SRP:妹達共鳴計画U

□Data.01 九月一日
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 学園都市の第七学区には、窓のないビルが存在する。

 ビル内部では学園都市の統括理事長“アレイスター=クロウリー”が座しており、目の前には白衣を着た高校生が立たされていた。

アレイスター『さて、私に現状を聞かせてもらえるかな?』

白衣の少年「了解です。アレイスター統括理事長」

 持参してきたレポート用紙に視線を落とす。

 何処にでもあるカルテのようなレポート用紙に記載された内容は、つい昨日の深夜に起きた“とある事件”の詳細が書かれていた。

白衣の少年「学園都市の第二位によって、一方通行は致命的なダメージを受けました。仮にも学園都市の頂点に君臨する超能力者の第一位を名乗るにしては、引退を考えざるを得ないほどです」

アレイスター『しかし、百を超える妹達を殺害することで習得した垣根帝督の未元物質を以てしても、一方通行を超えることは叶わなかったわけだな』

白衣の少年「ご名答です。一方通行の受けたダメージは、垣根帝督の未元物質による頭蓋骨へのダイレクトなもので、報告によれば前頭葉を大きく損傷した様子。脳が貫かれる直前に反射を取り戻していなければ……、あるいは未元物質を含んだベクトル制御の操作法に至っていなければ、おそらく今頃は……」

アレイスター『……なるほど。彼が現世に留まったのは、死の淵から帰還しようとする生存本能と戦闘本能の叫び故に、と言ったところか』

白衣の少年「もしくは、誰かを守るための力を欲した結果、という着眼点もあるのでは?」

 あの日、一方通行が命を落としてしまえば、傍にいた妹達も無事ではなかっただろう。

 木原数多の助力があったとはいえ、あの戦場から瀕死の状態で帰還できたのは奇跡以外の何ものでもないのかもしれない。

アレイスター『さて、では垣根帝督の所在はどうなっている?』

白衣の少年「そればかりは何とも説明が……。学園都市の何処にでも存在している、ともお答えできる反面、学園都市の何処にも存在していない、ともお答えできます」

アレイスター『未元物質で人体を構築したが故の、分散された微粒子の末路……。実に興味深い』

 一方通行のベクトル操作によって、垣根の人体を構成していた未元物質を学園都市中に分散した。

 四方八方へと、バラバラの粉々にして。

 垣根帝督として集結するべき“核”まで失ってしまった彼を追跡することは、学園都市の技術ならば不可能ではないが困難であることは確実。

 もしかしたら、あと数百年は顔を出すことも叶わないかもしれない。

アレイスター『まぁ、そちらは追々片付けていくこととしよう』

白衣の少年「アレイスター統括理事長。一つ、宜しいでしょうか?」

アレイスター『何かね?』

白衣の少年「先の一方通行に関することですが、冥土帰しから申請を預かっています」

アレイスター『彼の件なら、わざわざ伝えられるまでもない。大方、一方通行の演算延命法を思い付いたのだろう』

白衣の少年「……察しが宜しいようで助かります」

 白衣の少年は、また別のレポート用紙を捲って内容の確認を行う。

白衣の少年「では、俺が預かっている“打ち止め”を介する形で、妹達のミサカネットワークを用いた代理演算法。こちらを承諾するということで、宜しいですね?」

アレイスター『構わんよ。既に“電極付のチョーカー”という面白い一品の報告も受け取っている。承諾した以上、既に実践されているだろう』

白衣の少年「手際が良いですね」

 カルテを片付け、アレイスターに頭を下げて一礼した白衣の少年は背を向ける。

 案内人を受け持っている空間移動系能力者の少女の目の前まで来たところで、アレイスターに名を呼ばれた。

白衣の少年「…まだ何か?」

アレイスター『ただの好奇心だ。垣根帝督の私情で蘇った妹達の件だが、再調整の程は如何なものか?』

白衣の少年「………残念ですが、あの個体は既に感情データを浸透させています。他の個体と同等のスペックを持たせるのは、もう不可能です」

 しかし、ここで白衣の少年はニヤリと笑った。

白衣の少年「ですが、ミサカ3709号にも興味深い観察結果が得られる可能性を確認済みです。SRPの遂行には無問題ですよ」

アレイスター『ならば結構だ。して、当人のミサカ3709号の現状はどうなっているのかな?』

白衣の少年「それは……失礼ですがご自分で確認してみるのが宜しいかと思われます。演算を取り戻した一方通行も困惑するでしょうが、実に微笑ましい変わり栄えとなっておりますので」

アレイスター『…ほぉ……、それは楽しみだ…』

 アレイスターの笑みを見届け、白衣の少年は窓のないビルから姿を消した。







 窓のないビルの外に降り立った白衣の少年は、傍らで荒い呼吸を繰り返している少女を気遣う。

白衣の少年「申し訳ありません、結標さん。大丈夫ですか?」

結標淡希「これが、大丈夫な様子に…見えるのかしら……?」

白衣の少年「トラウマを抱えている手前、本当に恐縮です。ありがとうございました」

結標淡希「…ふん」

 額の汗を拭っている結標へと、白衣の少年は一枚の名簿用紙を差し出した。

白衣の少年「はい。こちらがお約束していた品になります」

 名簿を一瞥した結標は、黙って用紙を受け取った。

白衣の少年「ところで、そんなものが何に必要なのですか?」

結標淡希「何だっていいでしょ……。貴方には関係のないことよ」

 名簿に記載されているのは、学園都市の内部と外部の両方に繋がりのある研究員たち。

 その中でも、天井亜雄との関係性を持っていた研究員たちのみが選抜され、ズラリと並べられていたのだった。
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