中二病でも恋がしたい! Cross

□第01話 日常。
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 季節は春。

 三月も終わりを迎えようとしている今現在、富樫家の長男“富樫勇太”は家の玄関を開ける。

富樫勇太「行ってきまーす」

富樫樟葉『あ、お兄ちゃん。いってらっしゃーい』

 家の奥から聞こえた富樫家の長女“富樫樟葉”の声を背にマンションの階段を駆け上がる。

 下りるのではなく、上がっていく。

 ちょうど富樫家の真上に位置する部屋のインターホンを鳴らして応答を待っていた。

????『…はい、小鳥遊です』

富樫勇太「あ、おはようございます。富樫です」

????『あぁ、勇太くん! おはよう。六花よね? ちょっと待っててねぇ』

 応答したのは大人の女性。

 勇太が待っている少女の母親だろう。

 待つこと三分ほど、目の前の扉が開かれ、一人の少女が顔を覗かせる。

富樫勇太「おはよう、六花」

小鳥遊六花「…おはよう、勇太」

 ピョイン、と伸びるアホ毛と右目を隠す眼帯が映える少女“小鳥遊六花”が挨拶した。







 冒頭でも明かしているが、今は三月の終わり頃。

 つまりは、春休みの終盤である。

 だというのに勇太と六花は制服に身を包み、二人仲良く通学中の高校に向けて足を進めていた。

 今更に言うまでもないが、勇太と六花は恋人同士であり、周囲の皆も知り得ている公認カップルである。

 去年の春、高校一年生として同じクラスになり、同級生も先輩も後輩も巻き込んで色んなイベントを起こし、互いに惹かれ、その想いを成熟させた。

 秋の文化祭には既に恋仲となり、その年の冬は友達と過ごす日々を謳歌しつつ、リア充と呼ばれる者たちが思わず壁をボロクソに殴りつけるようなラブラブな毎日を送っていた。

 数える程度だがデートにも出かけ、冬休みと高校一年最後の学期も思い出がいっぱいだ。

 もちろん、今の春休みだって例に漏れない。



 さて、話を戻そう。

 まだ高校二年生としてのスタートを切る前の春休み。

 制服を着て登校している理由とは何なのだろうか?



 察しの良い方なら分かるかもしれないが、分からない方も多数いるはずの回答なため、ここで先に明かしておこう。

 小鳥遊六花が高校にて立ち上げた“極東魔術結社昼寝部の夏”という同好会。

 去年に一度だけ解散宣言があったものの、結局は存続し続けてきた同好会なのだが……。

 今現在、再び同好会解散の危機に陥っていた。







 高校、とある空き教室。

 現在、極東魔術昼寝結社の夏、同好会の拠点地。

 勇太と六花が教室の扉を開ければ、既に三人の先客がいた。

一色誠「お、来たか」

五月七日くみん「おはよう。富樫くん、六花ちゃん」

凸守早苗「マスター! おはようデス!!」

 勇太と六花のクラスメイトだった“一色誠”なる男子高校生。

 “五月七日くみん”先輩と後輩の女子中学生“凸守早苗”だ。

 珍しく、この結社のまとめ役でもある一人の少女が見当たらない。

富樫勇太「おはよう。珍しいな……、丹生谷は来てないのか?」

一色誠「あぁ、そう言えば集まりでビリっけつは初めてか」

凸守早苗「まったく、偽サマーは何をやっているのデスか! わざわざ凸守たちを呼び集めた張本人が遅刻をするなどと……」

丹生谷森夏「……わざわざ集めなきゃ…、春休みに学校になんて来れないでしょうが…」

 いつもより明らかにテンションの低い声。

 負のオーラを背負って勇太たちの背後からユラリと現れた丹生谷に、勇太も六花もビクッとした。

勇太「ーーーって、うわあッ!!? に、丹生谷!? 急に現れるなって!!」

 これで結社メンバーは揃った。

 最後に登場したのは、一色と同じく勇太と六花のクラスメイトだった“丹生谷森夏”なる女子高校生だった。
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