IS〜インフィニット・ストラトス〜死神の黒兎

□Decision--決意--
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 五月半ばに差し掛かり、肌寒かった陽気にようやく春が訪れた。ぽかぽかとした心地よい太陽の光が、それを受ける者に四季の移り変わりを教えてくれる。つい先日までは冬同然の格好の人々が目立っていたショッピングモールも、今日は春らしい薄手の服装が多数を占めていた。
 ショッピングモールのあちらこちらでは、夏物の早売りセールと銘打って各店が客を呼び込もうと大声を張り上げていた。恋人同士と思われるカップルを呼び止めては、ペアリングのシャツはどうかと聞き回っている。男女のカップルらしき影を見つけたら、呼び止め商品を提示する。販売員はそれを日中の間繰り返し、売上に貢献するのだ。
「あ、そこのカップルさん。デートですか?」
 また一人の販売員が一組の男女に目をつけた。高校生らしきカップルだった。どこかで見たような気がする二枚目の男と、女にしては背が高い凛々しい女性の二人組。どちらも外見はよかった。彼らに試着でもしてもらえれば、それなりに商品も映えるかもしれない。販売員はそう考え、この道十数年の営業スマイルをカップルに向けた。ここで一考してくれれば儲けものと思っていた。
 だが、そんな販売員の予想とは裏腹にカップルの片割れから飛んできたのは、狼狽と否定の連なりだった。
「カップル!? ち、違うぞ! わ、私と一夏は決してそのような不埒な関係で、は…………」
 途中で恥ずかしくなったのか、語尾が尻すぼみに消えていった。よく見ると、女の方は顔が真っ赤だ。血液の循環が心臓の脈動とともに早くなり、顔の血管という血管に血を巡らせている。居たたまれなくなった。申し訳ない、というより差し出がましいことをした。どうも男女ペアとはいえ、恋人同士ではなかったようだ。とはいえ、女性の方の反応を見た販売員の脳裏には「ははーん」と閃きがあった。女性の呼吸が幾何か落ち着いたところで、再び営業スマイルを顔に張り付けた。
「当店では、現在カップルフェアというものを開催しております。男女二組でご購入されると、値段に応じて現金のキャッシュバックがあり、大変お得となっておりますので、機会があったらお越しくださいませ」
「へぇ。もし、時間があったら寄ってみようぜ、箒」
「じ、時間があったらな! あったらだぞ!」
 箒が顔を真っ赤にし、羞恥を吹き飛ばそうと大声で言った。一瞬、面喰った一夏も「おお。なら行こうぜ」と歩みを再開した。その背を少し縮こまるようにして、箒が追随していく。
 そんな二人組を見送りながら、販売員はがんばれと小さく呟き、また通りかかるカップルへと声をかけた。
 
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