中二病でも恋がしたい! Cross
□第02話 第三者
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春の季節にもかかわらず、ゆらゆらと陽炎が目に見える。
勇太と六花の前に立つ少年、大野燥太はその全身に炎をまとって拳を構えた。
小鳥遊六花「……“焔拳の格闘家(フレアグラップラー)”…ッ」
富樫勇太「…ふざけんなよ……、トリックにしてもやり過ぎだってッ!!」
薄々気付いていることがある。
しかし、それはあまりにも非現実的すぎて考えたくない答えだったが、大野は軽々しくその思いを踏みにじる。
大野燥太「トリックだ? くだらねぇ。オレをただの中二病野郎だと思わねぇことだ。この炎は“マジ”だぜ? 種も仕掛けもなく、本当に“オレの体から”噴き出してんだ」
富樫勇太「ーーーッ!!」
嘘だと思えない。
常識的に考えてありえないことだと分かっていても、目の前で起きていることが、その目に映る事実が、眼前に広がる現実が、全て冗談で済まされないことだと本能が叫んでいる。
だからこそ、勇太の考えは早急にまとまった。
逃げなければ、本当に殺される。
富樫勇太「ーーー来い、六花!! 逃げるぞ!!」
小鳥遊六花「わ、わわッ!!」
勇太に腕を引っ張られ、倒れそうになりながらも六花は走った。
六花を守るためにも、勇太はその手を離すわけにはいかない。
大野燥太「はぁ、めんどくせぇなぁ……。まだ“気付いてもいねえ”中二病も、ただの一般人も。このオレから逃げられるわけがねぇのにチョロチョロと走り回りやがる……」
ユラァッ、とゆっくり一歩ずつ足を進める大野は、獲物である前方の二人を逃がさない。
大野燥太「火葬する必要性も感じられねぇほど、グズグズの炭クズにしてやるよッ!!」
ドバァンッ!! と足裏を爆発させ、その爆風で一気に跳躍する。
逃げ足を緩めていないはずの勇太たちの頭上を簡単に飛び越え、着地と同時に勇太へと目標を絞り込む。
富樫勇太「ーーーと、飛んd」
大野燥太「まずはテメェだ、一般人」
ボゥッ、と燃え上がる炎の拳を握り締め、走り迫る勇太の胸元を思いっきり殴り飛ばした。
ミシッベキッボキッ、と嫌な音を三つほど響かせながら、勇太の体は軽々と飛んでいく。
富樫勇太「………か、は…ッ」
小鳥遊六花「……ぇ…?」
呆然と立ち尽くすことしかできなかった六花の真後ろで、飛ばされた何かがズガァンッと音を立てて転がった。
大野燥太「呆気ねぇなぁ……。これだから一般人は、生き残る価値のねぇ弱小の種族なんだ……」
小鳥遊六花「……勇…太…?」
ガクガクと震える脚をゆっくりと動かし、後ろを振り返ろうとする六花。
だが、そんな動作でさえ大野は遮る。
大野燥太「あぁ、振り返ってもいいけどよぉ。その後で発狂されてもオレは知らねぇぜ?」
小鳥遊六花「ーーーッ!!」
大野燥太「何も好き好んで見る光景でもねぇだろ?」
大野燥太「だぁい好きな彼氏の、撲殺死体焼き痕付き、なんてよぉ」
小鳥遊六花「ーーーッ!!?」
涙は出ない。
汗だけが浮かぶ。
信じたくない背後の光景を想像し、ただ恐怖だけが身を包んでいく。
怖くて怖くて今にも気を失いそうになる。
何が原因で、どうしてこんな目に遭わなければいけないのかも分からない。
どうして殺されなければならないのかも分からない。
大野がゆっくりと六花に手を伸ばしてくる。
その手が、六花の首を掴もうとした時……。
その手首を、真横から勇太が掴み取った。
大野燥太「……あぁ?」
小鳥遊六花「…ゆ、勇…太ッ!!」
富樫勇太「……ご、ふ…ぅぅッ」
殺したと思っていたため気に留めていなかったせいか、大野は勇太の接近に気付けていなかった。
そもそも、あの一撃を食らって死んでいないほうがおかしいと思っていたのだ。
大野燥太「チッ。運だけはいいのか……一般人」
富樫勇太「…六花……から、は、離れ…ろ」
口の端から血を流し、ボロボロのフラフラでもしっかりと大野の手首を掴む勇太。
キッと睨みつけたつもりだが、迫力がないのか、その目を向けられるのに慣れているのか、大野はまったく動じない。