3つの恋が実るミライ♪
□10 まるでデートな逃走先?
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みゆきとウルフルンは二人並んで七色ヶ丘を歩いていく。
リフレッシュが目的の散歩であったが、効果の方は真逆に思えた。
その理由は、傍らにみゆきがいるから、とか、ウルフルンと一緒だから、とか、この場にキャンディもいるから、というわけではない。
星空みゆき「……何か、みんな見てくるね…」
キャンディ「クルぅ…」
ウルフルン「まぁ、考えなくても当然の反応だな…」
ヌイグルミを頭に乗せた女子中学生と、容姿から明らかに異常な人狼。
こんな組み合わせが七色ヶ丘の町中を散歩しているのだ。
百歩譲ってみゆきの方は何の問題もないのだが、ウルフルンの姿だけは言い逃れ出来ない。
ウルフルン「チッ、やっぱり居心地悪りぃなぁ……」
キャンディ「でも、ウルフルンだって慣れれば、きっと受け入れてくれるはずクルッ」
ウルフルン「どんなだけ時間が掛かると思ってんだ? つーか、別に受け入れてもらおうなんざ思ってねぇっつーの」
星空みゆき「でも……こんなのって、やっぱり寂しいよ…」
みゆきの呟きに、キャンディのウルフルンも二の句が告げない。
見た目の偏見など仕方がない。
中身や性格など、直接関わらなければ見えてこない人間関係なのだから。
ウルフルン「…世の中ってのはな……。このオレの姿を見て恐怖する連中が当たり前なんだよ……。昔からずっと変わらねぇんだ……」
星空みゆき「昔から……?」
ウルフルンは思い出す。
昔の自分を……ジョーカーと出会う前の自分を……。
ウルフルン「……チッ…思い出したくねぇものまで思い出しちまった…」
キャンディ「クルぅ……」
空気が重くなる。
と、そんな時だった。
星空みゆき「……あッ、そうだ!」
キャンディ「クル?」
星空みゆき「ねぇ! ウルフルンって、空も飛べたよね!?」
ウルフルン「あぁん? 飛べるが、それがどうした?」
星空みゆき「あのねあのねッ」
みゆきは、爪先立ちしながらウルフルンに耳打ちする。
長い耳を伸ばしてキャンディもみゆきの提案を聞き、それに賛成した。
キャンディ「みゆきぃ! キャンディも賛成クル! 行きたいクル!」
ウルフルン「はぁ? ちょっとまてッ。まさか、オレがオマエらを抱えて連れて行くってのかッ!?」
星空みゆき「ダメ?」
両手を合わせてお願いポーズをするみゆきを見て、ウルフルンは舌打ちしつつも仕方なく了承する。
ウルフルン「……仕方ねぇな…。ここよりは、そっちの方が居易いだろうし…」
星空みゆき「ホント!? わぁい!」
キャンディ「クルクルぅ♪」
話が決まり、人混みから外れる三人。
みゆきを両腕で抱え、キャンディを頭に乗せたウルフルンは、誰にも見られていないことを祈りながら空高く上昇して飛び立っていく。
その姿は、三人の意思とは正反対に二人の人物に目撃されていた。
星空こうが「あぁん!? 親父もお袋も何処に行きやがるッ!!」
黄瀬のどか「こうちゃん! わたしたちも追い掛けなくちゃッ」
星空こうが「分かってらぁ!」
こうがは、街灯の電球を包んでいる丸型のガラスに目を向ける。
意識して丸い物を見た時、こうがは狼男へと変身できるのだ。
星空こうが「ーーーウォォォオオオオオ!!!!」
人狼へと変化したこうがは、背中にのどかを乗せてみゆきたちを追い掛ける。
そのまま七色ヶ丘を飛び出し、五人は何処に向かって大移動を始めたのだった。
れいかとジョーカーの買い物は順調に進んでいた。
四階の書籍売り場を出たれいかは、三階にある文房店にて墨汁と半紙を購入。
その後、一気に地下一階まで下りた先のスーパーマーケットにて夕飯の買い出しを終えたのだった。
青木れいか「これで一通りの用事は片付きましたね」
ジョーカー「時に、れいかさん……? キミの荷物を全てボクが持っていることについて、何か一言ありません?」
青木れいか「え?」
ジョーカー「え?」
青木れいか「……」
ジョーカー「……」
何もないらしい。
男性と女性が共に買い物をするのであれば、男性が荷物を持つことにおかしな要素は見られないのだ。
青木れいか「あなたの格好はおかしな目で見られましたけどね。ふふふ」
ジョーカー「その度に“それがこの人の趣味なんです”みたいな説明を繰り返すのは止めていただけますか?」
青木れいか「あら? 異論があるのですか?」
ジョーカー「ないから反論に困るんでしょうが! 放っておいてください!」
スーパーマーケットのある地下一階から地上に向けてエスカレーターに乗った二人。
先ほどのれいかの発言から、これ以上ここでの買い物はなくなったようだが、何故かれいかは更にエスカレーターに乗って上の階に進んでいく。
ジョーカー「んん?」
一階はバッグや化粧品などを取り扱っており、二階は洋服を専門に展開している。
三階や四階は最初に回っていたため、もう何も見るものはないはずだ。
ジョーカー「れいかさん。帰るのではないんですか?」
青木れいか「そのつもりでしたが、もう14時も近い時間です。ジョーカーには色々と付き合っていただきましたし……」
れいかは、くるりとジョーカーに振り返り、この七色ヶ丘百貨店の最上階を指差して説明する。
最上階の五階で展開しているのは、レストランなどの食事処だった。
青木れいか「わたしと一緒に、お食事などは如何ですか?」
お昼を過ぎ、みゆきとキャンディを連れたウルフルンはとある山中の田舎町を訪れていた。
そこは、夏休みの最中にも一度だけ訪れたことがある場所。
そう……星空タエが暮らす農村の一角である。
星空みゆき「おばあちゃん!」
星空タエ「あら…? 驚いたわ…。おかえり、みゆき」
変わらない笑顔で迎えてくれるタエと再会し、みゆきはタエの家に上がっていく。
それに続くのは、言わずもがなウルフルンだった。
星空タエ「あらあら、あなたは……」
ウルフルン「また会ったな。ばあさん」
星空タエ「あの時のキツネさんじゃないの。よく来てくれたわね〜」
ウルフルン「キツネじゃねぇよッ、オオカミだ! 何度言えば分かるんだ!!」
星空タエ「あら、そう? ごめんなさいねぇ、うふふ」
みゆきの考えは正しかった。
誰が見ても恐れるはずのウルフルンを、タエだけは絶対に恐れたりしない。
そのために、みゆきはウルフルンと一緒にもう一度、この場所を訪れる提案をしたのだった。