中二病でも恋がしたい! Cross

□第08話 接触者
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 冷静になって感じることがある。

 何だか、気分が優れない。

凸守早苗(……ぁ、ぁぐッ、く…ッ。あ、頭が……痛い……ッ)

 ただの疲労ではない。

 明らかに、凸守の意識に異変が起き始めている。

凸守早苗(……ぅ、ぉぇッ。は、吐き気……が、ぁ…ッ、ぐ…)

 ついに伏せって倒れ込んでしまう凸守。

 背の伸びた雑草が、凸守の体を包んでいく。

 その様子を、光のない瞳で碧桃が見下している。

凸守早苗(………息、が…)

 呼吸が上手くできず、意識も自覚できるほど確実に遠ざかっていく。

凸守早苗(…………マ……………ス……………タ……………ァ…………………………………)

 こうして、凸守は意識を失った。

 最後の最後まで、自分の身に何が起きていたのかも分からないままに。







 そのことを聞いた面々は、何も言えずに黙って息を飲む。

 今この場に二階堂先生はいない。

 先ほど九十九先生が病室に顔を出してきたため、この話を聞かれないためにも病室の外で見張り役を買って出てくれた。

二階堂啓壱「凸ちゃんが俺たち中二病患者だけに見えるってことは、これも一つの設定が関係してる。俺の見立てでは……小鳥遊くんの力だな」

小鳥遊六花「……え?」

 六花には心当たるがないのかキョトンとしていた。

二階堂啓壱「あくまでお互いの関係性ってだけの話だが、小鳥遊くんは“マスター”で凸ちゃんは“サーヴァント”なんだろ? だったら、精霊でも守護霊でも何でもいいから、小鳥遊くんが望めば現出する体になった、てとこだ」

 しかし、それもあくまで“中二病”の力だ。

 一般人である一色とくみん先輩には、凸守の姿は見えないのである。

二階堂啓壱「命が助かっている以上、俺の力で凸ちゃんは確実に救える。植物状態なんかにはさせないと約束しよう」

 退室する前、二階堂先生は現状での対処法を教えてくれた。

二階堂啓壱「だが、一度正式な医師の手で治療された以上、すぐに治すわけにはいかない。下手に目覚めさせちまえば、病院側の診断ミス。または芋づる式に中二病の抗争が公になる可能性がある。その場合、今まで裏で活動してた連中が“もう隠れて活動する理由がなくなった”と殺害行動が派手になる可能性もあるからな」

 つまり、凸守が昏睡状態から復帰できるのは約束されている。

 だが今すぐということが状況の問題で不可能なため、しばらくは幽霊っぽいままに落ち着くことになった。

丹生谷森夏「早くご両親を安心させたいところだけど、こればかりは仕方ないわね……」

 そして、話題は現在に戻っていく。

 凸守は、学校から少し離れた売り土地の草場に埋もれる形で発見され、その時から既に意識不明の重体。

 病院に運ばれた頃には心肺停止状態で緊急治療室行き。

 一命は取り留めたものの、それほどのダメージを負った原因は不明。

 百々碧桃がどういった中二病だったのかも、何も分かっていないのだ。

 勇太から凸守の話を聞いた一色は、あくまでも冷静に分析してくれた。

一色誠「…今までの、平井とか堀江とかと、レベルが違う……。文字通り“圧倒的”だったってことか…」

丹生谷森夏「どっちかって言うと、もう“一方的”ね。まるで手が出せなかったってことなんだから……」

凸守早苗「…………」

 碧桃は凸守に接触してきた。

 争う気はなく勧誘に赴き、決裂と同時に殺しに掛かってきた。

 凸守が死ななかったのは、偶然に過ぎないのだ。

富樫勇太「……その、百々碧桃って人は、俺たちが“新世界の四獣”を敵視していて、既に二人の四天王を倒していたから接触してきたんだよな……」

丹生谷森夏「四天王を名乗る以上は強敵に違いないわけだし、それを二人も倒してちゃ支配下に置きたくもなるわよ」

五月七日くみん「でも、凸ちゃんは六花ちゃんの気持ちも汲んで、それを断ったんだよね」

 凸守は頷く。

凸守早苗「その通りデス! あのような勧誘、我がマスターならば断っていたことなど当然デス!」

小鳥遊六花「言うまでもない。邪王真眼は、そのような弱小組織に加わる器などではないのだから」

丹生谷森夏「その弱小組織にやられたのが目の前にいるんだけど?」

凸守早苗「……」

小鳥遊六花「…あぅ………」

一色誠(何だろう……。凸守側の声は聞こえないのに、会話がしっかり聞こえた気がする……)







 凸守の力がどれほど強いか、それは勇太たちも知っていたつもりだ。

 現に、凸守は勇太のピンチを一度救ったことがあるほどの実力を持っている。

 現役・中二病患者ほど、今の状況では強い者はいないはずなのだから。

二階堂啓壱「その凸ちゃんが、一方的に……しかも、圧倒的な力の差を見せつけられて敗北、か……」

富樫勇太「はい、そう聞きました……」

小鳥遊六花「……」

二階堂啓壱「なるほどねぇ…」

 病院の休憩所。

 自販機で買ったペットボトルのお茶を持つ勇太と六花に対し、二階堂先生は自販機では売っていないカルピスを持っていた。

 信じられないことに原液のまま飲んでいる(本人曰く“薄めるなんざ邪道”とのこと)。

小鳥遊六花「私たちの結社は、新世界の四獣とも大罪患者とも目的は異なる存在。四天王のトップを倒せば、全て終わるはずだったのに……」

二階堂啓壱「確かに、ここに来て第二勢力側が動いたことは痛手だな……」

富樫勇太「でも…、このまま四天王を倒し続けてたら、遅かれ早かれ動き出していたと思います」

 大きな実力を持っていた凸守の敗北は、勇太たちの決意を大きく揺さぶる。

 新世界の四獣よりも、更に強大な力を振るう存在。

 中二病を殺す中二病、大罪患者。

 その力の差が天と地ほどに開けている事実を知ってしまっては、致し方ないのかもしれない。
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