中二病でも恋がしたい! Cross

□第01話 剣道部
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 某高等学校のプールサイド。

 どの学校でも大抵のプールは敷地の隅に位置しており、プールの裏側は死角になっている場合が主だ。

 そしてこの場所に今現在、新世界の四獣に属している三人の中二病患者が集まっていた。

 四天王の大野と堀江、そして配下の間島である。

堀江氷華「んで? 邪王真眼とダークフレイムマスターに手ぇ出すみたいなこと言っといて、平井の奴は何も連絡寄越さないけどどゆことー?」

大野燥太「オレが知るか。あの野郎に動く気がねぇならオレが潰しに向かうだけだ」

間島空岳「ダメだよ! ちゃんと休んで、もう怪我しないように体勢を整えておかなきゃ!」

大野燥太「耳元でうっせぇんだよ、馬鹿が! チッ、何でオレが休んでなきゃいけねぇんだ……ッ」

堀江氷華「油断してたテメェが悪りぃ。そもそも、邪王真眼は強敵だって分かってたんじゃないわけ? それが理由で勧誘に行ったんだろうが」

 何も言い返せない大野は、もう一度だけ舌打ちをして黙った。

 堀江の口の悪さは相変わらずだが、今回ばかりは反論もできない。

間島空岳「と、ところで……平井さんは今どこに?」

大野燥太「知るか…」

 先程から名前の出ている平井という者のフルネームは“平井佳祐(ヒライケイスケ)”といい、新世界の四獣のメンバーである。

 そして大野や堀江と同じく、四天王の一人だ。

堀江氷華「邪王真眼でもダークフレイムマスターでも何でもいいけど、強いなら勧誘しちゃえばよかったのに」

大野燥太「もうそんなこと言えるほど、奴らの目的無視しちゃいねぇよ。共存だと? 馬鹿げてやがる」

堀江氷華「……ま、それは同感」

 相変わらず短すぎるスカートをフワッと広げてプールサイドの影から出て行く堀江。

 そんな様子に顔を赤くして視線を泳がせながら、間島は堀江に声をかけた。

間島空岳「ど、どこ行くんですか? 僕の能力で送っていきますよ」

堀江氷華「いらねぇよ。大野だけ連れて帰ってな」

 ヒラヒラと手を振って何処かへと足を進めていく堀江。

 自分の油断が原因とは言え、休養が必要になった大野の代わりに動き出している平井。

 今の状況を見て、堀江の頭に浮かんでいる事柄は一つだった。

堀江氷華(油断してたから怪我して休養…? ハッ…、笑わせる。その程度で休養が必要なほど大野は弱くない……。一度、アタイも見ておいた方が良さそうだなぁ……)

 邪王真眼とダークフレイムマスター。

 第三勢力“極東魔術昼寝結社の夏”の存在と目的を知った堀江も、新たな獲物を見据えて動き始めようとしていた。









 勇太と六花が一時的に大野を押し負かしてから、既に二ヶ月が過ぎていた。

 時は六月の梅雨時。

 春の桜も姿を消し、湿気の漂うジメジメとした夏の気配を感じさせる季節が訪れていた。

 あの日からも勇太たちは己の中二病の力を磨く延長戦で、着々と新世界の四獣の配下を倒していた。

 といっても、大体がピアスを一つか二つ付けている程度の勢力のみで、四天王との直接的な繋がりを持つ三つのピアスを付けた配下とは一人も出会えていない。

富樫勇太(まぁ、そんなもんなのかな……)

 校舎の外。

 放課後を迎えている今現在、勇太は正門の外に出て伸びをする。

 そんな勇太の傍に、一人の警察官が自転車に乗って現れ、横付けする。

富樫勇太「あ、木山さん。こんにちは」

木山眞二郎「やぁ、富樫くん。調子はどうだい?」

 彼の名は“木山眞二郎(キヤマシンジロウ)”。

 何度か話題に出てきていた、二階堂先生の旧友である。

 今までは二階堂先生に協力し、新世界の四獣の配下を秘密裏に取り押さえてくれていたのだ。

 もちろん、職場の警察署には内緒で。

木山眞二郎「他ならない啓壱の頼みだ。私は中二病じゃなかったから、対した力にはなれないけど……その……何だっけ? 組織?」

富樫勇太「あぁ、極東魔術昼寝結社の夏、ですか?」

木山眞二郎「そうそう、それそれ。それにも協力するからさ。まぁ、君たちにとっての敵さんを捕まえとく程度しか出来ないけどね」

 二階堂先生は今まで、木山の力を借りて新世界の四獣と戦っていた。

 配下の連中を二階堂先生が捕まえて、木山が拘束して取り押さえておく。

 中二病ではないため、おそらく捕まえた中二病患者の力に負けることもなかったのだろう。

木山眞二郎「今日も同好会の活動か? あ、今は組織なんだっけか?」

富樫勇太「はは、そうですね。でも、今日は違うんです。今の時期は、ちょっと活動しにくくて……」

木山眞二郎「およ? 何で?」

 木山が質問した時、野球部の部員がボールをバットで打ち返した音が甲高く響き渡って聞こえてきた。

 学校の敷地内に耳を傾けてみれば、それ以外の部活動の声もいつもより何倍にも増して聞こえてくるようだ。

木山眞二郎「なるほどね……。今はそんな時期か……」

富樫勇太「……はい」

 今現在、三年生最後の部活動大会間近。

 同好会の活動場所も占領して、この時期だけは部活動を優先して学校中が気合に満ち溢れているのだった。
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