スマプリ! Request Smile♪
□21 恋仲の黙認
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ティンカーベルの襲撃を乗り越え、みゆきたちの日常は夏休みへと突入していた。
本来なら、宿題という悪魔から常に背中を狙われつつも遊び呆けてしまうのが中学生の夏休みの過ごし方である。
と言っても、みゆきたちは今年で中学三年生であり、進路について考えなくてはならない時期。
遊んでいる時間も限られているのが現実なのだが……。
今のみゆきたちは、宿題は言わずもがな、遊ぶことすら叶わない状況にあった。
キャンディ「みゆきぃ、大丈夫クル?」
星空みゆき「…んぁ〜………」
力ない返事をするみゆきは、布団の中でモゾモゾと寝返りつつ手を振った。
厄介なことに、ティンカーベルの放った毒針を受けたみゆきの体は、痺れ効能から感染したウイルスによって床に伏せざるを得なくなっていたのだ。
簡単に言えば風邪の症状なのだが、問題点が二つ。
一つは、治癒と回復を得意とするみゆきの魔法も効果を示さない、完全にネバーランドの兵器的麻痺毒だったらしいこと。
星空みゆき「あぅ〜……ウルトラアンハッピーぃ〜……」
キャンディ「薬を飲んで眠るクル! そうすれば、すぐに良くなるクルぅ!」
星空みゆき「はっぷっぷー……」
幸いにも、一般に流通している市販の風邪薬の効果は期待できた。
夏休み初日から最悪のスタートを切ってしまったが、残る一つの問題点を思うとみゆきは寝付けなかった。
星空みゆき「はぁ………みんなぁ…」
この毒針を受けたのが、みゆきだけではなくプリキュアの全員、という点を思うと心配で仕方がなかったのだ。
意識がボーッとする頭で天井を眺めていると、どうにもグニャグニャと天井が回っているような錯覚が見えてくる。
黄瀬やよい「…………」
オニニン「やよい…」
それでも周囲の音や声を認識することは可能で、声が聞こえた方へと視線を向けると、風呂敷を背負ったオニニンが心配そうな視線を向けて立っていた。
黄瀬やよい「大丈夫だよ、オニニン……。ちょっと寝てたら、だいぶ楽になったから……」
オニニン「それは良かったオニニ」
そう言うと、オニニンは背負っていた風呂敷を床に広げて、中から小さなオニギリを取り出した。
オニニンの手作り故にとても小さかったが、食の細くなっているやよいにとっては食べ易くて丁度いい。
オニニン「ちょっとでもいいから食べるオニニ。俺様の作ったオニギリは美味いオニニ」
黄瀬やよい「ふふ、ありがとう……」
状態を起こし、オニニンの作った小さなオニギリを手に取る。
受け取って気付いたが、やよいへの気遣いなのかオニニンはお粥から作ったらしく、普通のオニギリと比べて非常に崩れやすくなっていた。
でも柔らかく、それでいて食べ易いオニニンのオニギリは、手で触れて分かる以上の暖かさが感じ取れた。
ウルルンは気が気ではなかった。
ウルルン「みゆき……大丈夫かな……」
窓の外に広がる夏の空を眺めながら、ウルルンが想うのは今も苦しんでいると思われるみゆきの顔。
しかし、ウルルンは会いに行くことが出来ない。
ウルルン「なぁ、いい加減に尻尾離してくれねぇか?」
日野あかね「ウチを置いて何処行く気や、この薄情モン……」
ウルルン「オマエって他と比べりゃ元気な方じゃねぇか。そのまま自己治癒力で治しとけよ!」
日野あかね「病人を一人で放ったらかす妖精が何処におんねんッ。しばらく湯たんぽ代わりになっといてや……」
ウルルン「絶対にみゆきの方が弱ってるっつーの……畜生」
あかねに尻尾を掴まれ、そのままズルズルと布団の中に引きずり込まれていくウルルン。
両親は店を回さなければならないようで、あかねの相手を出来るのはウルルンだけだったのだ。
日野あかね「んあ…? そういや…、げんきは何処行ったんや……?」
ウルルン「オマエの弟なら、さっき“緑川先輩の様子見てくる”っつって出掛けていったぜ? オマエら全員が風邪こじらせたの聞きつけて勘が働いたんだろ」
日野あかね「………あんにゃろう…」
緑川家の中は、いつもと違う意味でバタバタとしていた。
遊びが過ぎる意味で騒がしい緑川家の中は、家事の要だったなおが風邪を引いてしまったことで、残る兄弟たちが役割分担をして家事を回すことになったのだ。
もちろん両親だって何もしないわけがないが、何しろ大家族故にやることが多過ぎる。
だからこそ、そんな環境下での予期せぬ見舞い客には大助かりだった。
緑川なお「ごめんね、げんきくん……。うちの仕事まで、手伝わせちゃって」
日野げんき「いや……こんなん、やりたくてやってるモンなんで……。全然問題ないッス」
なおの抜けた穴を埋めるように、緑川家の一員に溶け込んで手を動かしていくげんき。
その様子を見て、なおの耳元にマジョリンが囁いた。
マジョリン「大助かりなのは分かるけど、正直やり辛くないのさ?」
緑川なお「…う〜ん、善意で来てくれてるだけあって嬉しいんだけどねぇ…」
自分へ向けてきてくれる気持ちを知ってる分、どう接するべきか決めあぐねていた。
げんきのことは嫌いではないが、おそらくなおがげんきに向けている気持ちは、当人の望むものとは形が違うのだろう。
それが何だか申し訳なくて、なおは布団に潜りながらも苦笑いを浮かべるしかなかった。