中二病でも恋がしたい! Cross
□第03話 自由を
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意味の分からない言葉を聞かせ続け、結果として相手を苛立たせる。
そんな展開は目に見えていた。
でも、それを止めることは出来なかったし、止めようとも思わなかった。
だって仕方がない、そういう中二病だったんだから……。
ダーインスレイヴを構え、ダークフレイムマスターとして平井と対峙する勇太。
その瞳に、もう迷いや揺らぎはない。
平井佳祐「……おやおや、これは残念。貴方ならもう少し冷静な判断が出来る方だと思っていましたが……」
富樫勇太「……俺が冷静じゃないっていうのか?」
平井佳祐「そうですね……。厳密に言うならば、取り乱している、と言ったところですか。やせ我慢している様が、自分にはバレバレなのですよ」
勇太は平井に臆している。
そう言っているようにしか聞こえない発言で、平井は勇太に言葉を投げかけていく。
対する勇太の答えは……。
富樫勇太「そうかよ………で?」
平井佳祐「………ッ」
勇太の瞳に、一切の迷いはない。
むしろ、瞳に動揺の色が浮かんでいるのは平井の方ではないのだろうか。
富樫勇太「“謎発言系中二病”、だったかな。二階堂先生が教えてくれた、お前の抱える中二病に最も近い枠組みだ」
平井佳祐「謎、発言……」
勇太は、二階堂先生から聞いてきた中二病設定の予想を語り出す。
富樫勇太「お前の中二病設定は、きっと別のところにある。でもそれ以前に、お前は自分の性格を利用した別の中二病の能力も持ってるはずだ。それが“発言の力”」
平井佳祐「………」
平井の口から発せられる言葉には、意味はない。
だがそれを聞いた時、勇太の身に何らかの不具合は確かに起きていた。
少しずつ力が失われていくように、現状よりも思い込みが上回り、事態は平井の有利に動いていくように。
おそらく、あの場面で凸守が駆けつけていなければ、勇太は敗北していたかもしれなかったのだ。
富樫勇太「原理は少し違うかもしれないけど、お前には“言葉で挑発することで自身の力を増す力”がある。違うか?」
勇太の問い。
答えとして平井は、何かを諦めたかのように口元だけに笑みを作った。
平井佳祐「…そう、ですね。そうかもしれません。自分が口にした通りに現実を変えることができれば最強でしょうけど、生憎とそこまで便利ではありません。やはり副産物程度の力では無理があります」
やれやれ、と肩を落とした平井は観念したかのように見せて話し始める。
平井佳祐「その通りですよ。あくまで自分の性格を利用した力に過ぎませんが、自分には言葉を通してその場の状況を覆す力があります」
富樫勇太「……じゃあ、傘や石を剣や銃に変える力は……」
平井佳祐「その力こそが、自分の抱える中二病設定の真の力ですよ」
平井は足元の土を手で握り、泥遊びを楽しむように揉み始めた。
手の中で丸めた土の塊を再び地に落とした時、その塊は、ゴドンッ、と重苦しい音を立てて崩れることもなく地に埋まる。
それは土ではなく、金属の塊のように見えなくもない。
平井佳祐「自分は、自身が立っている場所を最大限に利用する能力を持っています。そして、その中でも最も得意とするのが“土”を扱った戦闘技です」
富樫勇太「…土……」
土など、そこら辺にいくらでもある。
そんな身近なものが、平井にとっての強力な武器となり、最も得意とする技の原材料なのだ。
平井佳祐「自分が四天王として一般人を抹殺する際、何度も用いる殺害方法が“生き埋め”です。あらかじめ手足を土で固めて動けなくした上で、例え自由の身でも這い上がれないほど地中深くに、ね……」
富樫勇太「何で、そんなことを……ッ。お前のいう一般人が、お前に何をしたて言うんだよ!」
平井佳祐「……“何をした”…ですか……。そんなもの、答えたところで無意味です。どうせ自分自身だって、もう何をされてきたのか思い出したくもないのですから……」
富樫勇太「……?」
平井は語りだす。
かつての自分の身に降りかかった、もしかしたら何処の世界にもあるのかもしれない、とある学生生活の日常を……。
今年で高校二年生になる男子、平井佳祐は“新世界の四獣”に属する四天王の一人だ。
中学から続けていた剣道部に高校でも入部したのだが、現在は幽霊部員となっている。
中学時代から成績は常に上位で、頭の回転は人一倍早い。
言葉の節々に挑発的な態度が見え隠れするものの、基本的には誰に対しても敬語を使う礼儀正しさを持っていた。
そんな平井の痛々しい欠点は、意味のない発言を繰り返す独り言だった。
ブツブツと意味もない発言を独り言で繰り返していたことで、不気味がられ、孤立していく存在に追いやられていく。
そんな裏のあるような、ちょっとした怖さを演出することで打ち震える“中二病患者”となっていたのだ。
そんな挑発的な態度が災いし絡まれることもあり、逆に挑発的な発言をしてボコボコにされた経験もある。
平井佳祐(……自分は、どうして、こんなことを)
そういう性格は、なかなか直らない。
分かってはいたが止めることなど出来ず、日に日にイジメはエスカレートしていった。
その間に平井は、言葉を呟くだけで何も出来てはいなかった。
平井佳祐(……中二病だから、殴られるのか……? ただの性格なのに……、そんなことで孤立するのか……)
そんな時だった、中二病の設定が現実になる事態が起きる。