中二病でも恋がしたい! Cross
□第03話 某昔話
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始業式が終わると、勇太と六花はすぐに二階堂先生を目で追った。
だが、他の教師陣に紛れて退館してしまったらしく、既に体育館内には見当たらなかった。
教室に戻り、丹生谷と一色に二階堂先生のことを話した。
一色誠「二階堂って、あのイケメンで有名な養護教諭か?」
丹生谷森夏「神出鬼没で、本人を校内で見かける生徒は少ないって聞くけど、本当に実在してたんだ……」
二階堂先生を目当てに保健室に行く女子生徒が多いほど、校内では美形な教師として密かに人気な人。
それが保健室を城とする養護教諭、二階堂啓壱である。
一年の初めに、勇太が六花を保健室に連れて行った際に勇太は少しだけ顔を合わせている。
まぁ、その時も当人は出掛ける用事があったらしく、二人を置いてすぐに出て行ってしまったが。
更に、立花も保健室の寝台で横になっていた際に当人をカーテン越しに見かけていた。
一年間も通っていてその時しか顔を見ていなかったため、二人とも記憶が霞んでいたようだ。
丹生谷森夏「でも、ますます信じられなくなったわね……。何で二階堂先生がメチャクチャな登場の仕方をして富樫くんたちを助けるわけ?」
富樫勇太「それは……俺にもさっぱりで……」
一色誠「近い内に会える、って言ってたくらいなら、向こうから何か明かしてくれるんじゃないか?」
小鳥遊六花「もしくは、昨日のフレアグラップラーと同じように、この邪王真眼を目的とする一味の一人……ッ」
丹生谷森夏「フレアグラップラー?」
富樫勇太「昨日襲ってきた、イカれた中二病だよ。確か、大野燥太って言ってた」
一色誠「大野燥太、ねぇ……」
モヤモヤとした気分が消えないまま、始業式後の挨拶が教室で行われた。
担任は、去年と同じく九十九七瀬先生(ナナちゃん)だった。
新学期初日から授業があることもなく、お昼頃には下校となった今日。
勇太たちは職員室には向かわずに、いつもの同好会へと足を運んだ。
理由は単純、神出鬼没な二階堂先生が職員室や保健室にいるはずがないと思ったからだ。
丹生谷森夏「保健室の先生が保健室にいないって、かなりおかしいことだと思うけどね」
富樫勇太「言ってやるなよ……」
同好会の扉を開くと、既に到着していた凸守たちを顔を合わせる。
一色誠「おぉ、中学生。今年から高等部か」
凸守早苗「その通りデス! 凸守はもう“中学生”などと呼ばれる存在ではないのデスよ、一般人!」
青色のリボンを胸に躍らせる凸守は、ついに勇太たちと同じ高等部へと進学した。
まぁ、後輩であることに変わりはないが。
富樫勇太「くみん先輩も、今年で三年生ですね」
五月七日くみん「はふぅ〜……あ、おはよう〜、富樫くん」
富樫勇太「相変わらずマイペースのようで」
全員が揃ったところで、勇太は昨日の出来事を凸守たちにも話すことにした。
内容が内容なだけに、くみん先輩もしっかりと起きて聞いてくれたが、凸守は興奮度MAXだ。
凸守早苗「こ、高等部に入って突然のミッション!! 保健室の二階堂というとんでもない悪の組織を相手にすることになるとはッ!!」
一色誠「いや、違うだろ? 二階堂先生は助けてくれた人で、敵視するなら大野とかいう奴で……」
五月七日くみん「二階堂先生ってそんなに悪い噂とかないし、私も大丈夫だと思うなぁ。大野くんて人は、ちょっと分かんないけど」
まだ推察することしかできない以上、やはり何かを分かっているはずの二階堂先生との接触は避けられない。
なら、ここで考えているよりも行動する方が得策である。
富樫勇太「全員で、二階堂先生を捜してみよう。多分、まだ校内の何処かにいると思うし」
小鳥遊六花「勇太に賛成。異論は?」
凸守早苗「マスターが従うのなら、この凸守が従うも同然デス! 二階堂先生は必ずや、この凸守が見つk」
二階堂啓壱「おいーっす。お、全員揃ってるかー?」
足で教室の扉をガラガラと開け、だらし無さ前回で入室してきた男。
前兆もない話題の人物が登場したことにより、同好会メンバーは全員が硬直してしまった。
二階堂啓壱「あり? 場違いだった?」
何やら紙袋を腕に抱えて、ボリボリと頭を書いている二階堂先生は、あくまでもマイペースである。
富樫勇太「ーーーに、二階堂先生ッ!!?」
二階堂啓壱「はーい。二階堂先生でーす」
凸守早苗「ま、まさか相手側からの侵入を許してしまうとはッ!! この凸守、一生の不覚!!」
小鳥遊六花「……あ、あのッ」
各々がリアクションを取っている中、不意に立ち上がった六花が二階堂先生の前に立つ。
二階堂先生「ん?」
小鳥遊六花「………」
富樫勇太「……り、六花?」
真正面から対立する二人に、外野は何も口出しできなかった。
小鳥遊六花「あ、あ……」
二階堂啓壱「……?」
小鳥遊六花「ありがとう…ございました……。助けて、くれて……」
中二病ではなく、普通の言葉でお礼を述べた。
相手が教師だからか、素直に助けてもらったことに感謝しているのか。
この時ばかりは、六花は礼儀正しい女子高生だった。
二階堂啓壱「……あぁ、どういたしまして」
二階堂先生は、そんな六花の頭をポンと撫でて微笑んだ。