スマプリ! Request Smile♪
□18 ウルルンの日常
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七色ヶ丘市の町を眺めながら、ウルルンは人々の目を盗みつつ行動していく。
ウルルン「(さぁて……今日はどうするか……)」
まず見つけるべきはターゲット。
どんなに些細なものでも、一つでも見つけられれば利益になる。
ウルルン「(……お…、あれは…)」
人影の少ない小さな公園の一角、一本の木の下で一人泣いている少女を見つけた。
理由など調べるまでもなく明確で、視線を上に向けてみれば、木の枝に水色の風船が引っかかっていた。
ウルルン「(手ぇ離しちまったのか…。よぉし…)」
一度茂みの中に着地したウルルンは、辺りに落ちている小枝をなるべくたくさん集め始める。
適度に集めた小枝を持って、再び木から木へと飛び移り、風船の傍まで近付いていく。
風船の糸の先に、たくさんの小枝を重石代わりに縛り付け、少女の目の前を目掛けてゆっくりと下ろしていった。
俯いたまま静かに泣いていた少女の視界に風船の糸が舞い降りて、無事に風船を届けることに成功したのだ。
ウルルン「(ウルッフ〜♪ これで良しッ)」
笑顔を取り戻して遊びに向かう少女を見送り、ウルルンは再び町を歩き出す。
すると今度は、帽子を被ったおばあちゃんを見つけた。
一人で道に立ち止まったまま何かを悩んでる様子である。
ウルルン「(んん? なんだぁ?)」
気付かれないように近付いてみると、どうやら道に迷ってしまった様子だ。
片手には地図らしきものを握りしめているが、今自分が何処を歩いているのかも分からなくなってしまったらしい。
ウルルン「(なるほどなぁ……。そういうことなら)」
一度この場を離れたウルルンは、近所の交番にて地図を確認する。
おばあちゃんの持っていた地図を盗み見た限り、目的地はそう遠くない様子。
ウルルン「この距離なら問題ないな。手荒になっちまうが、案内してやるか」
松原巡査「おや? どなたですかぁ?」
ウルルン「(おおっとッ、やべぇッ!!)」
うっかり声を出してしまい、素早く交番から身を引いていく。
交番の中から松原巡査が顔を出すよりも早く退散したウルルンは、再びおばあちゃんのところへと戻ってきた。
ウルルン「(さて、手早く始めますかッ)」
まず、おばあちゃんの被っていた帽子を掴み、まるで風に飛ばされてしまったかのようにフワフワを取り上げて運んでいく。
おばあちゃんの目には帽子が死角となっていてウルルンの姿を確認することはできない。
おばあちゃん「あぁ、あらあら…、帽子が…」
おばあちゃんが追い付いてこれる速さで、着々と目的地まで誘導していく。
途中、木の枝や電柱のボルトに引っかかったふりをして待機しながら、無事におばあちゃんを目的地まで運ぶことに成功した。
おばあちゃん「…はぁ……随分と飛ばされたものね………おや? ここは…」
目的地到着と同時に手を離して、帽子をおばあちゃんへと返却する。
帽子が返ってきたことと目的地に辿り着けたことに、二つの意味で笑顔を浮かべたおばあちゃんを確認し、ウルルンはサッサと次のターゲットを探しに向かう。
ウルルン「ウルッフ〜♪ 今日も順調順調! さぁて、次は誰をウルトラハッピーにしてやろうかぁ〜っと…………おぉ?」
まさしく“妖精”という名に恥じぬ台詞を吐いたウルルンの目に、今までとは異なる光景が飛び込んできた。
外見からして、まだ生まれて間もない子犬の赤ちゃんが、辺りに誰もいない地面の上で横たわっていたのだ。
ウルルン「ーーーッ。何だってんだ!?」
慌てて近付いたウルルンは、子犬の胸元に耳を近付ける。
心音は確認できたが、予想外のことにまで気付いてしまう。
ウルルンの嗅覚が捉えたものは、明らかな血の臭い。
ウルルン「(……おいおい…、冗談だろ…ッ)」
慌てて体を調べると、脳裏を過ぎった最悪のパターンが露わになる。
左足と口元に血が滲み、いたるところに引きずられたような独特の汚れが確認できた。
おそらくだが自転車か何かに撥ねられたのだろう。
子犬のため自動車が相手だったら死んでいたかもしれないが、まだ生きている。
ウルルン「と、とにかく病院ッ! って言っても、どうやって連れていけってんだ……ッ」
先ほども記述したが、辺りに人の気配はない。
助けを呼ぼうにも、呼ぶ相手がいなければ話にならない。
ウルルン「チィッ、こんな時に建前なんて気にしてるだけ無駄かッ」
ウルルンは、絵本と絵の具を取り出して声高らかに叫んだ。
ウルルン「世界よ! 最高の結末、ハッピーエンドに染まれ! 白紙の可能性(ページ)に幸ある未来を描くのだ!」
ウルフルンへと変身したウルルンだが、実を言えば状況が困難であることに変わりはない。
この姿では病院に駆け込んで人前に出ることはできないし、何より時間がない。
周囲に存在する人々の人数によって変身していられる時間が限られるため、ウルフルンでいられる時間も恐ろしく短いのだ。
ウルフルン「って、考えてる時間も惜しいくらいだぜッ。とにかく病院に向かうッ、残る問題はそれからだ!」
子犬に負担をかけないように優しく抱き上げたウルフルンは、一度空高く跳躍してから動物病院を目指して空を駆けていく。
手に握る確かな温もりの灯が消えないように、自分の体温で死期を遠ざけながら。
ウルフルン「(クソッタレがッ。マジョリーナqの“ニンゲンニナ〜ル”でも借りときゃよかったぜッ)」
やがて、前方に小さな動物病院が見えてきた。
腕に伝わる子犬の温もりを感じつつ、ウルフルンは次の難関に挑む。
さて、どうやって病院に駆け込んで診察してもらうべきか……。