銀魂〜突撃! 真選組!!〜
□短編集
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〜原作ですらテコ入れしてるんだし二次創作でも必要だと思うの〜
ある料亭のとある一室。そこでは、普段ならまず揃うことのない面子が顔を突き合わせていた。
長机の主役席に、どこかの司令よろしくポーズを取って座っている李麻の姿。
彼の手前に恋歌と時雨が向かい合って座り、その隣に芽衣子と望朔、その隣に斉藤さんが座っている。
「で? 銀魂二次創作だっていうのに原作キャラを除けて私達オリキャラだけ集めて何馬鹿な事をするつもりなの? 李麻君」
くだらない用件なら翌朝貴方の死体を川に流すわよとクナイをちらつかせる時雨に李麻は落ち着いてと制した。
「僕らは今までこの小説でさ、さも『え? 元々居ましたけど?』的な顔して好き勝手してきたけどさ……」
僕たちにも、これまでの所業を振り返る時が来たんじゃないのかな
李麻がポツリと呟くと、彼女達の表情も変わる。それぞれ思う節があるのだろう。
「そうですわね。各々のキャラステータスを把握し、原作の足を引っ張らないように改善する、低能にしては良いお考えですわ」
「でしょ? まずさしあたってはふくちょーの土方さん大好きっ子キャラを早急に改変すべきだと思うんだよね」
「ちょっと待って!?」
芽衣子の言葉のジャブを軽々受け止めた李麻は、新たに恋歌に向けて言葉の拳を振り下ろした。
当然ながら、反論だといわんばかりに恋歌は机に身を乗り出す。
「何故にそこから改変? 別に良かろうが! 土方は皆大好きじゃん!」
「そうだよ? 何せ土方さんは人気投票でトップ3から揺らいだことないもの。主人公の旦那に次ぐといっても過言ではないさ。でも先の事を考えてみなよ?」
この小説がこれからもっと大勢の目に触れて、多くの人が読んでいく日も来るわけじゃん。
今これを読んでくれている読者さんのように皆が作者(クズ)やふくちょーの蛮行を優しく見守ってくれるわけじゃないんだよ
何このクソ小説。全然原作大事にしてないじゃん。俺こんなの認めないんですけど。ミツバさんはどうなるの?
お前の私情のためだけに折角興味持ってくれた読者さんも離れていって僕らにまで迷惑かかるの。わかる?
「第一人の部屋の隣の部屋でイチャつくんじゃねーよ。一睡も出来ねーじゃねーか、クズめ」
「オイ本音そっちだろ!! 貴様の睡眠確保のために読者やミツバ殿で正当化してんじゃねーぞキャラ自体ペラッペラに薄いくせに!!」
「キャラが薄い」。それを聞いた瞬間、李麻の表情が凍てついたように固まる。
それを横目で見て、してやったりという顔を見せてから恋歌は続けた。
「初期の毒舌キャラは最早時雨殿の代名詞になってモテないキャラや中途半端にツッコミキャラにジョブチェンジして頑張っておるみたいだがやっぱ薄いよな」
「う、うるせーな!! ジョブチェンジは仕方ないじゃん! 僕だって生き残りたいもの!!」
「つーかさ、兎月族っていう戦闘種族だって設定はどこにいったの? 正直私もここに来るまでに忘れてたんだけど」
「それに関しては反論できねえよ!! 僕自身も忘れてたもん!! 普通に地球人だと思いかけてたもん!!」
自分のライフゲージがゴリゴリ削れていくのを頭の片隅に感じていた。
恋歌にもそれが分かっているのだろう。段々悦に入っていく表情が雄弁なほどに表れている。
「人のキャラに文句つける暇があるなら自分のキャラの線引きをハッキリさせたらどうなんじゃ? この雑魚キャラが」
「チクショオオォォ!! 人が連載初期から割と本気で気にしていたことをおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
恋歌のとどめの一言に、主役席に座っていた李麻はドシャリと崩れ落ちた。
僕のキャラは薄くないもん。皆が濃すぎるだけだもん、と呪文のように呟く李麻を置いて話は進む。
それまで手持ち無沙汰げにおさげにした黒髪を弄っていた望朔が、おもむろに自分の正面に座る芽衣子を指差した。
「キャラ薄い濃いの話ならあたしはこの人の方がよっぽど薄いと思うけど?」
「えっ、わたくし?」
唐突に踊り場に出された踊り子のような表情で、芽衣子は自分自身を指差す。望朔はそれに首肯した。
「だってー、お姉さんのキャラって大体誰かと被ってるから正直いる意味が分かんないんだよね」
望朔の発言に、芽衣子は怒りで顔を赤くし、肩をぶるぶる震わせる。
「そっ、それを言えば貴女のその殺し大好きっ子キャラだって神楽殿の兄上と丸被りじゃありませんの! 貴女のいる意味こそ何なんです!?」
「それは夜兎族はそういうもんだっていう原作の設定じゃーん。あたしが居なきゃ影蜘蛛さんは吉原炎上篇リメイクで誰と戦ってたのさ」
「そうでした。貴女には時雨殿の噛ませ犬という明確な役割がございましたわね。失礼致しました」
「は? 女副長の噛ませ犬に言われたくないんだけど」
芽衣子と望朔の周辺に嫌な雰囲気が張り詰める。まるで、戦場に立っているかのような雰囲気が張り詰めていた。
両者とも机上に足をかけた瞬間、その手を得物に伸ばした。
望朔はホルターから番傘を、芽衣子は背中手を回して、鞘から二刀の剣を引き抜く。
だがその二つの得物は交わされる前に、ベキィと凄まじい音が鳴る。
何事かと見てみれば、芽衣子の剣の刃先と望朔の番傘が半分ほど無くなっているではないか。
「折角普段の設定忘れて集まってはんのや。そんな喧嘩は止めえなお嬢さん等」
芽衣子と望朔の間に入ってきたのは、両手に包丁を構えた笑顔の斉藤さん。
彼女達は目の前で優雅に、それでいて不敵に微笑む最年長の女性に冷や汗を禁じ得なかった。
将軍指南役を仰せつかる名門柳生道場指折りの門下生と、宇宙海賊春雨の「雷槍」と恐れられる第七師団の総長。
その打ち合いの間に物怖じせず、絶妙なタイミングで間に入り両者の武器を粉砕する。
この女……只者ではない。望朔や芽衣子は無論、その場にいた李麻達も全く同じ事を考えていた。
「噛ませ犬でも本編に出番あるだけエエやないの。ウチなんて番外編にちょっとだけやで?」
「いや、斉藤さんうつくもに出てなんだったか? ホラ李麻と山崎が勝手に私のアルバム写真見た奴」
「あんなん出た内に入りません。今回もその事で話があるからわざわざ京から来たんやんか」
斉藤さんは一つ、咳払いをしてから一枚の模造紙を取り出す。
そこには『京遠征篇 提案書』とマッキーペンで文字が書かれてある。
「さしあたっては次回の長編は須藤はんを影で支えたウチを主役にした話にした方がエエんちゃうかと作者(バカ)に提案しようかと思てます」
各々のキャラ改変から話が飛んで次回の長編の話になった途端、真っ先に立ち上がったのは
「はい? そんな話があるくらいなら一話くらい『春雨篇』があってもいーんじゃない?」
「いーや!! 『僕のキャラは薄くない篇』を作るべきだろ!!」
「そんなモブキャラを主役に億ぐらいなら北大路様とわたくしのイチャイチャ話をを書いて然るべきですわ!!」
「どーでもいい奴等がイチャついておる話誰が読みたいんじゃ!! もう一話私達でいくべきだろ!!」
何言ってんだ!! そんな話もう一話でも書いてみろ読者が減る!!
アンタみたいな雑魚キャラ主役にした方が減るんじゃない?
黙りよし!! 須藤はんの京での暮らしは皆気になっとるやろ!! そっちでいくべきちゃうん!?
私は噛ませ犬ではありませんわ!!
口論が白熱していくのを、時雨は覚めた表情で見つめて、一言呟いた。
「こんな小説にどんだけ読者がつく夢見てるのかしらねあの子達」