SRP:妹達共鳴計画U

□Data.02 九月四日
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 カエル顔の医者の病院内。

 カツカツと音を立てて両手の松葉杖を動かしながら、一方通行は廊下を進んでいた。

冥土帰し「おや? 随分と使いこなせるようになったじゃないか」

一方通行「嫌味にしか聞こえねェぞ。この様の何処が使いこなせてるよォに見えるってンだ」

 たまたま出くわしたカエル顔の医者に経過の様子を見てもらったが、正直に言って一方通行は松葉杖を気に入っていない。

冥土帰し「ふむ…、ならば杖の方も何か代役を考えるとしようか」

一方通行「あン? 何か案があンのかよ?」

冥土帰し「要するに、君の歩行能力をサポート出来れば問題はないのさ。扱いやすさにも特化した、ロフストランドクラッチ型の杖を用意しておくよ」

 ロフストランドクラッチとは、前腕部支持型杖とも呼ばれる医療用補助器具の一種である。

 普通の松葉杖と異なり、腕に装着して使用する片手用の杖としてリハビリを目的とした歩行補助器具として使用されるケースが多い。

 簡単に行ってしまえば、現代的な型の片手用松葉杖、と言ってしまって相違ない。

冥土帰し「患者に必要な物なら何だって揃えてみせるさ。あと数日は普通の松葉杖で我慢してもらうけどね?」

一方通行「今のモンより楽になンなら何でもイイ。頼ンだぞ」

冥土帰し「引き受けよう。少しだけ待っていなさい」

 そう言って、カエル顔の医者は一方通行の杖を手配するために廊下の奥へと進んでいった。

 何から何まで世話になっているが、本来の医者と患者とはそういう関係で間違いはない。

一方通行「さて、と……ッ。おっととッ」

 再び廊下を進もうとして、一方通行の体がグラッと傾く。

一方通行「チィッ、やっぱ使い慣れねェか……」

 もしも、今の一方通行の様子をカエル顔の医者が見ていてくれたら、彼が“松葉杖を使い慣れていない”と“誤解している事実”に気付いてくれたかもしれない……。







 とある病室の扉が開かれた。

 一方通行が使い慣れない松葉杖を突いてまで廊下を進んでいた理由。

 それは、この病室を使っている男と話をするためだった。

木原数多「あん? 一方通行じゃねぇか」

一方通行「……ちっと聞きてェことがある」

 木原の病室を訪れた一方通行は、寝台の上で科学染みた小難しい内容の雑誌を読んでいた木原の傍に歩み寄る。

 寝台の傍らにあった丸椅子に腰かけると、単刀直入に切り出した。

一方通行「前に言ってやがったSRPについてだ。首謀者の男は何を考えてやがる」

 SRP、妹達共鳴計画。

 趣味の一環で妹達に感情データを投与し、人間観察をしている少年の実験。

木原数多「…悪いが、俺も最終目的までは知らねぇよ。そもそも、そういった目的があるのかも分かっちゃいねぇ」

一方通行「その男と面会することは?」

木原数多「出来なくはねぇが、どうする気だ? 会って、妹達の体を弄んだ代償でも払わせるつもりか?」

一方通行「そいつも考えたが、それ以前に直接話してェと思っただけだ」

 白衣の少年は、自分の勝手で妹達の体を操作して個々の感情を植え付けた。

 妹達を守る側に移った一方通行にとっては面白くない事実に変わりはないが、彼の行動が今の一方通行を形成しているといっても間違いではない。

 彼がミサカ9423号に恐怖(type6)を投与しなければ、あの悪夢の実験は終わらなかったのだから。

 また、これは幸運か不運か判断しかねるが、ミサカ3709号が蘇ることもなかった。

一方通行「恐怖(type6)だとか暴食(type7)だとかの情報も、詳しく訊いておきてェしな」

木原数多「……そーかい。まぁ、全ては退院してからの話だな。そん時まで大人しく安静にしてろ」

 とりあえず、今話すことは終わったとして丸椅子から立ち上がった一方通行は、木原の病室から自分の病室へと向かう。

 九月の半ば頃には退院できる予定なのだ。

 その日まで大人しく待っていればいい。

 そんな面持ちで病室を去った一方通行を見送った後、木原はボソッと呟いた。

木原数多「………あいつ、普段から“あんな顔”してたっけかなぁ…?」







 一方通行が自分の病室に到着する頃、ミサカ9423号が待ち伏せしていたことに気付いた。

一方通行「オイ、何してンだ?」

09423号「あ、えーっと……遊びに来てみたら、一方通行がいませんでしたので。ここで一方通行が戻ってくるまで待ってました、とミサカは…………?」

一方通行「……? どォした?」

 病室は遊びに来るところじゃねェよ、と返そうと思っていた言葉も止まる。

 何故ならば、目の前に立っていたミサカ9423号が突然に言葉を切ったからだ。

 今、彼女は一方通行の顔色を窺うようにしてマジマジと一方通行を見つめてくる。

一方通行「何だってンだよ。俺の顔に何か付いてンのか?」

09423号「あ、いえ……何だか普段の様子と何処か違って見えたので……とミサカは一方通行から漂う違和感に疑問を抱きます」

一方通行「はァ? 何言って……」

 と、その時だった。

03709号「あーーーぅッ」

一方通行「うわっととッ!!」

 一方通行の背後から、ミサカ3709号がドーンッと抱き着いてくる。

 一方通行が倒れないように考慮したのか、両腕をお腹に回してガッシリとホールドする形で。

03709号「えあ〜♪」

一方通行「なァにが“えあ〜”だ、バカ。危ねェだろォが」

 後ろから抱き着いてきた犯人がミサカ3709号だと判断した(というより彼女以外に考えられなかった)一方通行は、やれやれといった様子で顔だけ振り返る。

03709号「……う〜?」

 すると、一方通行と目を合わせたミサカ3709号が首を傾げた。

 まるで、あれ? 何だかいつもと違うなぁ、と目で語っているようだった。

一方通行「……? どォした?」

03709号「ぅ〜?」

09423号「そ、そんなことよりッ。いつまで抱き着いてるつもりですか、ミサカ3709号! 一方通行から離れてくださいッ、とミサカは二人の間に駆け寄って実力行使に……ッ」

 一方通行とミサカ3709号の間に割って入ろうとしたミサカ9423号だったが、その際に一方通行の肌に触れていた。



 そして、気付いてしまった。



09423号「ーーーッ。あ、一方通行……」

一方通行「あァ? 今度は何だ?」

 珍しく一方通行から大人しく離れたミサカ3709号と、何かに気付いたミサカ9423号の瞳が一方通行を見つめる。

 そして、ミサカ9423号が口を開いた。





09423号「…ものすごく……熱いですよ? と、ミサカは一方通行の体調を本気で心配します………」

一方通行「…………は?」
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