SRP:妹達共鳴計画U

□Data.06 九月十三日
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 薄暗い研究室の中。

 白衣の少年は、紫色の液体が注がれた試験管を眺めている。

 打ち止めを介し、妹達に投与する予定の感情データ。

 初めは九本あった試験管も、現在は三本しか残っていない。

白衣の少年「…………」

 白衣の少年は手近のレポート用紙を一枚手に取り、箇条書きで現状をまとめていく。

 その内容を、すぐ傍にいた木原数多が覗き見する。

白衣の少年「あまり感心しませんよ? 実験データの盗み見とは」

木原数多「俺の勝手だろうが」

 今頃、天井亜雄は一方通行たちの観察に赴いている。

 病院の庭でミサカ3709号とコミュニケーションを取っている様子がリアルタイムで流れてくるのだ。

木原数多「んで、どうなんだよ? ミサカ3709号の思考回路は戻せんのか?」

白衣の少年「何度もお答えしますが、もう無理です。打ち止めを介してデータを投与していない上に、あの未元物質の影響を受けたんです。ただの大能力者(レベル4)である俺が、超能力者(レベル5)の第二位に勝てるはずがありません」

木原数多「へぇ〜。お前、大能力者だったのか」

白衣の少年「…………」

 箇条書きにしたレポートには、残された感情データが記述された。

 type2、type3、type8。

 傲慢、欺瞞、色欲。

 今、白衣の少年の手元に残っている感情データがそれらだった。

木原数多「他の五本は、どの個体に投与したんだ? まぁ“type6”と“type7”は一方通行んところにいる妹達なんだろうけどよ」

白衣の少年「……垣根帝督に奪われたデータは二つです。その内の一つが“type7”でした」

 白衣の少年は、どのデータをどの個体に投与してきたのかを語る。

 結果、消去法で一つのデータが浮かび上がる。

 type7を除き、白衣の少年が投与した覚えのないデータで、尚且つ今ここに揃っていないデータ。

木原数多「そのデータは?」

白衣の少年「……嫉妬のデータが見当たりません。おそらく、垣根帝督に持ち出された残る一つの感情データは“type4”の嫉妬で間違いありませんね」







 一方通行は肩を落とした。

 結局、ミサカ3709号は言葉を話すことが出来なかった。

 正確に言えば、母音以外の発音機能を持っていないようで、いつまで経っても会話が成立しない。

 人の言葉を理解する機能だけは生きているおかげで意思疎通ができる分、まだ生物として捉えられる程度だ。

 しかし、それでは人間というより動物に等しい。

一方通行「…はァ……、オマエの今後が暗すぎて泣けてくるぜ…」

03709号「うう〜?」

一方通行「うう、じゃねェっつーの。人の気も知らねェで」

 溜息を吐いた一方通行だったが、別に呆れたわけではない。

 こうなってしまった原因が垣根の能力だったとしても、その発端を作ったのは自分だ。

 ミサカ3709号がこんな風になったのは、一方通行にも責任がある。

 だからこそ、一方通行は優しげにミサカ3709号の頭を撫でてやった。

一方通行「ったく。この様をミサカ9423号に見られりゃ、まァた鬱陶しく泣き付かれンだろォなァ」

03709号「あー?」

一方通行「言いたいことがあるならハッキリと言え。この際、言葉になってなくても構わねェからよ。せめて気持ちだけでも込めてみろ」

 意思の疎通は出来る。

 なら何も問題ない。

 例え言葉を話せなくても、ミサカ3709号の思いや気持ちだけは、きっと一方通行にも届くはずだ。

一方通行「何の根拠もねェが、それを忘れンなよ。オマエだって、俺が守ると誓った妹達の一人だ。助けを叫べば、俺は駆けつける」

03709号「お〜」

一方通行「………いつか、話せるようになるとイイな…。あまりにも会話が一方的で虚しすぎる……」

 ベンチから立ち上がった一方通行は、ミサカ3709号を連れて病院内に戻った。

 帰る際、やっぱりミサカ3709号は腕を組んできたが、敢えて一方通行は振り解かなかったという。







 そして、来たる九月十四日。

 “樹形図の設計者”の残骸が回収され、あの悪夢の実験が再開される可能性が浮上している事実に。

 一方通行は、まだ気が付いていなかった。
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