中二病でも恋がしたい! Cross

□第00話 暗躍者
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 とある街の、とある路地裏。

 昨日の雨の影響で地面には水溜りが広がり、春にも関わらず空気は冷えていた。

 バシャバシャと水音を立てながら走る少年は、涙を浮かべながら“何か”から逃げていた。

少年「ハァ…ッ…ハァ…ッ…ハァ…ッ…ハァ…ッ」

 逃げ切ることだけを考え、迷路のような路地裏をグネグネと走り、やっとのことで追っ手から逃げ延びた。

 そう思って、足を止めて腰を下ろそうとした時だった。

????「………その程度で逃げ切れるとか思ってんのかよ…、あぁ?」

少年「ーーーヒィッ!!?」

 走ってきた方とは別の方角。

 つまりは少年の前方から、逃げ切ったはずの追っ手の声が響いてきた。

 限りなく白に近い金色のボサボサ髪。

 左耳で輝く四つのピアス。

 正しく“不良”と呼べる姿の男子高校生が、涙を流して腰を抜かしている少年を睨んで見下す。

少年「ーーーた、助けて! お願いだから、見逃してよ!! もう裏切らないから!! 絶対に嘘も吐かないからッ!!」

不良少年「そう言ったヤツが二度目を起こさなかった過去なんざ知らねぇんだよ…………死ね」

 最後の一言を聞いた瞬間、少年はもう助からないことを察した。

 人間とはよく出来た生物で、自分の危機が近付くと無意識に“悪あがき”を行えるらしい。

 自分に“特殊な力”があるなら尚更に……。

少年「ーーーうわぁぁぁああああああッ!!!!」

 バッと立ち上がり、眼前の不良少年に向けて拳を突き出す。

 すると、少年の握り拳から衝撃波が目に見えて飛び出し、不良少年の体を勢いよく後方に吹き飛ばしたのだった。

少年「……し、死んでたまるか…ッ。ぜ、絶対、に……い、生き延び、て…」

 息が切れるほど興奮しているのか、口が乾いて上手く話せていない。

 そんな少年の口や喉を、更に乾上がらせる声が響いた。



 少年の背後から、息もかかるほどの耳元で。



不良少年「……それが現実になったら良かったのにな……。夢が見てぇならもう寝とけよ。永遠に……」

少年「………ぇ…?」

 振り返ることもできなかった。

 次の瞬間には視界が真っ赤に燃え上がり、少年は僅か三秒で全身を比喩抜きで炭へと変えられてしまった。

 絶叫する時間さえ与えられずに……。







 グシャッと、本物の炭になった“何か”を踏みつけ、不良少年は路地裏の出口に向かう。

 その途中で、何処から出てきたのか背後から声をかけられた。

 まだ幼さの残る女の子の声だった。

????「殺したんだ? 珍しく強力な中二病患者だったのにさ」

不良少年「オレが殺ってなけりゃオマエが殺るだろぉが……。どっちが動こうと、命落とすのに変わりはねぇよ」

????「あっそ。ところで、次の標的とか決めてるわけ?」

不良少年「………堀江、テメェは年上に対する態度ってモンを知らなさ過ぎだ。今度はテメェを焼き殺すぞ?」

 不良少年が振り返り、堀江と呼んだ少女と目を合わせる。

 黒髪をツインテールに結び、セーラー服をだらしなく着崩している女子中学生。

 スカートは恐ろしく短く、リボンタイは崩れて留められていない。

 更に、左耳には不良少年と同じようにピアスが四つも光っていた。

 名を、堀江氷華(ホリエヒョウカ)という。

堀江氷華「どーでもいいじゃん、そんなこと。それとも何? 女子中学生相手に名前で呼んでほしいとか? 大野さ〜ん。燥太〜、って? キモッ」

大野燥太「テメェいつか殺すからな」

 大野燥太(オオノソウタ)と呼ばれた不良少年は、キッと睨みつけて路地裏の出口に再び向かう。

 その後ろから堀江も続く。

堀江氷華「質問には答えとけよ。次は何処に“勧誘”しに行く気だ? おい」

大野燥太「…………」

 無視しようと思ったが、おそらくウザいくらいに何度も聞いてくる気がしたので、大野は仕方なく携帯を開いて写メを見せる。

大野燥太「こいつだ。名前は“小鳥遊六花”。邪王真眼の使い手だとよ」

堀江氷華「邪王真眼? うわー……キモッ」

大野燥太「キモくねぇ中二病なんざいねぇよ。オレもオマエもな」

堀江氷華「はいはい。まぁ、女の子みたいだから乱暴しないようにね〜。ま、無理かもしんないけど」

 路地裏から出ると、ヒラヒラと手を振って去っていく堀江の後ろ姿に舌打ちをする大野。

 そしてそのまま駅方面に足を向け、目的の地へと歩いていく。



 邪王真眼の使い手、小鳥遊六花が通っている高校に向けて。



  【真・中二病編……つづく】
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