中二病でも恋がしたい! Cross

□第05話 決断時
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 夜、富樫家の勇太の部屋。

 寝台に横たわり、今日の出来事を思い出す。

 放課後にて、二階堂先生から知らされた冗談抜きのふざけた話。

富樫勇太「…………」

 一般人と中二病。

 どちらかの全滅を結末とする、実現した中二病の力を振るっての戦争。

 中二病のために理想郷を作り上げるため、一般人を獲物とした“新世界の四獣”。

 そんな四天王の連中を悪と見倣し、一般人のために中二病連中を全滅させる目標を持つ“大罪患者”。

富樫勇太(……スケールがデカ過ぎるんだよ…。現実的じゃないし…)

 今日の下校時も、また昨日の襲撃があるかもしれないとビクビクしながら六花と帰宅していた。

 しかし、何も起きなかった。

 まるで昨日の出来事がドッキリだったように、何の予兆も見せずに。

富樫勇太「…………ん?」

 不意にベランダから聞こえた異音。

 まぁ、何となく勇太は分かっていた。

 カーテンを開け、窓を開けて迎え入れる。

富樫勇太「よぉ」

小鳥遊六花「……」

 何も話さない。

 フラフラとした足取りで部屋の中に入り、ロープを使って降りてきたのが心配になるくらい情緒不安定だ。

富樫勇太「……大丈夫か? 気分が悪いなら、少し休んd」

小鳥遊六花「勇太」

 勇太の言葉を遮って、六花は勇太に振り返る。

 その瞳は潤み、今にも涙が溢れそうなほど下瞼に溜まっていた。

小鳥遊六花「勇太ぁ……どうしよう……ッ。私……殺されちゃう、の……ッ」

富樫勇太「……なッ!? 何を急にッ」

小鳥遊六花「だってッ!!」

 ついに、涙がボロボロと決壊する。

 もう止まらない。

小鳥遊六花「今日の話、絶対に本気だったッ!! 先生が言ってたこと、絶対嘘じゃないと思うッ!! どうしたらいいのッ!? 私たち、どうしたら……ッ。ぅぅ……ッ」

富樫勇太「……六花…」

 不安を感じる。

 明確に、目に見えて身震いするほどに自覚する。

 四天王だろうと患者だろうと、どちらかが勝利を決めれば滅ぶのは誰だ?

 勇太、六花、丹生谷、凸守のような新旧含めた中二病か?

 一色、くみん先輩、クラスメイトや家族の皆、つまりは普通の一般人か?

富樫勇太「……そんなの…ッ、俺だって、どうすりゃいいかなんて………ッ」

小鳥遊六花「ぅぇぇ、ぇ…ッ。勇太ぁぁぁッ」

 ギュッとしがみついてくる六花を、勇太はギュッと抱きしめる。

 誰かが死ぬ?

 それはもう、避けられない決定事項の未来図なのか?

 本当に?



二階堂啓壱『俺の目的は、普通の人間も中二病患者も、言うならば一般人も中二病も今まで通りに共存できる世界ッ。二つの勢力を同時に潰せるほどの“第三勢力”を作り上げたかったのさッ』



 下校前に言い放たれた、二階堂先生の目的。

 あの言葉も嘘じゃないのなら、今の勇太に何ができる?

 目の前で恐怖で泣き崩れている六花のために、何ができる?

富樫勇太「……やるしか、ないよな…」

小鳥遊六花「……ぐす…、勇太ぁ…?」

 顔を上げた六花は、勇太が自分の右手を見ていることに気付き、視線を移す。

 先程まで六花の頭に置かれていた勇太の右手。





 その手の平から一瞬だけ、ポッ、と赤紫色の炎が見え隠れした。





小鳥遊六花「ーーーッ!!?」

富樫勇太「………六花…。俺、決めたよ……」

 グッと右拳を作り、まだ不安の残る表情ながらも、唇を噛み締めて決断した。

富樫勇太「二階堂先生の話に、とことん乗ってやるッ。誰も殺させない! 二つの勢力に対抗して、そんな戦争なんて何もなかった世界に戻せるくらいのッ、第三勢力を作ってみせるッ!!」

 六花の瞳には不安も恐怖も消えていない。

 むしろ、勇太を心配するあまり、その決断を止めたい願望も映っていた。

 でも、もう勇太も止まる気はない。

 携帯を取り出し、丹生谷にメールする。

 今の自分の決断を簡潔に伝える。

 揺るがないように、ここで覚悟を決めるためにも。
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