IS〜インフィニット・ストラトス《蒼き月の輝き》

□とある午後の昼前
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 巨大フルーツタワーパフェというだけあって、色とりどりの果物が白いホイップクリームの上に添えられ色彩をより豊かにしている。それに加え、タワーという名なに恥じぬクリームのタワーは写真で見るよりも何十倍の迫力だ。
 俺も弾もつばをごくりと呑み込んだ。予想外の大きさに二人とも驚愕していたのだ。食べ盛りの高校生が二人。頑張ればいけるかもしれない――――そう思っていたのがつい一分前。このパフェを完食したのはたった一人だけ、という話を聞いたときは半信半疑だったが今となってはそれも頷けた。
 しかし、食べないことには始まらない。スプーンでタワーの端の方を掬うとそのまま口の中に運んだ。クリームの甘さが口の中全体に広がり、クリームが消えたそれは消えることなく口の中に居座り続けた。続けざまに食べたキュウイの酸っぱさがその甘さを緩和させる。

「美味いな……これ」

「確かに美味いんだが……甘すぎないか?」
 
 弾のその問いに俺は無言で同意を示した。

「うんなこといってないで、さっさと食えよ。時間内に食べ終わらなかったら、料金半額にならないんだからな」
 
 このパフェは三十分という制限時間に食べ終わることができると、代金が半額になるという嬉しいサービスがある。だが、先程も言った通りこれを全て食べ終えたのは今まででたった一人だけだ。つまり、大半の人が制限時間内に食べ終わるどころか、この巨大パフェを食べきれてさえいないのだ。
 今日の代金はじゃんけんで負けた俺がもつこととなっている。俺の所持金は三千円。巨大フルーツタワーパフェの値段は千五百円。なんとしても、時間内に食べ終わらなければいけない。
 その思いを胸に俺は再び、甘ったるいクリームを掬った。


「またのご来店をお待ちしております」
 
 レジ係の店員が頭を下げるよりも早く俺は店を出た。
 結論から話すと、パフェは食べきれなかった。半分を終えたところで二人とも限界に達したために、ギブアップを宣言した――――心の中で――――。昼前だというのに何をやってるのだろうか、と思うと自然と自分が惨めに思えてきた。
 薄情な弾は用があるらしく先に帰ってしまっていた。朝の落ち込みようが嘘のような笑顔で。
 腕時計が示している時刻は十一時。今から歩いていけばバスの時間には間に合う。家に帰って寝よう。ただそれだけを考えて俺はあの忌々しいバス停へと再び歩き出した。
 お昼前だということもあるのか人通りが少ない。まるで広い荒野に一人置いてけぼりにされたような孤独感を感じる。友達と遊んだあとその友達が帰っていくときに感じるあの何とも言えない寂しさに似ている。あれは何度体験しても慣れないものだ。決して寂しがり屋というわけでもないが、できるなら誰かと一緒にいたいとは思う。寂しいから。
 しばらく歩いていると、見覚えのあるベンチがあった。これは俺がいつも利用するバス停に設置してある休憩用の椅子だ。俺はこれをよく利用させてもらっている、特に走った後は。
 ベンチに座り、現在の時刻とバスの到着予定時刻を確認する。

「十分後か……」
 
 バスが来るまでの十分間、一体何をして時間を潰そうか。こんなことなら読みかけの本を一冊ぐらい持ってきておけばよかった。そんなことを考えながら、何となく視線を下から上へと移した。
 今日の天気は快晴。青い空に浮かぶ雲がゆっくりと流れていき、それを見ているとなんだかボーっとしたくなる。まるで美術室に飾ってありそうな絵みたいだ。親指と人差し指をたて、ピストルのような形をつくり「ばんっ」とピストルを撃つ真似をしてみる。もちろん何も起こらない。俺の小さく呟いた声が行き交う車の騒音にかき消されていくだけだ。
 ポカポカと暖かい春の日差しの所為か、少しだけ眠くなってきた。人目をはばからず俺は大きなあくびをし、目尻に溜まった涙を指で拭き取る。あくびというのは眠たいというとき以外に退屈な時にも出るものらしい、と昨日見たテレビ番組で見たような気がする。確か、有名な学者や政治家たちがある議題をひたすら討論する番組だったはずだ。いつもはテレビに見向きもしないマドカが、今にでもテレビに噛り付くのではないかと思うほど近くでその番組を見ていたので、その内容は鮮明に俺の記憶に焼き付いている。
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