銀魂〜突撃! 真選組!!〜

□原作長編リメイクPart2
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〜オカマって総じて性別五月蝿い上にキャラが濃くてめんどくさい〜














「申し訳ないが頼めるか? ええ、では……しかし少しでも危険だと思うたらすぐに引いて下され」





 話し先の快い返事を聞いて、通話終了ボタンを押す。携帯を閉じて懐に仕舞った。





 すると、隣で道場着を見て、右手に竹刀を持った鉄之助がキラキラした目をより一層輝かせる。





「鉄、稽古付けてやるから先に道場に行っておれ」




「はい!」





 数秒後、彼女に何本も打ち込まれる事になるとは知りつつも、鉄之助は嬉々と返事をした。















 同時刻、見廻組屯所。





 高層ビルのようにデカデカとそびえ立つそれが、彼らの集う場所であった。





 その一室から、公務執行妨害で逮捕された銀時がしげしげと歩いている。





 彼の視界の正面には、沖田が事も無げに佇んでいた。





「旦那ァ、お勤めご苦労様で」





 沖田が言うやいなや、黒い鉄球がかれをめがけてまっすぐ飛んできた。





 首を傾けてそれを躱す。黒い鉄球は地面に強く叩きつけられ、付いている鎖が引くままに、リバウンドするように跳ね返る。





 銀時の手首と、鉄球が鎖でつながっていた。






「ひでーな旦那ァ。逮捕の件で怒ってんならお門違いですよ。罪は土方さん達にある訳であって、俺は無実です」





「俺もないけどね!!」






 先ほどよりも数倍速く放られた鉄球に、流石の沖田もすぐには反応出来なかった。





 このままぶつかるのかと思えば、次の瞬間、パァンと乾いた音が響く。





 そして鉄の塊は散り散りになって飛んでいったのだ。





「はいは〜い。ごめんなさいねぇ、荒っぽいのはここまでにしてくれないかしら?」





 振り返ると、局長の佐々木と、その隣に明るい茶髪の美人がいた。





 官能的な女体の上に、ワンピース状にしたベストと長い上着を身に纏う。





 ベストからはスラリとした長い脚が伸びて、白いパンプスを履いている。その手には、銃口に煙を立てた銃が握られていた。





 その人物の登場に、沖田は眉をしかめた。「こいつは誰だ」とでも言いたげに。





「ああ、あらあら。アタシの自己紹介はまだだわね。ごめんなさい」





 沖田の心情を察したのか、懐から警察手帳を取り出す。それを読んだ銀時も、沖田も大きく目を丸めた。






 『特別武装警察 見廻組副局長 渡辺凶太郎』と書いてあったからだ。





 上着の長さからして、それなりの地位にいる事は予想できた。彼らが驚いたのは名前の方だ。間違っても妖艶な美女に相応しい名ではない。





「気安く『凶子』って呼んでちょうだいね?」





 フランクな言葉遣いとは裏腹な力強い口調。これ以上は踏み込まない方が身のためだと本能が訴えた。





 その一連の流れを見ていた佐々木が凶子に対して視線をやる。





 気が付いた凶子は、ごめんなさいと言わんばかりに一歩下がった。






「どうか、真選組を責めないで頂けますか。責任は全面的に当方にありますので」






 真選組の友人とは知らずに無礼を働いたと詫びる佐々木。





 銀時に口頭で教えてもらったアドレスを打ち込んでいるのか、携帯を片手に話をはじめる。





「しかし鼻はドーベルマン並の自信があったのですがねえ。貴方からは確かに深い業の匂りがした」





 佐々木の一言に、銀時は着物やインナーの匂いを嗅ぎ始める。





 臭くないよね。大丈夫だよねと沖田にも確認を強要した。匂いを嗅ぎながら今度は沖田が口を開く。





「まぁ正確に言うと誤認逮捕じゃないですからね。四捨五入したら犯罪者ですからねこの人」




「あら、そうなの? まぁそれくらい危険な匂いがする方が男はモテるわよ?」




「ウルセー!! テメーに言われても嬉しかねんだよこのオカマ野郎!!」




「誰がオカマよ言っとくけどアタシが女なのは見た目と口調だけだから!! 心と性癖はちゃんと男のそれよ!!」






 ギャイギャイと口論が始まった一同を、話に引き戻すかのように佐々木はチラシを差し出した。





 CMで、本日の朝刊に入っていると言っていたチラシだった。






「慰謝料、スクーターの修理費、その他諸々。いくらでも出しますからお好きな額を此方のチラ裏にでも書いておいてください」





「チラ裏だァ!? エリートが庶民バカにしてんじゃねぇぞ!! こんなんで俺の傷付いた心が癒せるとでも思ってんのか!! あぁ!?」





 佐々木に手渡されたチラシを引き裂いて、銀時は床にしゃがみ込む。





 そしてどこからか引っ張ってきたトイレットペーパーに、筆をしたため始めた。





 書き始めに1の数字を書き、その後はゼロが延々と続く。これが通ったなら、見廻組は相当の額を払うことになるだろう。





「旦那。そんなもんに書いても無駄ですよ。何故なら水に流されるだけです」





 すぐさま、沖田がトイレットペーパーで鼻をかんだ音が響いた。




 ありもしない鼻水を、無理に引き出しながら沖田は口を動かす。





「佐々木殿、渡辺殿も。気遣いは結構でさァ。ウチの副長ズが粗相しでかしたらしいんで、これでおあいこって事で」





「何しやがんだアアァァ!! テメェ俺にこんな事してタダで済むと思うなよ!? ウチの姐さんが黙っちゃいねぇぞオイィ!!」





「いえ、其方にはゴミである愚弟の処理もお頼みしましたから、何なら処分費も上乗せしてもいいですよ? 此方のゴミは此方で片しますよ」





「サブちゃん、これ以上は経費でおとせないわよ? 勘定方が黙っちゃいないわよ?」





 銀時と凶子の茶々を無視しつつも、沖田と佐々木で会話が成立してゆく。





「いや、ソイツも果たせなさそうなんで言ってるんですよ。困りまさァ。ゴミを出す時は分別してくんねーと」





 不燃ゴミかと思えば。存外、燃えるゴミだったらしいですよ





 1とゼロが書き連ねられたトイレットペーパーを丸めて佐々木の方に放り投げる。





「あ、そのゴミ。捨てといてくだせえ。じゃあ」






「沖田さん。一つ忠告しておきます」






 
 腐ったゴミは二度と元には戻りません





 それどころか菌を撒き散らし、周りの者まで腐らせるのです





 早く始末しないと、貴方達真選組も大変なことになりますよ








 言葉を返さずにその場を去る沖田の背中を、お見送りして来るわねと言ってから凶子が後を追った。





 丸められたトイレットペーパーを元通り広げようとする銀時と、立ち尽くす佐々木だけが残っている。





「……そんなにお金に困られているんですか?」




「あたりめーだろ!! テメー等ボンボンと違って、俺達は生きてくだけで精一杯なんだよ!!」






 じゃ、お仕事紹介して差し上げましょう。








 江戸の天気は、鉛色の曇りだった。
















 その頃、鉄之助は未だに恋歌との稽古に明け暮れていた。





 女といえども真選組隊士。力いっぱい向かっても、攻撃はひらりと躱され、次の手を繰り出す前に一本取られる。





 もう数日続けている稽古だが、恋歌から一本取ったどころか、太刀を交わした事もない。





 本日だけでも何十回目になるのやら。鉄之助は地面に転がっていた。





「何じゃお前もやしっ子だったのか? それでは一日もせぬ間に浪士共に斬り捨てられるぞ?」





「う、うっす……」





 転がる鉄之助を眺めながら、もう一手しようか迷っていると、縁側の方から誰かが来る音がした。





 その音を聞くほど、何故だか頭が痛くなる。そういえば提出していない書類があった事を思い出した。





「鉄、私ちょっと仕事に戻るから。私は此処には来なかったことにしろ。良いな?」





 じゃあな、と足早に廊下側から去る恋歌に、立ち上がって礼をするほどの体力すら鉄之助には残っていなかった。





 辛うじて「有難うございました」と細い声を絞り出したのだ。





 慌ただしい足音が消えたとほぼ同時に、新たにゆったりした足音が稽古場に入ってくる。





「随分ボロボロにされたもんだな」





 日頃彼に付き従っている鉄之助には、声だけで誰が入ってきたのか分かる。





 反射的に上体だけを起こし、慌てて弁明に入った。





「ふ、副長! 違うんです!! 須藤さんは此処には来てません!! マジですから!!」





 鉄之助としては、恋歌との約束を守ったつもりでいるのだろう。





 その発言は俺に告発したのも同然だぞとは、土方も敢えて言わなかった。





「半端な努力じゃ一生かかってもアイツにゃ勝てやしねーぞ。晩飯までに三千回素振りしとけ」





 また火の点いていない煙草を口にくわえて、吐き捨てるように言う。





 しかし、鉄之助は返事の割に長い言葉を、重々しい口調で連ねた。






「自分……強くなるッス。きっと……須藤さんより、兄貴より……」







 副長より、強くなってみせるッス






 口元の煙草が微かに動いているのに、背を向けられている鉄之助は知らない。






 立ち止まらないように。早く皆と、同じ道を歩めるように。





 鉄之助は続けた。





「だ、だから……副長も強くなって下さい」






 まさか鉄之助からそんな言葉が出るとは思わなかったのだろう。





 向けていた背を翻して、地面に転がる鉄之助を視界に入れる。








 副長の兄上は、副長のことを恨んでなんかいませんよ






 きっと、副長に会いたがっています





 だって、副長は、小さい体で必死に兄上を護ろうとしただけじゃないですか





 兄上は、必死に副長を護ろうとしただけじゃないですか





 立派な兄弟です。自分は、副長が羨ましいです





 だから……どうか。兄上から逃げないであげて下さい









「貴方、バラガキのトシでしょ?」






 鉄之助の心の叫びに、土方は否とも応とも言わなかった。





「ったく、どこのどいつだ。アホに余計なこと吹き込んだ奴ァ」





 縁側とこの部屋を仕切る障子を開ける。綺麗な満月が、夜空に浮かんでいた。





「いいか。今度俺の前でその名を口にしてみろ」





 全身の穴にマヨネーズぶち込んで殺すぞ






 物憂げに、タバコの煙が一直線に伸びる。空気に溶ける寸前の煙が、月にかかった。
















 それから一夜明けて、土方が自室で仕事をしている時だった。





「失礼しまーす副長ー!! 焼きそばパン、買って来ましたアアァァ!!」





 ドタドタと騒がしい音が近付いて来たと思えば、鉄之助の大きな声が聞こえた。





 今日中に終わらせてしまいたいというのに、頼んでもいない事をされると鬱陶しくて仕方ない。





「いらねぇ。つーか頼んでもねーのに焼きそばパンてどんだけパシリ属性なんだテメー」





 容赦なく突っ撥ねても、鉄之助はめげはしない。





 肩を揉むか、煙草でも買ってくるか、部屋を掃除するかと食い下がってくるのだ。





「副長、マヨネーズお持ちしました」




「ありがとう。もういいからあっち行って」





「副長? もしかしてたってんじゃ……」





 最後の申し出は言い切る前に鉄之助の体が障子もとろも中庭に飛ばされていった。





 吹っ飛ばして無くなった障子があった場所から土方も部屋から出てくる。





「言われた事だけやってりゃいいんだよテメーは! 鬱陶しい」





「申し訳ありません! 何か副長の役に立てることはないかと!!」 





 地面に座して食い下がる鉄之助に、土方は一枚の便箋を投げて寄越した。





 恐らく外に出て郵送してこいということなのだろう。便箋はヒラヒラ舞い、鉄之助の目の前で着地した。





「俺より強くなるって? やれるもんならやってみろよ」





 その台詞だけを捨てて、土方は部屋の障子をピシャリと閉めた。





 鉄之助は便箋を手に取る。裏返してみると、便箋の中の手紙を宛てる人物の名前が書いてあったのだ。





 『土方為五郎様』






 丁寧な毛筆を見て、鉄之助の胸の中に熱い何かが満ち広がっていくような気がした。






「はい……必ずやり遂げてみせます……ッ!!」









 
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