銀魂〜突撃! 真選組!!〜
□原作長編リメイクPart2
7ページ/15ページ
〜ストーカー対策はしっかりと〜
同じ頃、とっくに言いつけられた仕事を抜け出した恋歌は昨日の電話主と会っていた。
危険なことをさせてしまった事を謝罪すると、電話主改め出浦時雨はいいのよと笑う。
「でもごめんなさいね。エリートを自称する集団だけあって警備が厳重でね。表立って追っているテロ組織の事しか分からなかったわ」
「そうか……」
「それから、どうも日頃からストーカー対策はしてあるみたいね。どこへついて行こうにも撒かれちゃったわ」
今回は安全第一って事だったし深追いもしなかったのよ。と時雨は申し訳なさそうに述べた。
恋歌としては深追いしたせいで彼女に危険が及ぶ事だけは避けたかったので、感謝の念しかない。
「だが裏を返せば、そんな工夫をせねばならんくらいに後ろめたい事情がある……という事か?」
「そう解釈して間違いなさそう」
毛先を指に巻き付かせながら述べる時雨は、やがて指に巻きつけた紙をスルリと滑らせた。
「ところで、今副長さんにはボンボンの小姓がいなかった? 確か見廻組局長さんの弟くん」
「鉄の事か?」
時雨は首肯してから話を進めた。
「ちょっと気になる情報を手に入れてね? 伝えた方がいいと思って詳しく調べてみたわ」
「鉄の情報?」
「ええ。今、見廻組の連中が追っている『知恵空党』って組織なんだけど……」
時雨の話が進むごとに、恋歌は、自分の顔に血色が失われていくのを感じた。
土方の言いつけ通りに手紙の郵送へ向かう鉄之助。手紙を両の手に、しっかり掴んで離さない。
彼の進む路地の裏に、怪しげな影がこぞって点在していた。
「オイ新入り! もうすぐ標的がこっちに来るぞ。逃がさねーようにちゃんと見張っとけYO!」
「え? ああ、あいあいさー」
新入り、と言われた銀髪の男は鼻をほじりながら先輩命令を生返事で返す。
銀髪の男、銀時は佐々木に支給された携帯電話を片手に怪しげな影の中に混じっていた。
そう、これが佐々木に紹介された銀時の就職先、もとい潜入先である。
彼に言い渡されたのは、見廻組が逮捕を狙っている『知恵空党』への潜入。
及び、彼等が近頃行おうとしている大規模なテロ活動の日時、場所を割り出し情報を横流しすることである。
そのくらい自分達ですればいいのに。という銀時の心中を察したのか、佐々木はこう言ったのだ。
私たちはエリートのエリートによるエリートの為のエリート警察なのだ。
連中の中に潜入してもエリートな雰囲気が露骨に漏れ、直様エリートと発覚する恐れがある、と。
例えるなら、AKBの板野友美が可愛すぎてステージ上でも逆に浮く。そんな状態になるらしい。
銀時としては、潜入先がAKBならば、スリーサイズまで喜んで調べてくる所存であった。
しかし言い渡されたのはJOY。攘夷だ。ポニーテールに天誅である。ヘビーローテンションである。
食い下がってはみたが、銀時の柄の悪さならJOYでセンターを取ることも夢ではない。
会いに行けるテロリストNo.1も夢ではない。
危険な仕事ではあるが、成功した暁にはCD何百万でも貢ぐことを約束する。
必ず銀時に、総選挙で1位を取らせてみせる。
と、佐々木に上手い具合に乗せられて銀時はここに居るのだ。
新八や神楽、時雨を連れて来なかった自分のファインプレーに銀時は心の中で賛辞を送る。
さて、仕事をしよう。腹を括って今から知恵空党銀時として標的を見張る。
そう決めた矢先に、携帯のバイブレーションが作動した。
何事だとアンニュイな気分にさせられたが、タイトルの『緊急連絡』を見て、流石に顔色が変わる。
まさか、見廻組の方に何かあったのか。ボタンを押して、本文を見てみた。
『部下のノブたすの差し入れ ギザうます(^〜^( 早く帰って来ないと銀たんの分なくなっちゃうお(v^-゜) P.S ほしかったらメールしてネ』
色とりどりのドーナツの写真が添付されたそれを最後まで読むことなく、携帯電話を折りたたんで懐に入れる。
ものの五秒も経たない内に、また携帯電話が震えだした。
『ウソだお☆ 銀たんの分はとってあるからお仕事頑張ってネ 無事を祈ってお守りを買ったお(゜_゜)ノ』
今度はお守りの写真が添付されていた。P.Sの部分は読まずに携帯電話を仕舞う。
しかしこの三秒後に、携帯電話は佐々木のメールをキャッチした。
『晴れるのを祈って、てるてる坊主を作ったお(^o^) P.S そちらの天気が気になります。メールしてネm(_ _)m』
てるてる坊主の写真とともに送られてくるメールにも銀時はただ読んで、携帯を仕舞った。
ほどなくしてまたバイブレーションが鳴る。
流石に銀時の堪忍袋も音を立ててブチ切れそうだった。
『メールが来るのを祈ってみたお☆ P.S ウサギってさびしいと死んじゃうんだよ』
自分の首をてるてる坊主のようにぶら下げた佐々木の写真が添付されたメールが送られた。
「ギザウザすうううううぅぅぅぅぅ!!」
最後の一文まで読んだのと、携帯電話を地面に叩きつけたのはほぼ同時だった。
「どんだけメール欲しいんだ携帯依存症がアァ!! しょこたん並の構ってオーラだぞ!!」
先輩方が訝しげな表情で銀時を見やっても、携帯を破壊する作業は止まらない。
原型が分からなくなるほど粉々になり、そこでようやく落ち着く。
これでもうあのエンドレスバイブレーションの呪縛に頭を抱えることはない。そう思った時だった。
ブーッ、ブーッ……
音のする方を見てみれば、そこには木で出来た格子付きの窓だった。
格子の隙間から、音を立てて携帯が姿を現したのだ。
先の展開が読めてきた銀時であったが、それでも携帯電話を手に取る。
通話ボタンを押し、左耳にそれを充てた。
『壊しても無駄だお』
「テメーの用意周到さが一番無駄だわ!!」
邪魔するなと言いたいのが分からないのだろうか。その旨を怒鳴りながら伝える。
すると佐々木は何時ものねちっこい口調に戻して声を発した。
『邪魔などしていませんよ。そろそろお目当てが来る頃と連絡して差し上げたのです』
「お目当て?」
ホラホラ。うかうかしてたら行っちゃいますよ?
銀時の背中を、手紙を抱えた鉄之助が通り過ぎていった。
その頃、屯所では近藤と土方が鉄之助の帰りを待っている所であった。
「アイツ……ポストとかどこにあるのか分かってんだろーな」
「心配ねえよ。ポストなんぞなくてもとっくに届いたさ。お前から、アイツに送った手紙なら」
アイツは……鉄は、もう大丈夫だ。
まるで親同士のような会話をしていると、玄関から慌ただしい音が聞こえた。
朝から外に出ていた恋歌が、近藤達目掛けて慌ただしく駆けてくるではないか。
彼等の目の前でブレーキをかけ、前かがみになって乱れた息を整える。
「おう、恋歌。おかえり。どうしたんだそんなに慌てて」
「昨日の書類に不備があるっつったら絞め殺すぞ」
「おー……後でなら幾らでも殺されてやる。それより鉄は。鉄はおるか?」
顔を上げた彼女の眼差しに、只事ではないことを悟る。
「いや、外に手紙出しに行かせたが……何があった」
土方の返事に愕然とした表情を見せてから、思慮を巡らせているのか目を伏せる恋歌。
帯刀した刀の柄を握って「事情は鉄を連れて帰って来てから説明する」と口早にまくし立て、猫のように塀に飛び乗り、そして降りた。
そんな彼女が帰ってきたのは、屯所に一本の電話が届いたという連絡を受けてからだった。