銀魂〜出動!真選組!!〜

□恋歌篇
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もう一人の副局長〜一人称「わたし」じゃなくて「わたくし」だから〜





私は何時から刀を腰に刺していただろう。


チャンバラ遊びに憧れてからか?それとも女の子の遊びが嫌いだったからか?


刀を持つ父親の姿に憧れてからだっただろうか・・・・・・・・・・


この世に生まれて10年目の日。父親はとびきり綺麗な着物をプレゼントしてくれた。


でも代わり取り上げられたのは・・・・・あんなに大事にしていた刀。


「刀なぞ女のお前が持ってもよい代物だと思うておるのか!!」


それは、あまりにも鮮やかに。あまりにも深く。心の奥底に突き刺さった。






















それから九年の年月が経った。


「おぅおぅ!!お宅のお坊ちゃんドいう教育してンのお母さん!!」


「俺の服にベットリアイスクリームついちゃったよォ・・・どう責任とんだあぁ!?」


「ごめんなさい!!いくらでも弁償はしますから!!」


我が子を抱えながらゴロツキの二つの罵声を耐え凌ぐ母親。


「オレたちゃ天下の攘夷浪士だぜぇ!?その攘夷浪士様にこんなことしてどうなるのか・・・・・・

きっちり教えてやらねぇと・・・・なっ!!」


突風のごとく母親に迫り来る刀。母親は子供をより一層強く抱え強くまぶたを閉じた。












しかし刀はまだ降りかからない。母親が不思議に思い重いまぶたをゆっくりと開ける。


すると信じられない光景が目に飛び込む。


みれば男の太い腕は、白く細い腕一本で完全に動きを封じられているではないか。


「だ・・・・誰だテメェは!!」


掴まれた腕を強引に振り払い、刀の進路を遮った腕の主の方向を見る。


自分の動きを封じ込めたのは力仕事を担う男でも、大柄な熟女でもない。


通りすがりであろう若い娘であった。


栗色の真っ直ぐな髪を腰までおろし、みるもの全てを吸い込むようなキッとした緑色の目。


緩く着ている着物越しからでも滲み出ている美しい体つき。


美少女。いや、美女という言葉の方が当てはまっていた。


彼女は口を微動だに動かさない。ただゴロツキ二人を睨んでいるだけだった。


「誰だって訊いてるのが聞こえねぇのかぁ!!」


一度母親に向かった刀は、そのまま彼女に迫った。



ゴスッ!!



ただ一度だけ棒のようなものが肉に当たった音だけがした。


何が起こったのかは誰も分からない。しかし、彼女の前に男が鳩尾を抑えて倒れ込んだ。


そして彼女の手にはすぐ傍にあったであろうほうきが握られていた。


「こっ・・・・このアマァ!!」


後ろめたさ交じりに刀を向けて走ってくるもう一人のゴロツキ。


しかしゴロツキは足で急ブレーキをかける。


自分の目と目の間に、ほうきの先端が現れたからだ。自分で脂汗が滲んできたのが分かる。


ゴロツキは自分達の世界で巷で噂になっている女の話が頭をかすめた。


江戸では悪事を働かない方がいい。『あいつ』がやってくる。


見た目は絵にも描けない美人だが、喧嘩技と力は普通の女とかけ離れてやがる。


名前・・・・そういえば一度だけ名乗ったらしい。確か・・・・・・・・


「・・・・す・・・・須藤・・・・・・・須藤恋歌(すどうれんか)・・・・・か?」


拭きたいであろう脂汗を垂らしながら目の前の人物に問う。


彼女はただの一つも声を出さずに、ほうきを道端に捨ててその場にくるりと背を向けた。


「・・・・・・分かったら江戸には顔を出さない方がいい。」


その場にへたり込んだゴロツキにただ一言残して。






























夕焼け空。この辺りは道場の近くだ。


天人が来るまでは、この時間には竹刀を担いだ子供達が家路を急いでいた。


天人が来てからは、笑い声も涙音も聞こえなければこの辺りにはもう人気もない。


もう帰るか。そう思ってた時、道場の電柱にふと人影が見えた。


嘘だろう?暗くて見えにくい中、恋歌は目を凝らして人影の正体を暴こうとした。


どうやら男の影らしい。髪の毛はおっ立っていて、何か猿人類・・・ゴリラのような風貌だった。


不審者か?


固められた砂を鳴らし、怪しい人影へと足を向けた。
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