながら、頭を下げる鉄之助に、隊士はおろか李麻まで目を点にした。
同時に、彼らの背後に煙草の自動販売機がある事を思い出した。
一同を困惑の渦に置いた鉄之助は未だに腰を曲げて頭を下げている。綺麗に九十度に腰を曲げて頭を下げている。
「申し訳ありません! 至急、タバコを調達する任務を副長よりおおせつかりまして!」
困惑する一同を置いて、鉄之助は無駄のない洗練された動きで頭を上げて言い連ねる。
その一言だけを残すと、もう彼は煙草の自動販売機の前にいた。
「えーっとマヨセンのライトだったな……あれっメンソールだったっけ?」
買う事になったはいいものの、言い渡された銘柄の名前を忘れてしまったらしい。
鉄之助は腕を組みトントンと足を踏み鳴らしながら葛藤していた。その隣で、李麻はハッとした顔をする。
「あ、僕そのメンソールって聞いたことある!!確か吸いすぎると●ン●テン●になっちゃうってテレビで言ってたよ!?」
「ホントですか!? 副長をイ●ポ●●ツにする訳には……そもそも煙草は肺気腫の悪化させる危険性を高める上、その煙は貴方の周りの人、特に乳幼児、子供、お年寄りなどの健康に影響を及ぼすぞ!」
「その話を纏めると土方さんってインポ●●●で肺気腫の殺人者になっちゃうね」
「副長を●●●テンツの肺気腫の殺人者にするわけには……!! くそう! 一体どうすれば!!」
頭を抱えた鉄之助の目に映ったのは、煙草の自動販売機の隣にある自動販売機だ。
それを見た瞬間、鉄之助は確かに一筋の光を感じた。
「そうだ! 煙草の代わりにアレを買っていけば!!」
そうして鉄之助が飛び付いたのは、男達が重宝する夜の大人のお楽しみ本が並んだ販売機。
「インポテンツが防げる上、副長も元気になるぞ!!」
「いやソレ元気になるの土方さんじゃなくて土方さんのバベ……」
「いいからさっさと買えエエエエエエエエエエェェェェェ!!」
いつまで経ってもおつかいから戻らない鉄之助を、問題発言をしかかった李麻もろとも自販機に埋める。
鉄之助の隣りに顔をめり込ませた李麻は「アイテテ」と言いながら自販機にめり込んだ顔を引っこ抜いた。
だくだくと出て来る鼻血を抑えながら李麻は未だに顔がめり込んだままの彼を指差した。
「あのさ……土方さん?」
アレ、誰?
李麻の切実な質問に、完全に取り残されていた隊士達がうんうんと頷く。
そんな彼らに、寝ぼけているのかと一蹴してから彼らの疑問に答えた。
「この間俺の小姓になった……」
「佐々木鉄之助ですよ」
「「「イヤ知んねーけどこんな奴ウウウウウウゥゥゥゥ!!」」」
三人のツッコミが綺麗に揃ったのにも無理はない。
何故なら彼らの目の前にいるのは、サングラスにヒゲ、分厚い唇といったふでぶてしいBボーイは跡形もない。
少女漫画の主人公顔負けのキラキラした目に、プルプルした唇をしたベビーフェイスがそこにあったのだから。
「すみません。自分、ベビーフェイスが恥ずかしくて、グラサンで隠していたものですから」
「イヤ何でグラサンかけただけでヒゲ生えたり抜けたりしてんのオォォ!?」
「今は、色々思うところ有りまして、今までの自分は綺麗さっぱり捨て、新しく、生きなおすと決心したッス!」
決心は結構だが……複雑な面々は鉄之助の発言に耳を傾けていた。
「Bボーイはもう卒業。BからCへと、一歩階段を上がって大人になった今の自分は……C(チェリー)ボーイッス!!」
「いや、大人どころか子供に戻ってますが!?」
最もな隊士のツッコミもスルーして、鉄之助は話を進める。
これからは副長に尽くし、自分も真選組を、江戸を護るために尽力するッス!
いつの間にか、鉄之助と同じく悔い改めた彼のお付きのBボーイ達も彼と共に頭を下げていた。
「オイィ! お付きのBボーイに至ってはCどころかAに退化してんじゃん!! A(アキバ)ボーイじゃん!!」
李麻の言う通り、お付き達は学ラン、猫耳、恐らく美少女キャラクターがプリントアウトされているであろうポスターを丸めてカバンの中に詰め込んでいる。
そんな好青年に生まれ変わった鉄之助を、邪魔だの一言で蹴り付け踏みつけ道をゆく。
鉄之助達は土方をやや前屈みの姿勢で追う。李麻や隊士達は、そんな背中を見送ることしか出来なかった。