SRP:妹達共鳴計画U
□Data.03 九月八日
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一方通行の入院生活は散々なものだ。
風邪菌などのウイルスを反射することが出来なくなり、体にも耐性がなかったため自覚症状が遅れ、人生で初の風邪を患った。
それだけならまだマシだろう。
一方通行は現在入院中であるため、通院の必要もなく診察を受けることが出来る。
加えて、安静に適した病室も与えられている。
だが、一方通行の病体を知ってミサカたちが黙っているはずがなかった。
一方通行「ったく……。オマエらは俺を治したかったのか悪化させたかったのか、どっちなンだっつー話だよ、クソが」
09423号「うぅ……。だって風邪にはレモンが一番だ、ってミサカ12467号が……」
03709号「あぅ〜」
一方通行「その結果、お粥ン中にレモン石鹸ブチ込まれちゃ、俺を殺そうとしてる悪意しか窺い知れねェワケだが……。そこンとこに弁解は?」
09423号「………ぐすん…」
03709号「ぅぅー」
そもそも、病院患者には病院食という患者の容態に適した栄養バランスが施された料理が出されるのだ。
味は問題外として、早く治すために何かを用意する必要は皆無なのである。
にもかかわらず、病院のスタッフでもないミサカたちが一方通行のために何かしてあげようと思ったことには意味がある。
それが何なのかは敢えて言葉にしないが、一方通行も悪い気はしていない。
一方通行「………まァ…、次は美味ェモン食わせろよ。また風邪引いた日に同じこと繰り返されて、三途の川ァ渡りかけンのはこりごりだ」
09423号「……ッ。そ、それはミサカに看病の再チャンスを与えてやる、という意味ですか? と、ミサカは名誉挽回のリベンジを胸に確認を取ります」
一方通行「……好きなよォに解釈しとけ」
ちなみに、先ほどから一方通行が風邪を引いた件が過去形になっているのは、既に風邪が完治したことを意味している。
一度風邪を学んだ以上、一方通行が再び風邪を引く可能性は恐ろしく低いが、いつまでも落ち込んだ様子のミサカを奮い立たせるためには仕方ない発言だった。
そして現在、一方通行とミサカ9423号と3709号は病院内を移動中である。
向かう先は病院の正面玄関。
本日、九月八日。
一方通行たちよりも早く木原数多の退院することになったのだった。
芳川桔梗「あら、見送りに来てくれたのかしら?」
木原数多「おぉ、マジか? 何だよ嬉しいじゃねぇか」
一方通行「愉快な勘違いしてンじゃねェよ。リハビリのついでに顔見に来てやっただけだ」
木原数多「相変わらず可愛げがねぇなぁ」
一方通行「ほっとけ」
ミサカ3709号に噛みつかれた木原の足が完治したわけではないが、日常生活を送ることに支障が出ないレベルにまで回復した。
退院しても大丈夫な状態と、自分が休んでいた分を仕事を片付けたいとのことで、少し予定より早い退院である。
天井亜雄「木原さん。荷物はどうします?」
木原数多「んあ? あー……、どーっすっかなぁ……」
一方通行「…? 荷物ってなンだ?」
芳川桔梗「彼、入院中に暇にならないように、って私たちに私物を持って来させてたのよ。おかげで彼が使ってた病室は私物の山ってわけ」
木原の病室なら一方通行も何度か足を運んだが、そんな様子は見られなかった。
パッと見では見つけられないように隠していたのだろう。
おそらく、病院のスタッフたちに見つかっては口うるさく何か言われるような代物だと予想できる。
木原数多「とりあえず、まとめるだけでいいから簡単に用意しとけ。一度に運べるようにデカいバック持って戻ってくるからよ」
芳川桔梗「結局、最後の最後まで扱き使うのね」
天井亜雄「まぁ、慣れてるから気にはしないさ……」
一方通行「オマエも苦労してンだなァ」
天井を哀れみながら、とりあえず皆で病院の外に出る。
八月が過ぎたとはいえ、まだ九月は暑い。
残暑も続くのだろうが、夏の暑さは陰りを一ミリも見せていない。
木原数多「あ゙〜〜〜ッ。病院の中が如何に快適だったか思い知らされるぜ……ッ」
芳川桔梗「ホントね……。早く帰ってゆっくりしたいものだわ」
天井亜雄「……これでもマシになった方なのだが…。今までの暑さの比ではないんだぞ…?」
たった一週間の病院生活で倦怠感を蓄積してしまった木原と、根っからの屋内生活派の芳川にとって、九月の暑さでも耐えられないようだ。
八月の暑さの厳しさを忘れてしまったのだろうか?
木原数多「とにかく、デカいバック戻ってくるから、それまでにお前らは荷物を……って、一方通行?」
今後の段取りを復唱しようと振り返った木原は、思わず口に出して名前を呼ぶ。
病院から出て数歩だけ歩いてきた今、一方通行は面々よりも後方で片膝を付いて屈している。
松葉杖に手をかけているところ、肩で荒い息をしているのも遠目から判断できた。
09423号「……ッ! 一方通行!」
03709号「あうあ!!」
天井亜雄「ど、どうしたのだ!?」
慌てて駆け寄った皆は、ようやく気付くことが出来た。
一方通行の体に小さな異変が起き始めている。
一方通行「…ァ……あ、あァ…ッ」
09423号「一方通行ッ!?」
白かった肌は桃色に染まり、全身から玉のような汗が浮かんでいる。
一方通行「……あ…、あっちィィィ〜…ッ。つゥか……、もはや…痛ェ…ッ」
世界でも希少のアルビノ患者は、太陽の光に弱い。
紫外線から肌を守ってくれる色素が欠落している彼らにとって、太陽の光は火傷を負うほどの凶器と化すのだった。
冷房の効いている病院の待合室に引き返してきた面々は、カエル顔の医者を呼んで電極付チョーカーを再調整してもらう。
さすがに、この状況では一生退院など無理に等しい。
冥土帰し「やれやれ、僕としたことが盲点だったよ。申し訳なかったね、一方通行」
一方通行「この際、謝罪はいらねェ……。だが結局の話、俺は反射がなけりゃ生活できねェってことなのか……?」
冥土帰し「そんなことはない。少しずつだが、人間の身体とは環境に応じて変化していくものだよ? 早い話が、それが“進化”というものさ」
つまり、今はつらいだろうが直に慣れてくる、ということだ。
紫外線を真正面から浴びる経験など皆無だった一方通行にとって、いきなり外に出たのは失敗だった。
真夏も猛暑日でなかったのが不幸中の幸いである。
一方通行「チッ、次から次へと問題ばっかり浮かびやがって……。オイ、木原」
木原数多「ん? 何だ?」
一方通行が木原を呼んで何か話し込んでいる。
その間、ミサカ9423号はカエル顔の医者に一方通行の紫外線対処法を聞き出していた。
今回のサポートは絶対に失敗したくない。
09423号「ミサカたちに何かできることはないのでしょうか? とミサカは一方通行の手助けを遂行するための知識を要求します」
冥土帰し「ふむ。随分と彼に熱心なことだ…。僕としても、その方が大助かりだから問題ないけどね…」
カエル顔の医者は一本の傘を差し出す。
何の変哲もない何処にでも売っている普通の日傘に見えるが、この傘もカエル顔の医者が直々に用意した医療道具である。
元は別の患者に使用していた物の使い回しで、紫外線を完全に遮るのではなく少しずつ受け入れていく仕様になっている。
目的は、紫外線に極端に弱い患者の肌を人並みのものに昇華させる働きを促すためだった。
冥土帰し「彼は松葉杖を突いてるからね。傘をしっかりと差すことが困難なはずだ。リハビリついでに散歩する際、隣り合ってサポートしてあげなさい」