銀魂〜突撃! 真選組!!〜

□ギャグパート集
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〜女子力とは内面からにじみ出る物であって一朝一夕で作れるもんじゃない〜












「で? 何で私がこんな所に来ねばならんのじゃ?」






「まぁまぁ。息抜きだと思ってきけばいーじゃん」








 休日。着物に帯刀という出で立ちで恋歌と李麻が居るのは江戸某所にある「女子力研究チーム屯所」と書かれたプチ講演会の会場だ。








 学校の家庭科室のように、一つのテーブルにいくつか椅子が置いてあるこの空間。







「大体何じゃ『女子力研究チーム』ってこの広告。字が丸っこくて読み辛い分余計にイラッと来るわ。本当に大丈夫だろうな?」








 そう李麻に訊いたのは、受付にいた水を顔面にかけてしまえば誰か分からなくなるのではというくらいに濃い化粧を施した受付の女を見たからだ。








『須藤サンと御月サンですね。また詳しぃコトとかゎ中に入ってヵら説明しますので待っててくださぃね?』








 妙に鼻のかかった声で、およそ日本語とは思えぬ話し方。丁寧に説明してくれた彼女には悪いのだが何故か癪に障ってしまった。







「そこは剣術と同じだよふくちょー。こういうのは普段からそんなんばっかやってる人に聞くのが一番いーの。それに此処って恋人に可愛く見られるためにはとか、可愛い彼女になるにはとかも研究してるらしいし」







「要らぬ世話じゃ馬鹿者が」







 低い声でそう言い、李麻を小突いた恋歌の顔は俄かに赤く染まったのだが、小突かれた衝撃で壁を突き破って廊下に飛び出た李麻はそれを見る事が叶わなかった。








 熱くなった頬に、手をうちわのように使い風を送っていると今まで空席だった恋歌の左隣から椅子と衣が擦れる音。








 振り返ってみると、黒髪のポニーテールに左目に眼帯を巻いた、よく知っている隻眼の少女が座っていた。








「恋ちゃん?」







「九ちゃん?」







 互いに、昔からの愛称で呼び合う彼女等は大きく見開かせた目を瞬かせて互いの顔をまじまじと見つめる。








 気まずい沈黙を先に恋歌が破る。







「驚いた。九ちゃんがこんなところに居るとは夢にも思わなんだったから」








 驚きから抜け出せぬせいで引きつった笑みを浮かべる恋歌に、九兵衛は咳払いをして言葉を紡ぐ。







「東城に四六時中泣きつかれて滅入ってしまったからな。それに……」







 九兵衛の右目がチラリと見る。すると後ろから見覚えのある女性が現れた。







「九ちゃん、どこに行っちゃったの……あら」






「妙殿!」








 探したんだからと仕方なさげに笑う九兵衛の隣に座る妙に対して声を挙げれば、彼女は笑みで返してくれた。








 成程、大好きな妙が此処に来る事を知ったからだな。生ぬるい笑みを九兵衛の後頭部に向けて、そのままそれを妙にも向けた。








「まさかこんなところで会えるだなんて。誰か可愛く見られたい人でもいるの?」







「ちっ違う! 李麻に連れてこられて仕方なくじゃ! それより妙殿は? もしかして……」







「此処に来れば男達が更に財布のひもを私達キャバ嬢に緩くする方法が分かるんじゃないかと思って」







 からかわれた仕返しをしてやろうと冷やかす前に今までの笑顔から一変して真顔でそう述べた妙に、恋歌も九兵衛も背筋に鳥肌が立つ。







「さ、流石は妙殿……」






「そんな妙ちゃんも僕は……」







 頬を赤らめて妙にそう言う幼馴染を横目に、恐らくはテクニックを覚えた妙の為に財布の紐を引き千切るであろう近藤に心の中で線香をあげて両手を合わせた。








 天帝の眼を持っている訳でもないのに見えてしまった未来が、程なくして実現するのを恋歌達は知る由もない。








「適当な事言って誤魔化そうったって私は騙されないわよ」








 頭の中であげた線香の香りが鼻の奥から蘇ってきたかのように思えたころ、線香とはほぼ対をなす匂いが鼻をつく。







 とっさに鼻をつまんだが、豆が発酵した匂いはそうそうに消えてくれない。聞こえるのはネチャネチャと何か粘液性のあるものをかき混ぜているような音。







 愉快とは言えない音を頼りに、いつの間にやら埋まっていた恋歌の正面を見遣ると、どこかで見た事あるような気がするメガネをかけた美女がそこにいた。








 左手に納豆が入ったお皿を持ち、右手の箸でそれを掻き回す姿を見て、原因はこの女だと理解する。








「甘いわねお妙さん。ここで習ったテクを駆使して銀さんに色目使って私を出し抜く気でいるんでしょうけどそうはいかないわ」








「言いがかりはよして下さい猿飛さん。それにあんな白髪全裸でカーペットに包まって出て来れば簡単に落とせるわよ?」








「それ何てクレオパトラ?」







 猿飛と呼ばれた彼女が奇声染みた声で妙に詰め寄るのと、笑顔を崩すことなく返す妙の間に恋歌はボソリとツッコミを入れた。








 しかしそのツッコミを聞いた途端に猿飛の眼鏡を突き破るほどの殺気めいた目線が此方に飛んで来て、ああツッコまなければ良かったと後悔する。







「何ツッコミ役に回って『自分は違う』みたいなスタンスでいるのよ!! アンタだって腹の中では銀さん寝取る気満々なんでしょこの泥棒猫!!」







「あんな腐れ天パどーでもいいし何を連載初期で突っ掛ってたネタ引きずってんじゃこのメス●!! 寝転がって人の心が取れたら苦労ないわ!!」







「寝取るってそういう事じゃないからカマトトぶってんじゃないわよこのクソアマアアァァ!」







「うるせえストーカー女!! じゃあ寝取るってどういう意味だよ言ってみろよオオォォ!!」








 熱のこもった口論と目線のぶつかり合いで出来た火花が散る。







 いよいよ恋歌の手がごく自然に刀の柄にかかった時、その上に九兵衛の手が乗った。







 九兵衛の手の体温に幾分頭に沸騰して出来た血の泡がコポコポと落ち着いてやがてサアッと引いた。







「その辺にしておけ。猿飛、恋ちゃん」








 言いながら、彼女はクナイを握っていた猿飛の手にも同じように自分の手を乗せている。








 そんな事も見えていなかったのかと、先刻までの己の怒りようを恥じた。







「九ちゃん……」







「猿飛、君が先ほどから突っ掛っている銀時の事なら誤解だと証言出来る。何故なら恋ちゃんが好きなのはひじ……ムゴッ」







 残り二文字を言う前に、恋歌は九兵衛の口元を右手で覆った。その拍子に「パンッ」と小気味の良い音が部屋の隅で鳴り響いた。







 す、済まない。カッとなってつい……







 気にするな。とてつもなく面倒臭い事になりそうな気がするから言わないでおこう。アイツにはこのままでいこう








 目線と瞬きだけで会話する九兵衛と恋歌。目が離れてから、九兵衛も続きを言わない。








 しかし、面白そうな事を聞き逃した猿飛としては面白くも何ともない。







 何とか難を逃れたかと胸をなで下ろした恋歌が横目に見たのは、そんな猿飛の白けた目と顔だった。






「あの、須藤さん? 『ひじ』って何? え、貴女も知ってて『ひじ』って言ったら確か……」







「お黙り!! 私にそんな字から始まる名前の知り合い居ません!! 私が好きなのはあのアレ、ひじきだよ。黙ってたんだけど大好きなんだよ。ひじきの事が」







 眼球は右往左往白目の海を泳ぎ、白い肌には大量の脂汗が浮かんでいる。







 しかし、しかしだ。そんな様で言われても、ただの言い訳の類にしか聞こえないわけで。それは自分で口走りながらでも分かるわけで。







 当然、猿飛が恋歌に白けた目線を送ってくるその気持ちは痛いほど分かるのであって。






「え? 何その目。ホントだからな? 嘘だと思うならウチ来るか? マジでひじきしかないから。もう私ひじき無しじゃ生きていけぬから」







「どんな女よ!! もうそれ女子力どころか女諦めた方が早いんじゃない!?」







「オメーにだけは言われとうない!!」








 猿飛と恋歌が互いの袂を引っ掴み合いながら言い合いを始めた頃、恋歌に小突かれて教室から出ていった李麻が鼻から滴る血を抑えながら教室の入り口の内側に足を踏み入れる。







「ったく、ただの照れ隠しで吹っ飛ばす勢いで殴るかな普通」






 一瞬、どこのテーブルに座っていたっけと思考を逡巡させるが、入るなり騒いでいるテーブルが一つあったお陰で必要なくなった。







 こんな講習会で騒げる女など、男所帯の中女だてらに副長張ってるあの女しかおるまい。







 しかし、先程まで恋歌と自分以外座っていなかったはずのテーブルを見た瞬間、李麻の眼は一気に白くなる。






 口は顎が外れそうな勢いで大きくかき開き、体はまるで石化したかのように指先一本も動きはしない。








 何も見えないはずの彼の白目に映るのは、見た目は美人の皮を被った男のような女達の姿。







(何かあのテーブルだけ鬼嫁が金管理してる家の旦那の小遣いの金額くらい低いんだけど!! 僕が居なくなった隙に何があったんだよ!!)







 他のテーブルに座っている町娘達も、騒いでいる女達の姿を、李麻とは違う意味で白い目を向けている。







 ヤバイ。このテーブルヤバイ。







 李麻の頭に退却の二文字が浮かび、つま先が教室の外側を向けたその時だ。マイクのスイッチを入れた音と、呼吸の音が聞こえたのは。







『みなさぁ〜ん! 今から講習を行いますので座席に着いて下さぁい!』







 砂糖菓子のように甘い……というより直接砂糖を舐めた時に起こる胸焼けのような感覚を覚える声をマイクが拾っていく。







 その一言を皮切りに、教室のドアと窓が全て閉まる。








 キャイキャイと騒ぐように話していた女達も、ごうごうとドスの利いた叫び声をまくし立てていた女達も時間が止まったかのようにしんと静まった。







(は、始まってしまった……)







 軽い気持ちで恋歌を此処へ誘った事を、今頃になって後悔する。







 頭では後悔しながらも、化粧と香水の香りが濃い講師達の言う事に逆らう訳にはいかない。







 李麻の足は、当初の予定どおりに恋歌に退場させられるまで座っていた椅子へと向かっていた。








 こうなったらやる事は一つしかない。












 僕はきっと……この男女共を誰もが認める立派な女子にしてみせる……!!












 続く
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