中二病でも恋がしたい! Cross

□第04話 外戦力
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 六月も終わりに差し掛かり、暑い夏の季節が本格的に始まろうとしていた。

 先日、新世界の四獣に属する中二病患者、その中の四天王の一人と勇太は対峙した。

 平井佳祐、言葉とその場を大きく利用する中二病で勇太を圧倒するも、最後には闇焔の前に敗れたのだった。

 その日を境に、ますます新世界の四獣の配下と戦う日々が多くなった(気がする)が、平井との戦いで傷の癒えていない勇太に代わって六花や凸守が応戦していた。

二階堂啓壱「悪いねぇ。内側の傷なら治せんだけど、どうにも外側はねぇ」

富樫勇太「擦り傷の程度ですし、問題ないですよ」

 珍しく保健室にいた二階堂先生と話し込む勇太。

 今は放課後間近の休み時間であり、帰りのHRが終われば下校なり部活動なりが始まるのだろう。

 そんな時間帯に保健室に来たのは、何も怪我をしているからではなかった。

二階堂啓壱「あの平井くんって子、一色くんの調べで色々と分かったよ。中学時代のイジメ被害や、高校生の現在では剣道部の幽霊部員兼不登校の問題児だってね」

富樫勇太「……そうですか」

二階堂啓壱「まぁ、一般人が中二病をイジメの対象にするのは珍しくない。彼もまた、その内の一人だったってことさ」

 勇太は、平井に同情していたのかもしれない。

 そんなことをしたところで、彼の心の傷を癒したり肩代わりすることは出来ないのだが。

 もしも平井が、今の勇太や六花たちと早い内に関わっていたら、こんなことにはならなかったのだろうか。

富樫勇太(…いつまでも悩んでたって、仕方ないか……)

 勇太はグッと右拳を握る。

 平井を倒す際に放った“魔凰炎閃波”は、初めて放った時ほどの負担を感じなかった。

富樫勇太(慣れてきてる……んだよな…?)

 それでも、一度の戦闘に放てるのは一度か二度程度。

 やっぱり“必殺技”という項目からは抜けられないのかもしれない。

 そんなことを思い返しつつ保健室を出ていこうとしたところで、二階堂先生に声をかけられた。

二階堂啓壱「あぁ、そうだ。帰りのHRが終わった後、多分だけど九十九先生に呼び止められるかもしんねぇぜ? その場合、同好会の方は参加できる人だけ集合ってことで集まってくれよ〜」

富樫勇太「……? 九十九先生から?」







 もうすぐ七月、というのは冒頭でも説明済みだ。

 そして七月に待っている学生にとっての一大イベントといえば夏休みだ。

 だが夏休みの前には、必ず“あれ”が行われてしまう。

九十九七瀬「それでね、今回の期末テストのことなんだけど……」

富樫勇太「……はあ」

小鳥遊六花「……あぅ」

 何を言われるのか既に分かっている勇太と、何を言われるのか嫌でも分かっていた六花。

 今回は、あろうことかテストが行われる前に釘を刺されるという残念な人確定な場を設けられてしまったのだ。

九十九七瀬「最近、二階堂先生が同好会の責任者になって、活動に手がいっぱいなのは分かるんだよ? 分かるんだけど、いつもの授業成績だけでも目に見えて下がっていってるのは、どうかと思うなぁ〜……」

富樫勇太「……ご、ご尤もで…」

小鳥遊六花「…あぅ、ナナちゃん酷いよ…」

 しかし、今回の暫定赤点者は六花だけではなかった。

丹生谷森夏「……あぅ」

一色誠「……あぅ」

小鳥遊六花「私のアイデンティティが!!」

富樫勇太「馬鹿言ってる場合か。つーか、お前たちもかよ。意外だな」

 この二ヶ月、六花に付き合って凸守と混ざって中二病のシュミレートを行っていた丹生谷。

 勇太たちのためにと、二階堂先生と一緒に風紀委員の肩書きで情報をあちこちから集めていた一色。

 その二人も、六花と同じようにショボーンとしていたのだった。

一色誠「勇太ぁ! 何でお前は赤点候補者じゃないんだ!? 一緒に活動してたってのに、こんなの不公平だ!」

富樫勇太「最低限の復習を欠かさなかっただけだよ。あとは授業だけでもノートくらいは取っておくとか」

丹生谷森夏「あー……、軽い予習復習しかしてなかったからなぁ……。まぁ、今からなら遅くはないかな」

一色誠「そこは同感だな。まだ期日はある。ただ……」

 チラッと、この場全員の視線が一ヶ所に集結する。

 皆の視線を一気に浴びた六花は、眼帯も滲むんじゃないかと思えるほどの涙目で勇太を上目遣いで見上げた。

小鳥遊六花「…ゆ、ゆうたぁぁ……」

富樫勇太「分かってるよ、六花。ていうか、そうこなくっちゃ赤点候補じゃない俺がここにいる理由が分からねぇだろうが」

 ポンポンと頭を撫でてやり、半泣き状態の六花を抱き寄せる。

 一年ぶりの勉強会が、どうやら今年度も行われるようだ。

九十九七瀬「今回も平均点以上を目指して、三人とも頑張ってね」

丹生谷森夏「はい」

一色誠「はい」

小鳥遊六花「……はぁい」

富樫勇太「やれやれ」

 ちなみに、くみん先輩は基礎程度なら成績的にクリアーしているらしく、凸守は言うまでもなく優等生のようだ。

 “極東魔術昼寝結社の夏”の活動に参加していようとも、赤点の危機に陥ったのは三名だけだった様子。

 こうして、成績の遅れを取り戻す自信のある丹生谷と一色を除き、勇太との懐かしい勉強会が再び始まっていくことになったのだった。
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