IS〜インフィニット・ストラトス〜死神の黒兎

□横暴と空腹
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それで……あんたとしては、どうなのよ」
「そりゃもちろん、やるなら勝ちにいくさ。男としてのプライドもあるからな」
 そういう一夏の表情には自信があるようには見えない。
 一夏が今いるのはIS学園内にある食堂だ。全寮制であるIS学園には当然のように食堂が完備されており、生徒は朝食、昼食、夕食の三食をここで食べる。使用できる時間は決まっているものの、その時間内であれば生徒は好きな物を好きなだけ食べることができるという素敵な食堂だ。勿論、食堂内の飲食物は一部を除けば全て無料である。
「それにしても、このうどん美味いな」
 何となく注文したうどんだが、何気に美味い。さすが国立なだけはある、と一夏は思った。
「まっ、この酢豚は私のやつの方が美味いんだけどね」
 そう言って凰(ファン)鈴音(リンイン)は酢豚を一口頬張る。自分が作った酢豚の方が美味い、と口で豪語しているものの内心ではこの酢豚の美味しさに驚いていた。だが、それは意地でも表情に出さない。出してしまえば、負けを認めてしまったことになると思っているからだ。この酢豚にだけは負けたくない、この食事中彼女はそんなことを密かに思い続けていた。
「ごちそうさまでした」
 予想以上に料理が美味かった所為かいつもより箸が進み、あっという間に食べ終わってしまった。
「さすがはIS学園、というところね。料理一つにしても一級品じゃない」
「ああ、そうだな。にしても、これどうやって作ってるんだろうな。後で千冬姉辺りにでも訊いてみようかな」
 学園に入学する以前、というより昨日まで一夏は千冬と二人で暮らしていた。千冬が家にいるのは数か月に一回のペースだったので、実質一人暮らしだ。当然、家事全般は一夏の仕事であり、特に料理の腕前は千冬も認めるほどである。主婦ならぬ主夫の血が騒ぐのか、一夏はこの料理を作った人物に会ってみたくなった。そして、訊くのだおいしい料理の作り方を。
 なんてことを、一夏が頭の中で思い描いているとき、鈴がふと口を開いた。
「そういえば、あんたともう一人いたわよね?」
「何がだ?」
「男子よ男子。ほら、あかなんとか、ってやつ」
「赤神、って言いたいのか?」
「そうそう、それそれ。そいつ、さっきここに来る前千冬さんに連れて行かれてたけど、何かあったの?」
「あぁ、それね……」
 鈴音の質問に一夏は思わず苦笑いを浮かべる。鈴音が言っているのは、恐らく四時限目の授業が終わった直後のあれのことだろう。あれについては一夏からは何も言えることはない。言えるとすれば、
「千冬姉には従順にしてよう」
「ど、どうしたの……一夏?」
 突然、遠い目をした一夏がそんなことを言ったので鈴音は何故か心配になった。四時限目の授業で一体何があったというのだろうか。
 そんな疑問を残しつつ、二人は食堂を出た。食道は人が多い、長居すると女子に囲まれておちおちくつろぐこともできなくなる。一夏にとってそういう事態になるのはどうしても避けたい。朝からいい意味でも悪い意味でも仰天することが立て続けに起きているためか、今の一夏は疲労困憊だ。あの少し騒がしい女性たちを相手にするのは、いささかきつい。
「暇だし、屋上にでも行く?」
「おう、いいぜ」
 屋上ならば人も疎らだろうと思い、一夏はすぐさま了承の返事を返した。
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