中二病でも恋がしたい! Cross

□第08話 新組織
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 廃公園から逃げてきた後、勇太たちは二階堂先生のアパートに駆け込んでいた。

 そんなに何を急いでいるのかと言えば、実は勇太の右腕に問題が起きていた。

二階堂啓壱「どれ、診てみるかな……」

富樫勇太「…痛ッ」

 腕捲りをしただけで、勇太の右腕に痛みが走る。

 その腕は赤く腫れており、少しだけ熱を持っているようだった。

二階堂啓壱「まぁ、最初なんてそんなモンだ。技の威力の反動に自分の体が負けちまって、こんな風に骨に亀裂が走っちまうのさ」

富樫勇太「……メシメシッ…て、軋む感覚は、ありました…」

二階堂啓壱「それも含めて、少しずつマスターしていかなくちゃな」

 二階堂先生がスゥーッと勇太の腕を撫でる。

 すると、見る見る内に腫れは治まり、やがて何の痛みもなくなっていった。

二階堂啓壱「はい、おしまい」

富樫勇太「ありがとうございます……。でも、あの技は必殺技って感じに設定してたんで、練習しても一度の戦闘に放てるのは変わらないかも……」

二階堂啓壱「だったら、闇焔(ダークフレイム)に頼らない戦い方も考えねぇとな。他にも考えることは山積みだ。とりあえず、もう今日は帰んなさい」

 あのチンピラを相手に放った勇太の中二病設定。

 ダークフレイムマスターの“魔凰炎閃波”は一種の必殺技であり、そう易々と放てるものではなかったようだ。

富樫勇太(自分自身でも分かってないこととかあるんだな……)

 これからもこんな力を振りかざしていかなければならない未来に、ちょっとした楽しみや期待と共に、決して小さくはない恐怖心を抱いた。







 勇太と六花はマンションに到着し、勇太の家の前で別れる。

富樫勇太「すぐ上なんだし、送っていくよ」

小鳥遊六花「問題ない。邪王真眼に構わず、ダークフレイムマスター自身の昇華を優先するべき」

富樫勇太「この前までの弱腰は何処にいったよ」

小鳥遊六花「闇の炎で塵と化した」

富樫勇太「相変わらずだな。その発想も」

 おそらく、中二病全開で戦った勇太に影響されたのだろう。

 今の六花は、前までの怯えているばかりの六花ではなくなっていた。

 やっぱり六花はこちらの方が合っている。

富樫勇太「じゃあ、また明日な」

小鳥遊六花「……うん、また明日」

 しかし別れ際は、やっぱり少しだけ寂しそうだった。

 玄関の戸を閉め、ようやく一息つくことができた。

富樫勇太「ふぅ〜……、何か、色々あったな……」

 右手から闇の炎を出したり、それを放って敵を倒したり。

 中二病だった頃なら飛び跳ねて喜んでるかもしれないが、今となっては少しゾクゾクする程度で、やっぱり羞恥心の方が勝っている。

富樫勇太「……でも、こうしないと……皆は守れないんだよな……。俺の日常も…、家族も…、友達も…、六花も…」

 グッと拳を握りしめて、玄関から上がろうとした矢先のことだ。

 富樫家の玄関の向こうから、慌ただしく誰かが階段を駆け下りてくる足音が聞こえた。

 その足音は富樫家の前で一度だけ立ち止まったらしいが、ノックするわけでもインターホンを押すわけでもなく、そのまま更に階段を駆け下りてマンションを飛び出していった。







 満月が顔を出す、雲がなく星の見える綺麗な夜空。

 勇太と六花のマンションの近くにある川辺。

 橋の下の暗がりに身を潜めながら、大野燥太は招待客を待っていた。

 そして数分後、この場に客人が訪れる。

大野燥太「……よぉ、邪王真眼。待ってたぜ」

小鳥遊六花「…………」

 現れた六花の手には、一枚の手紙が握られていた。

 “危害は加えない。ダークフレイムマスターについて聞きたいことがある。大人しく来い”

 と簡潔に内容と場所が書かれた手紙だったが、差出人の名前がなくとも六花は大野だと予想していた。

大野燥太「安心しろ。そこに書いてある通り、危害は加えねぇよ……“今は”な」

小鳥遊六花「……勇太のこと、聞きたいって」

大野燥太「あぁ、そうだった。確か……“富樫勇太”って名前だったか?」

 何処で調べてくるのか、大野は勇太の情報もある程度は握ってきたようだ。

大野燥太「“闇の炎の使い手(ダークフレイムマスター)”ねぇ……。俺の“焔拳の格闘家(フレアグラップラー)”と似た中二病だったんだな」

小鳥遊六花「勇太の方がかっこいい」

大野燥太「言うじゃねぇか。まぁ、こっちはノロケ話なんざ聞きに来たわけじゃねぇんだがな……」

 橋の下から顔を出し、静かに六花へと歩み寄る。

 その様に六花は、ほんの少しだけ後退りした。

大野燥太「今日オマエらが倒したチンピラだが、あれはオレたち“新世界の四獣”の配下だ。組織の存在も知ってんだろうから話を続けるぜ? 何で手ぇ出した?」

 あのチンピラを敵視してきたためか、大野は“新世界の四獣”の説明を省いてきた。

 二階堂先生から知らされていたため話が早く済むが、それは大野が“六花たちが自分たちの目的も知ってる上での質問だ”と遠回しに言っているようなものである。

 そして六花は、新世界の四獣の目的を知っている。

小鳥遊六花「……ひ、必要なことだから」

大野燥太「必要、ねぇ……。つまりオマエらは……、少なくともダークフレイムマスターは“新世界の四獣”を敵に回して“大罪患者”側に入る、ってわけなんだな?」

小鳥遊六花「それは違う」

大野燥太「あぁ?」

 大野の中では、新世界の四獣に加わって一般人を襲うか、大罪患者に加わって中二病を襲うか、その二択しか存在しなかったらしい。

大野燥太「なら、テメェらは何を考えてやがんだ……?」
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