中二病でも恋がしたい! Cross
□第06話 水蒸気
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勇太は立ち上がる。
制服もボロボロにされ、自身の血で体を染めよとも、まだ倒れるわけにはいかない。
富樫勇太「……燃え盛れッ」
勇太の意思に呼応するように、ダーインスレイヴの刀身を纏う闇焔が勢いを増した。
堀江氷華「ヒュ〜♪ やるじゃん! そうこなくっちゃねッ!!」
まるで辺り一帯の水分が堀江へと集まるように、フワフワと水の塊が集まっていく。
堀江の手の上に集まった水は形を変え、ドッヂボールサイズの塊で固定される。
富樫勇太「ーーーおおおおおおおおッ!!!!」
勢いよくダーインスレイヴを振る勇太と、水の砲弾を片手で易々と投げ放つ堀江。
ダーインスレイヴの闇焔が鎮火されると共に押し返され、放たれた水の砲弾は水蒸気となって蒸発する。
富樫勇太(……よしッ、この調子で…)
これは、勇太の目論見通りの展開だった。
故に行動指針は変わらない。
再びダーインスレイヴに闇焔を纏い、攻撃法も変えずに繰り返す。
堀江氷華(……? 何だ? 何を考えてやがる……)
ここまで単純では堀江も疑わざるを得ない。
明らかに勇太は、同じ展開が繰り返されることを知ってて同じ攻撃パターンを繰り返している。
一体、何を狙っているのだろうか?
堀江氷華(何考えてんのか知らねぇけど、野郎が何か事を起こす前に叩き潰してジ・エンドだ!!)
何度目になるかも分からないパターンが終わり、再び繰り返されそうになる。
勇太のダーインスレイヴに闇焔が纏われ、勢いよく振るわれる。
その瞬間……。
堀江氷華「同じ攻撃でも、素振りくらいは変えた方がよかったんじゃな〜い?」
一気に隙だらけとなった勇太の腹に、堀江は躊躇いなく飛び込んだ。
これは勇太も予想していなかった展開だ。
富樫勇太「ーーーッ!!?」
勇太の懐に転がり込んだ堀江は、一瞬で凝縮させた水の塊を勇太の腹部にゼロ距離で押し付けた。
凝縮された水は、まるで散弾銃のように一発の衝撃が強い水の滴となって勇太の腹部を容赦なく抉った。
堀江氷華「ーーー“極小の水爆弾(アクア・バルーン)”ッ!!」
富樫勇太「ーーーぐぁぁぁあああああああああああああああああああああああッ!!!!」
同じ箇所を何度も攻撃する水の滴に、勇太の血が混ざってピンク色の鮮血が飛び散る。
傷が染みる痛みを感じる暇もなく、勇太の攻撃体勢は一気に崩されてしまった。
その衝撃で、ダーインスレイヴも手元を離れて飛んでいく。
すぐ近くに転がっただけなのに、手が届かないほど遠くに行ってしまったように感じた。
堀江氷華「ったく。何を狙ってたか知らないけど、もう少し頭使って戦えっつーの。テメェ、平井の野郎から“低脳”って言われただろ? なぁ?」
堀江の罵りなどに聞く耳を持たず、まだ勇太は立ち上がる。
もしかしたら、声を出すのも億劫なのかもしれない。
それでも勇太は、攻撃を止めない。
グッ、と拳を構えてただの打撃でも堀江へと攻撃を仕掛ける。
堀江氷華「はぁ〜、もう飽きた。そろそろ水圧で潰して殺しちゃうけどいいy……ッ!!?」
勇太の拳が振るわれたが、堀江は身を後退させてそれを避けた。
そう……“身を後退させて避けた”のだ。
富樫勇太「……避けた、な………お前…」
堀江氷華「………」
富樫勇太「何で、避けた……?」
堀江氷華(……こいつ…ッ)
堀江の表情に余裕がなくなる。
冷や汗が浮かび、体が強張っていく。
対する勇太は、追い詰められてボロボロになっているにもかかわらず、作戦が上手くいった喜びで笑顔を浮かべていた。
富樫勇太「いや…、違うか……。お前は…もう“避けることしか出来なくなった”んだよな……?」
堀江は勇太の拳を、水の盾で防いだ後に集めた水の塊へと閉じ込めて溺死させるつもりだった。
もしかしたら水圧で潰して圧殺する気だったかもしれないが、とにかく今回も“水”を使おうとした。
しかし、堀江の手元に十分な水分が集まらなかったためそれは実行できなかったのだ。
堀江氷華「……テンメェ…ッ!!」
富樫勇太「俺の炎は、右腕から制限なく噴出できる……。でも、お前の水は違うよな……? 所詮お前のは、水を“操ること”であって……水を“作り出すこと”じゃない……。だから、この雑木林に誘い込んだんだろ……?」
先日の雨の影響で、この雑木林には逃げ場のない水分が集まっていた。
しかし、路地にある水溜り程度では底の知れた燃料に過ぎない。
だから堀江は、自分が戦いやすい場所で戦うために、十分な水場が出来上がっている雑木林に誘い込んでから勇太に攻撃を仕掛けた。
しかし、その水はもう何処にもない。
あったとしても、それは既に十分な量ではない。
勇太が何度も攻撃を仕掛けていたのは、堀江に直接的なダメージを与えたかったからではない。
堀江氷華「テメェ…、自分の炎で、ここらの水分を全部蒸発させやがったなッ!!」
富樫勇太「端っから、それが狙いだ……。水を作れず、操ることしかできないお前は、もう能力を使えねぇんだ……ッ」
もうダーインスレイヴを構える必要もないし、構えるだけの力もない。
相手は無能と化した女子中学生。
拳一つで十分だろう。
富樫勇太「…聞かせてくれ……」
堀江氷華「……?」
富樫勇太「何でお前は、新世界の四獣に属して、四天王なんてやってんだ……? 何で、平気で一般人を殺そうなんてこと、考えられんだよ……。何で簡単に、人を殺そうとするんだよ……ッ」
勇太の問いを聞くと、堀江はフッと鼻で笑った。
堀江氷華「………それが、アタイの正義だから、かな…」
富樫勇太「何…?」
堀江は語る。
自分がここまで破綻することになった、中二病と醜い過去の物語を。
堀江氷華「テメェだって、ヒーローに憧れたことあんだろ? アタイにとっては、これもその思考の一つに過ぎねぇんだよ……」