銀魂〜突撃! 真選組!!〜

□原作長編リメイクPart2
5ページ/15ページ








 無論、薄弱なBボーイからCボーイに変わった理由はある。





 それは土方と佐々木が一悶着起こした日の夜。バスケコートと化した稽古場での出来事であった。






 バスケの指導者役を務める近藤に、それとなく騒動の事を伝えると、近藤はそうかと一笑に付す。





 呑気な近藤にBボーイは、ここの人間は何も分かっていないと反論した。





 兄の佐々木を敵に回せば……自分もろとも真選組も潰される。





 そうなる前に、こんな役立たずをさっさと切り捨てれば良かったのだ。鉄之助は拗ねた坊のように言う。





 近藤は、何も言わない。それどころか、鉄之助に顔すら向けない。鉄之助の語気が強まった。





「アンタ等だって思ってんだろ!?」





 俺が邪魔だって。居なくなってくんねーかって






 言いながら頭の中に浮かぶのは、物心がついた頃には浴びせられていた大人達の視線。





 父親の妾であった母親が死に、佐々木家に引き取られてから向けられていた大人達の冷ややかな視線。





「もう、慣れっこなんだよ」





 半ば自棄を起こして言い連ねた鉄之助に、近藤は一切返事をしなかった。





 しかし、重く閉ざしていた口を、近藤はようやく開く。








「バラガキって知ってるか、鉄」






 近づき触れれば棘が刺さるような手の付けられない暴れん坊






 俺の田舎じゃそんなどうしようもない悪たれを、バラガキって言うんだ









 何の事かわからない。顔にデカデカと書いた鉄之助に、近藤は背を向けたまま「アイツのことだ」と言った。





 鉄之助の頭には、確かに「アイツ」の背中が浮かんでいた。
















 バラガキのトシ。悪ガキ共が震え上がるほどの悪(バラ)ガキだったのだと言う。





 近所のゴロツキ相手に来る日も来る日も木刀片手に喧嘩に明け暮れる日々を送っていたそうだ。





 ただ、彼は敢えて、その茨の道に踏み込んでいた節がある危なっかしい男である。





 あの茨の中には鬼が住んでいるとまで噂をされたらしいのだが、そんな大層なものではない。と近藤は言い切った。






 彼はただそこにしか、茨の中にしか自分の居場所を見出せなかっただけなのだ。





 元を正せば、彼もまた、妾の子供だったのだ。
















 さて、時間を少し巻戻して話をしよう。





 彼の父親は、近藤達の田舎では少し名の知れた豪農出会ったのだ。





 家の事も、遊興も好き勝手して他界した後、隠し事して土方家に現れた少年。それが彼である。





 周囲が彼に冷たい目線を投げつける中、長男の為五郎だけが彼にその手を差し伸べたのだ。





 母親を亡くし、行き場のない土方を為五郎は実の息子のように可愛がった。





 土方自身も為五郎にだけは心を開き、父親のように慕っていた。





 田んぼのあぜ道を手を取り合って歩く光景は、本当に親子のようだったのだろう。





 しかし、それがある日の悲劇を呼び起こす元となってしまったのだ。





 彼が11になった頃だった。村全体が火に包まれる事件が起きた。





 豪農土方家もその例外ではない。寧ろ天災以上の被害が彼らを襲う。





 火に紛れて押し入りにやって来た暴漢から土方を庇うために、為五郎は光を失ってしまったのだ。





 赤い涙を流す義兄の姿を見て、幼かった土方は何を思ったのだろう。






 ただ、彼にはそこから先の記憶はないらしい。





 気が付けば、足元には暴漢達が自分の目を抑えて転がっていたのだ。





 そして自分の右手には血塗られた小刀。そんな自分を、年の離れた兄弟達の怯えた目と。





 地面に転がった乾いた目が、見つめていたのだと。










 その日を境に、彼がバラガキだと言い出されたのだ。





 そして、大好きな兄のところに顔を見せに来なくなったのも、その日を境にしたものだった。





「アイツがお前を庇ったのは、きっとお前の気持ちが分かったからなんだろう」





 家族に疎まれる悲しみ。兄への負い目。どこにも居場所が持てないはみ出しものの気持ちが






 それでも。と近藤は続ける。





 道からはみ出し、茨の中に身を落としボロボロになったとしても土方は。





 消してその歩みを止める事はなかった。





 
 もっと、もっと強く、誰より強くなりてェ。







 きっと悔しかったのだろう。大切な人を護りきれなかった事が。





 バスケコートでは、山崎が一向にこないパスを全身を使って求めている。





 それをも無視して近藤は名無しを続ける。





「皆同じだよ鉄。ここにいる連中はお前と同じロクでもねぇはみ出し者や落ちこぼればかりだ」





「ヘイパス! ヘイパス!!」





 それでも、ちょっとでもマシなもんになろうと、もがいて足掻いて這い蹲りながら進んだ先で俺達は出会った。






 え? 聞こえてない? ちょっと!! パスって言ってんだろ!!






 男の居場所ってそういうモンじゃねぇのか。





 黒子のバスケより黒子になってんじゃねえかああああああぁぁぁぁ!!






 前に進もうと、ただただ眼前の茨を切り開き、出来た足跡





 ……ここでも黒子?





 それがいつの間にか誰かと重なり、大きな道になる






「家から捨てられたお前がどうするかなんて俺は知らねえ。テメエの道はテメエで選べばいい」







 だが居場所が欲しいなら。誰かに認められたいなら





 その足だけは止めるなよ










 いつだって茨を行く、バラガキであれ
















 サングラスを取った鉄之助の目が、彼の先を行く土方の背中をずっと移していた。







 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ