中二病でも恋がしたい! Cross
□第07話 黒炎竜
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戦闘態勢を崩さず、今にも襲いかかってきそうな首長竜の堀江を前に、勇太と六花は目を逸らさずに作戦を立てる。
富樫勇太「封印していた力の一つを解く。多分、勝てる方法はそれしかない」
小鳥遊六花「…私は、どうすればいい?」
富樫勇太「封印を解くのは簡単だけど、その力を上手く振るえるかは分からないんだ……。悪いけど、俺が力をコントロールできるまでの間に、堀江の水分を蒸発させてくれ」
小鳥遊六花「了解ッ」
作戦が決まった瞬間、六花は堀江へと一歩前進する。
否、それは堀江へと向かったと言うよりは、勇太の傍から離れていたようにも見える。
自分の攻撃に、勇太を巻き込まないように。
小鳥遊六花「……フンッ!」
六花はその手に握る巨大な得物を地面に突き刺した。
瞬間、突き刺した箇所を中心に赤く光る魔法陣が広がっていく。
小鳥遊六花「ーーー“ネルガル・ブラスト”ッ!!!!」
魔法陣が更に光り輝き、何十発もの魔法弾が一斉に放たれた。
追尾型らしく、真上に放たれた魔法弾は軌道を変えて一気に堀江へと突っ込んでいく。
堀江氷華『賢しいんだよぉッ!!!!』
しかし堀江は首長竜の首を大きく振るい、魔法弾を全て吹き飛ばした。
その分、自身の首を構成していた水分を蒸発させて。
小鳥遊六花(……よし…、いける…ッ)
六花は、その調子で水分の蒸発に取り掛かった。
その一方で勇太は、右腕に巻いた包帯を解くために左手を添えていた。
その動作に緊張が走る。
富樫勇太(右手に巻いた包帯は、黒炎竜を封印しているもの。もしも解いてしまえば黒炎竜が暴れだすため、絶対に解いてはならない。そういう設定だったはず……)
だからこそ、勇太は具体的に思い出せない。
もしも解いた場合、黒炎竜はどんな風に暴れ出してしまうのかを。
富樫勇太(でも解かなきゃ、堀江を倒せない……。凸守だって救えない……ッ。ここは、こいつの封印を解く以外に、道はねぇんだ……ッ!)
勇太は意を決する。
右腕に伸ばした左手で包帯を掴み、一気に引き解いた。
富樫勇太「ーーー我が名はダークフレイムマスターッ! 煉獄の世に羽撃きし黒炎竜よッ、今ここに姿を現せぇッ!!」
その瞬間、勇太の右腕が肩口から真っ黒に染め上がり、まるで右腕の形をした黒い霧のように原型を失った。
第三者から見れば、右腕の代わりに黒い煙が右肩から噴出しているように見える。
富樫勇太(……なん、だ…こりゃ…ッ!?)
その現象に驚いているのは、勇太も例外ではなかった。
封印が解かれた姿がこんな形だとは設定した本人も覚えていなかったからだ。
富樫勇太(こんな形での封印解除なのかよ……ッ。痛すぎるなぁッ、中学の俺ッ!)
だが力は溢れてくるようだ。
右腕に感じるビリビリとした感覚が、勇太の戦いに対する本能を逆撫でる。
堀江氷華『…黒炎竜…、だぁ……?』
小鳥遊六花「勇太、かっこいいッ!」
右肩から噴出する黒い霧が右手の形を作っている。
だがそれも見る見る内に形を変え、勇太の体よりも更に大きく広がっていく。
最終的に、その黒い霧は一匹の竜へと姿形を完成させた。
全身を黒い霧……否、既に黒炎そのもので構成している黒炎竜は、ダークフレイムマスターの振るう力の一部として完全に覚醒した。
堀江氷華『ハッ! それが、どうしたぁぁぁあああああッ!!!!』
小鳥遊六花「……ぐッ!!」
だが、まだダメだ。
堀江を包み込む首長竜の水分は蒸発し切っていない。
富樫勇太(……クソ…ッ。黒炎竜を押さえ込むだけでもキツいってのに……ッ。この状態じゃ、決定打にならねぇ……ッ)
勇太は黒炎竜が勝手に暴れないように、内側からギリギリのラインで制御している。
このまま堀江にぶつけたとしても、おそらくは水分を蒸発させるだけに留まってしまう。
その後では本体の堀江が自由を取り戻し、きっと逆にトドメを刺しに来る。
黒炎竜の一撃は、何としてでも首長竜を蒸発させた後の堀江に叩き込まなければならない。
堀江氷華『…これで、ジ・エンドだッ!!』
一際大きく振るわれた首が、六花と勇太へと同時に襲いかかろうとする。
大きく首を伸ばした分、全ての水分が集中しているようだが、二人共が倒されては意味がない。
もう、手は出し尽くしてしまった……。
小鳥遊六花「……くッ」
富樫勇太「……チックショォ……ッ!!」
そう諦めかけた時だった……。
一色誠「ーーーテリャァァァアアアアア!!!!」
五月七日くみん「ーーーわぁぁぁあああああッ!!」
くみん先輩が六花を、一色が勇太を、それぞれ突き飛ばしたことで堀江の攻撃範囲から脱出させた。
小鳥遊六花「ーーーぇッ!?」
富樫勇太「ーーーなッ!?」
堀江の攻撃を受けることがなくなった代わりに、二人の一般人が堀江の攻撃を真正面から受けてしまった。
だが……。
二階堂啓壱「ナイスだッ、お二人さんッ」
二階堂先生の声とガッツポーズが見えたことで、勇太は思い出す。
一般人に、中二病の力は通用しない。
そして今の堀江は、全ての水分を集中させた首を放ったことで、完全に無防備状態となっていた。