中二病でも恋がしたい! Cross

□第06話 嘘つき
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 携帯を片手に、六花を捜して走っていた勇太。

富樫勇太「……はい、分かりました。伝えておきます……はい…、では失礼します」

 着信があったため一度立ち止まっていたが、焦りは消えない。

 いまだに六花が見つからないのだ。

富樫勇太(胸騒ぎがする……。六花…、何処にいるんだ…ッ)

 がむしゃらに走り出そうとした勇太だったが、ここで“とある機能”に思い当たる。

 堀江と戦った際に、六花が勇太を捜すために使っていた機能。

 GPSである。

富樫勇太「普段、使う機会なんてねぇからな……ッ。こんな時くらい、早く思い出せってぇのッ」

 自身の失態に愚痴を言いつつ、携帯のGPS機能を使う。

 難航していた六花捜しも、ようやく終わりを迎えることができそうだ。

富樫勇太「…………よしッ、できた! 意外と近いぞッ」

 六花の携帯の現在地を示している場所を目指して走り出す勇太。

 到着したのは、人気のない工業倉庫の一角。

 辺りの静けさに異様な不気味さを感じた勇太は、自然と身震いしてしまう。

富樫勇太(……こんなところに、本当に六花がいるのか……?)

 とにかく、GPSが示している倉庫に入った勇太は大声で呼びかけた。

富樫勇太「六花ぁ!! 何処だ、六花!!」

 声をかけて数秒後、別の人物が倉庫の奥から勇太の前へと顔を出した。

戸次黄河「……やぁやぁ、勇太くん。こんなところまでどうしたの?」

富樫勇太「…………」

 白々しさ全開だった。

 空き地で六花を連れて行った本人が、GPS機能で六花の携帯があると示された場所に立っている。

 その上、こんなところまでどうしたの? と聞いてきた。

 まだ正面から開き直られた方がマシに思える。

富樫勇太「………六花は何処だ…」

戸次黄河「その様子だと、もう気付いたんだ? オイラがお前さんたちの敵……“大罪患者”の一員だってことに♪」

富樫勇太「もう隠す気もねぇくせに……、いいから六花を返せよ!」

戸次黄河「あーもう、うるさいなぁ〜。そんなに愛しの六花ちゃんに会いたい〜?」

 異様にニヤニヤしている戸次に腹が立ったが、意外にもあっさり返してくれる仕草を見せたため拍子抜けする。

 しかし……。

戸次黄河「返してもいいけどぉ〜……自己崩壊しないようにな♪」

富樫勇太「……? 何を言っt」

 ドサッ、と戸次が何かを蹴り飛ばして勇太の前へと放り出す。

 見知った容姿の少女が、勇太の前で力なく横たわっていた。

富樫勇太「…………ぇ……」

小鳥遊六花「……ゅ…ぅ………た…ぁ…」

 六花だった。

 しかし、目の前にいる六花は勇太の知らない顔を晒していた。

 グジュグジュに肉を溶かし、眼球ごと失った真っ赤な眼窩の広がる右目。

 その右眼窩を中心に、顔の右半分に広がる高温で炙られた故の大火傷。

 流れた涙が染みるのか、耳を澄ませてみれば、ジュッ、という音が聞こえている。

富樫勇太「………六……花…?」

小鳥遊六花「………勇……太………見な……い……で…………」

 残った左目から再び涙を流し始める六花だが、もう火傷による苦痛の色は見せない。

 顔に広がる激痛よりも、勇太に変わり果てた顔を見られることの方が死ぬほど嫌なことだった。

戸次黄河「ごっめ〜んね♪ 止血してやろうと思ったらやりすぎちった♪ てへぺろ♪」

富樫勇太「…………」

 涙が止まらない六花へと、勇太は膝を崩してゆっくりと寄り添った。

 これ以上、顔に痛みが広がらないように優しく抱き起こしてあげようと手を伸ばす。

戸次黄河(……はは、思ってた通りだ…。超チョロい…♪)

 戸次は、勇太が大野に敗れてからの引きこもり状態を見て、勇太に何らかの強い精神的攻撃を与えれば戦闘不能に陥ると確信していた。

 そして、今の勇太は目の前に信じられない光景に頭が真っ白になっていると思われる。

 工業倉庫にあった太めの鉄パイプを右手に握り締め、勇太の頭部へと狙いを定める。

戸次黄河(邪王真眼に続いて、ダークフレイムマスターも排除…ってなッ! オイラってメッチャ最強じゃねぇ〜!?)

 想定していた計画が思い通りに進み、内心絶好調の戸次が鉄パイプを振り上げる。

 そのまま勇太の頭部に目掛けて振り下ろしたのだが、戸次は一つだけ誤っていたことがある。



 小鳥遊六花を傷付ける。

 勇太への精神攻撃に、その行為を選んでしまったことだ。



 六花に伸ばされていた勇太の“左手”が、軌道を変えてゆっくりと戸次へと伸ばされた。

 左手の甲に記された、邪王真眼との強固な契約の証。

 “絶対効力魔法のカケラ”が闇色に光りだす。

富樫勇太「………“闇爆焔(ダークバスター)”…ッ!!」



 ドッバァァァンッ!!!! と左手から放出された闇色の爆炎が、鉄パイプごと戸次の右腕を肩口から消し飛ばした。

戸次黄河「…………あ?」

 一瞬の思考停止。

 間もなく、右腕を失った戸次の絶叫が、半壊した工業倉庫内に響き渡った。
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