中二病でも恋がしたい! Cross
□第09話 終業式
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一学期、最後の登校日。
終業式が行われている中、話題に上がるのは高等部一年“凸守早苗”の行方不明事件ばかりだ。
発見されたものの、植物状態に移行する恐れがあるとのことで現在も入院中。
同級生はもちろん、生徒たちが話題にしない方が無理があるかもしれない。
富樫勇太(でもまさか、今ここに凸守本人はいるなんて誰も思わないんだろうなぁ……)
終業式が行われている現在、いつもより調子が落ちている(それでもやっぱりハイテンションな)校長先生のスピーチ中。
全校生徒が整列している中、凸守は幽霊のように空中を浮遊しながら校長先生の周りを飛び回っている。
その状況に、教師陣に整列している二階堂先生は笑いを堪えるために自身の太ももを抓っていた。
富樫勇太(“六花のサーヴァント”って設定が発動中で、中二病患者にだけ見える姿で霊体同然に現出する、か……。何か、やりたい放題だな……)
壁や天井もすり抜けられるのか、凸守は校長先生の体を通過して遊んでいた。
たまに決めポーズも取っている。
丹生谷森夏「……ねぇ、あいつあのままでいいんじゃない?」
富樫勇太「…いや、それはマズいだろ……」
小鳥遊六花「でも凸守、楽しんでるみたい…」
富樫勇太「………」
二階堂先生曰く、騒ぎにならないように凸守は少しずつ回復させて自然に目を覚まさせるとのことだ。
二階堂先生の能力を万全な状態で使って目を覚まさせたら、それこそ問題が浮上する。
病院側の診断ミスは、二階堂先生の力の秘密。
または中二病同士の抗争が公になれば、秘密裏に動いていた“新世界の四獣”や“大罪患者”は行動が派手になる可能性もあるのだ。
一般人のために動く者も、中二病のために動く者も、結局やっていることは人殺しであり、それが公になれば大問題だろう。
富樫勇太(とにかく、凸守を失うことがなかっただけマシだ。生きてさえいれば、二階堂先生が何とかしてくれる。あとは向こうの出方次第か……)
四天王が二人となった今、大罪患者も動き始めている。
勇太たちのペースで新世界の四獣と戦い合っていく時間は、もう終わってしまったのかもしれない。
終業式が終わり、生徒たちが各々の教室へと戻る中。
フワフワと浮遊していた凸守が六花のところへ降りてきた。
凸守早苗「マスター、お疲れ様デス」
小鳥遊六花「凸守、ずるい」
丹生谷森夏「あんたねぇ、周りに見られてないからって調子に乗り過ぎよ」
凸守は堂々とした声色で話しているが、六花と丹生谷は小声だ。
凸守の姿も声も周りには聞こえていないが、六花たちの声は当たり前だが周囲に聞かれてしまう。
一色誠「何か、人が飛んでるの見ると、見知った奴でもビビるよな」
富樫勇太「その点は分からなくもない」
六花たちから少し離れた後方にて、勇太と一色が会話する。
そんな二人の間に、くみん先輩が顔を出した。
一色誠「くみん先輩!? こんなところで何を!?」
富樫勇太「いいんですか? くみん先輩のクラス、もう先に行っちゃいましたよ?」
五月七日くみん「大丈夫だよぉ。きっと、また何処かでお昼寝してるって思われてるからぁ」
それは“大丈夫”にカテゴライズされるのだろうか?
そんな話は置いておいて、くみん先輩は伝言を預かってきていた。
五月七日くみん「二階堂先生がね、富樫くんか六花ちゃんに伝えてほしい、って」
富樫勇太「俺?」
くみん先輩は頷く。
五月七日くみん「木山さんから聞いた話だけど、今までにも凸ちゃんと同じ症状の人が何人も、色んな病院に運ばれてきてるんだって」
一色誠「…それって、もしかして全部“大罪患者”の…!?」
富樫勇太「……大罪患者全体の仕業じゃなくても、碧桃の被害者って可能性は高いか……」
二階堂先生曰く、木山の話では凸守が倒されるよりも前のことで、昏睡状態で運ばれてきた人は何人も発生している。
各々で運ばれてきている病院は異なるが、中には植物状態に完全に移行した者や、既に亡くなってしまった者もいるとのこと。
そして共通点は……。
五月七日くみん「全員、中二病と思われる過去があった……って言ってたよ」
一色誠「…全員……」
富樫勇太「そうですか…」
気持ちは沈む。
四天王を二人も倒したとなれば、中二病を敵対視している大罪患者が注目しないはずがない。
大罪患者が極東魔術昼寝結社の夏に注目してしまった今、凸守に続く被害者が勇太たちの中から出ても不思議ではなくなった。
しかも、今回は六花のサーヴァントということで(視覚的な意味で)復活できた凸守はラッキーだったとして、他の誰かがやられては手の施しようがない。
仮りに六花が倒されれば、今の凸守はどうなるのか?
それ以前に、二階堂先生がやられてしまえば、凸守を助けることが出来なくなってしまう。
富樫勇太(…百々碧桃……ッ。思ってた以上に、厳しい相手だぞ……。どう出ればいいんだ…ッ)
行動指針が明確に決まらず、勇太は悩むばかりだった。