中二病でも恋がしたい! Cross

□第05話 闇聖典
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 河川敷の戦い。

 今回限りと前置きして中二病の力を覚醒させた丹生谷と、重傷を完治させずに戦場に立つ凸守。

 正直、戦闘態勢が取れていない、で済まされるレベルではない。

丹生谷森夏「食らえぇ!! “ジン・ブリューナック”ッ!!」

 両腕に備え付けた武具から無数の魔法弾を撃ち飛ばす丹生谷。

 しかし、今まで戦闘の経験がない丹生谷ではコントロールが上手くいくはずもない。

 放たれた魔法弾の内の一発が、凸守のミョルニルハンマーを弾き飛ばす。

凸守早苗「……ぅぁッ!?」

丹生谷森夏「…あッ」

 体勢が大きく崩れた凸守を狙って、北村が容赦なく右腕を振りかぶる。

 “あの攻撃”を放つつもりだ。

凸守早苗「ーーーッ!!」

 しかし、間一髪のところでミョルニルハンマーを手放した凸守が跳躍して後退する。

 攻撃を避けることはできたものの、万全ではない体に大きな動きの反動が耐えられず、すぐに膝を崩してしまう。

凸守早苗「……く…ッ」

北村颯希「……惜しい、惜しい」

 あくまでも余裕な様子を見せる北村。

 戦える状況ではない二人を前に、もう逃げようとする選択肢はないのだろう。

北村颯希「……中二病だけの、世界。自分一人の、世界」

 勝利を確信しているのか、ブツブツと独り言を呟きながら北村は両腕を振るって丹生谷たちを見据える。

北村颯希「……そよ風に、包まれて、ひっそりと、安らかに、眠れる世界。素晴らしい世界の、創造はきっと、もうすぐ」

二階堂啓壱「……一人きり……風……。なるほどな」

 北村の能力に当たりを付けた二階堂先生が、丹生谷と凸守にその旨を知らせる。

二階堂啓壱「丹生谷くん、凸ちゃん! おそらく相手は“一人系中二病”だ! 力の正体は“風”そのもの! 身の回りの風を凝縮して、爆発的な威力を出してやがる!」

 そう解説されては、北村も出し惜しみする意味がなくなったと思ったのか。

 またはバレたとしても勝利を確信しているのか、両腕を広げて能力を発動させる。

 自然の流れで吹いていたはずの風が、北村の両腕へと集まっていく。

 全ての風向きが北村に集中したことで、北村の持つ風の威力が今までの比ではないほどに拡大していく。

北村颯希「……気持ちいい、そよ風も、力強い、台風も、全ては同じ、風の力」

 ついには、風という不可視のものが目に見えるほどに凝縮される。

 今の北村は、まるで半透明のバランスボールを抱えているようだ。

北村颯希「……今までは、風の威力を、一点に集中、させてただけ。でも、今度は、集中させない」

 例えるなら、町並みを吹き飛ばす台風の威力“のみ”が、自分にだけダイレクトに襲いかかってくるようなもの。

 あらゆるものを吹き飛ばし、残骸という名の末路しか生み出さない自然そのものの力が、今まさに二人へと襲いかかろうとしている。

丹生谷森夏「あの一撃を食らえば、五体満足じゃ済まないわね……」

凸守早苗「むしろ……、体が残るかも、危ういデス……」

 まだまだ膨張を続ける風の塊。

 悠然と立ち尽くす北村に向かって、丹生谷は問いかけた。

丹生谷森夏「“自分一人だけの世界”とか言ってたけど、それがあんたの望み?」

北村颯希「……」

丹生谷森夏「新世界の四獣なんかに入って、罪もない人たちを襲って、殺して。最終目的が“安らかに眠れる世界”? あんた、一体何を目指してるわけ?」

北村颯希「……」

 風の膨張は続いていく。

 強大な威力を凝縮させた塊が完成するまでの昔話。

 きっと北村は、そんな感覚で語り始めた。

北村颯希「……私にとっての、世界の全ては…………大好きなおばあちゃん、ただ一人だった……」







 お人形のようだ。

 そう言われて育ってきた。

 両親が共働きで、幼い頃からおばあちゃんと過ごすことが多かった北村。

 おばあちゃんから和服を着せてもらい、その姿は等身大の日本人形と間違えてしまうほど可愛らしかった。



 日本人形でいれば、きっと皆から好かれていく。

 可愛がられていく。



 そんな偏見に囚われて、北村は小学生になっても人形であり続けるかのように和服を着続けていた。

 その上、何も離さない人形同然に、寡黙で、口数の少ない女の子へと成長していき、周囲も気味悪がっていく。

 好かれようと思って、可愛がられたくて、日本人形で有り続けた日々。

 それが間違いだと知ったのは、中学二年生の頃……。





 大好きなおばあちゃんが、寿命で亡くなった時だった。
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