中二病でも恋がしたい! Cross

□第07話 腕試し
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 第三勢力、極東魔術昼寝結社の夏。

 そんな旗を前にして尚、勇太の思考から慌てた様子は消えない。

富樫勇太「第三勢力、って……」

小鳥遊六花「勇太、私たちも戦う」

富樫勇太「待ってくれよ、六花。何も皆まで巻き込まれる必要なんて……ッ」

丹生谷森夏「巻き込まれる? 富樫くん、何か勘違いしてない?」

 ズイッと前に出てきた丹生谷は、トンッと勇太の胸元を小突いた。

丹生谷森夏「巻き込まれるなんて被害者みたいな言葉は使わない。私たちは、富樫くんに“協力する”って言ってんのよ」

富樫勇太「協力って……」

凸守早苗「マスターは昨日の夜、メンバー全員に呼び掛けてたデスよ。その時に、危険だから強制はしない、と何度も釘を打ったのデス」

五月七日くみん「でもね。ここに集まらなかった人なんていないよね。全員でまた集まれて、私も嬉しいよぉ」

一色誠「正直、一般人の俺なんかがいても邪魔かもしんねぇけどさ。やっぱ、俺だって知っちまったからには助けてぇと思ってんだよ」

富樫勇太「みんな……」

 六花も丹生谷も凸守も、中二病だからこそ関わらない方がい。

 くみん先輩も一色も、危ない目に遭うかもしれない。

 それでも、強制的な招集でなくても、ちゃんと皆が集まってくれた。

二階堂啓壱「まぁ、早い話でまとめちまえばさ」

 勇太と対峙する皆を見ていただけの二階堂先生が、ここで口を挟んできた。

 話に加わるタイミングでも窺っていたのだろう。

二階堂啓壱「さっさと連中を取っ捕まえて、今まで通りの世界に早いとこ戻しちまえばいいのさ。一般人も中二病も共存できて、尚且つ中二病の設定なんて実現しない世界にさ」

富樫勇太「…………」

二階堂啓壱「どうせここの皆は、手を引け、って言ったって関わろうとしてくるだろうしさ。だったら、もう最後まで一緒に突っ走っちまおうぜ?」

丹生谷森夏「それ、生徒を守る立場の高校教師が言う台詞ですか?」

二階堂啓壱「俺は高校の養護教諭である以前に、一人の中二病患者だ」

丹生谷森夏「意味が分かりません、会話をしてください」

 皆を巻き込みたくないという勇太の気持ちを汲みつつ、皆は勇太に協力することを示してくれた。

 “極東魔術昼寝結社の夏”という第三勢力として、一緒に戦ってくれると言ってくれた。

 勇太に何と言われようとも、皆の答えなど最初から分かり切っていたのだ。

富樫勇太「………みんな……、ありがとう…」

 不安感がなくなったわけではないが、確実に和らいだと自覚できる。

 目頭が熱くなる。

 友達でもあり仲間である存在ほど、戦士にとって心強いものはない。







 授業中、勇太は教科書を開きつつも頭の中でこれからのことを考える。

富樫勇太(四天王も大罪患者も、自分たちの意思で行動してる。でも一般人か中二病だけの殺しなんて考え、間違ってんだよな……。とにかく二つの勢力をどうにかしないと)

 二つの勢力の手で被害者を増やさないためにも、二つの勢力の頭となっている者たちを捕まえていくしかない。

 あくまで倒すのではなく、殺すのでもなく、捕まえる。

 仮説だが四天王を壊滅させれば、大罪患者とは戦う必要もなく世界は元の姿に戻るかもしれないのだ。

小鳥遊六花「……勇太」

富樫勇太「ん?」

 前の席から六花が小声で話しかけてきた。

 新しいクラスの席並びが前に六花、後ろに丹生谷なのは幸いした(一色が離れてしまったのは惜しい)。

小鳥遊六花「四天王勢力の総員は一万人。しかし、頭となっている四天王は文字通り四人。OK?」

富樫勇太「……敵数の確認か? 合ってるぞ」

小鳥遊六花「うむ、次に大罪患者。こっちはホワイトジャックの情報に寄れば、たったの五人だけで活動中。OK?」

富樫勇太「あぁ……、そう言ってたかな……」

 二階堂先生が初めて同好会に来た時の説明会でも、大罪患者の数をチョコ菓子を用いて五つ並べていたはずだった。

富樫勇太「二階堂先生はもう何人か四天王の配下を捕まえてきてるらしいけど、捕まえた人たちはどうしてるんだろうなぁ……」

丹生谷森夏「そっちは問題ないって言ってたんだし、心配しなくていいんじゃないの? 警察に旧友がいるとか言ってたし」

富樫勇太「聞いてたのかよ。いきなり話に入ってきてビックリしたぞ」

 真後ろの席から当たり前のように声をかけられ、メンバーの三人は授業中に話し合いを始めた。

 授業中の先生の目が、話し合い中の三人にいかないように、視界の隅で一色が授業での質問の嵐を起こしてくれてるのが地味に有難い。

小鳥遊六花「今日の課題は、勇太に力の使い方を覚えてもらうこと。ダークフレイムマスターとして、強くかっこよく活躍できるようにって」

富樫勇太「マジでそんなこと言ってたのか?」

丹生谷森夏「そんなはずないでしょ、馬鹿。早く実現した力に慣れるために、何かしらの特訓みたいなことはする、って言ってたけどね」

 どうやら今日の同好会の予定は、富樫勇太の……否、ダークフレイムマスターの修業らしい。

 学校の雑用を背負い込む同好会が、とんでもないRPG団体に昇格してしまったものである。

 いや、それを言うなら降格なのだろうか……?







 学校の屋上。

 チューペットアイスを吸いながら、二階堂先生は考えていた。

二階堂啓壱(今、四天王の連中は邪王真眼の小鳥遊くんをマークしてるはず……。囮、って言い方は感じ悪いが、富樫くんが力の使い方に慣れるまで時間稼ぎくらいにはなるかもな……。一番怖ぇのは、ダークフレイムマスターが完全に力を振るえない状態で大罪患者に目を付けられること、か……)


 四天王の目的は、あくまで中二病の勧誘。

 そして一般人の殺害である。

 そういう見方をすれば、勇太と六花は四天王から命を狙われる可能性は低い。

 しかし、中二病を殺し尽くそうと活動している大罪患者なら話は違うのだ。

二階堂啓壱(さぁて……どんな修業が効率がいいかなぁ〜、っと…………ん?)

 白衣のポケットに入れていた携帯が振動する。

 それは、警察に勤めてる旧友からの着信だった。
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