SRP:妹達共鳴計画U
□Data.04 九月十日
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少年は驚愕する。
偶然にも触れてしまった、学園都市の闇。
とある少年「……何だよ…、これ…」
少年には力があった。
そして、それを止める術を持つ大人は、幸か不幸か当時の少年の周りには希薄だった。
とある少年「こんなもの…、学園都市の上層部が知ったら……ッ。学園都市の教育体制が引っくり返るぞッ!!」
少年は慌てて駆け出していく。
自分が知ってしまった、学園都市の知られざる事実を抱えて。
九月十日、早朝。
第二十三学区から打ち上げられたロケットの噴射音で目が覚める。
騒音で起こされたことに変わりはないため、あまり良い目覚めとは言い難い。
垣根帝督「…………」
何か、夢を見ていた気がする……が、思い出せない。
垣根帝督(……まあ、大した夢じゃ…なかったんだろ…)
上体を起こして、ふと周りを見渡す。
どうやら、何処かのアパートか学生寮らしい。
????「あ、おはようございます」
垣根帝督「…………」
そして、この部屋の主が台所の奥から顔を出す。
いつもと変わらない笑顔を向けて挨拶をしてくる少女……初春飾利を睨みつけた。
初春飾利「おはようございます。挨拶ですよ? 聞こえますか? 分かりますか?」
垣根帝督「うるせえな……。何度も言わなくったって聞こえてる」
初春飾利「だったら返事をしてください。ほら、おはようございます」
しかし、初春の挨拶を無視して垣根は寝台から起き上がる。
初春の横を素通りして、そのまま玄関へと向かった。
初春飾利「また“自分探しの旅”ですか?」
垣根帝督「文句あるか?」
初春飾利「私、これからしばらくは風紀委員の仕事が忙しくなるんです。通常の治安維持だけじゃなくて、もうすぐ行われる大覇星祭の警護のサポートとか……」
垣根帝督「……それが?」
初春飾利「今日の午後からも、大覇星祭に向けての特別研修が予定されてます。自由な時間は、なかなか割けないでしょう……。それでもッ」
初春は、玄関に向かおうと背を向けていた垣根に近付き、前方へと回り込む。
曇りなど一切ない、真っ直ぐな瞳を向けて。
初春飾利「それでもッ。何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってください。一人で悩みを抱え込まないでください。私は風紀委員ですッ。必ずお役に立ってみせますからッ」
垣根帝督「…………」
垣根は初春の瞳を、逸らすことなく見据えた。
その上で、何も返答せずに玄関を出て行ってしまった。
初春飾利「…………」
部屋の中には、初春ただ一人だけが残された。
垣根帝督は、一方通行に倒された。
未元物質によって無限の創造性を手に入れ、死を超越した垣根帝督の体は“ヒト”の領域を超えた。
だが、それでも一方通行のベクトル操作には及ばない。
未元物質を含めた体ごと、垣根帝督という核の存在ごとバラバラに分解され、学園都市全域に微粒子レベルで吹き飛ばされてしまった。
では、何故ここに垣根帝督が存在しているのか。
垣根帝督「…………」
理由は簡単。
彼もまた、超能力者の第二位だ。
相手が一方通行だったとは言え、そう簡単に倒されるほど弱くはない。
微粒子レベルに散らされたことは事実だが、その状態から核だけは一点に集中して回復し、本来の垣根帝督としての姿を取り戻すことには成功した。
だが、あくまでも“体だけ”だ。
垣根帝督が所有していた能力、未元物質だけは完全に手元に返ってきていない。
今現在も学園都市全域の空気中に漂っている未元物質を集めきらない限り、垣根は超能力者に戻れない。
垣根帝督「自分探しの旅、か……。ムカつくことに、比喩表現じゃねえんだよな……」
採取の方法は簡単で、学園都市を歩き回っていればいい。
普通に呼吸していれば、自然と空気中の未元物質が垣根の許へと集まってくる。
まるで磁石に引き寄せられる砂鉄のように。
だが逆に、学園都市全域を隅から隅まで歩き通さなくてはならない事実もあった。
垣根帝督(第七学区を少し回った程度だが、まだ低能力者(レベル1)程度……。本調子には程遠い……)
核が完成し、柵川中学の敷地内で復活を果たした際のことを思い出す。
あの時は、本物の無能力者と化していて、身体も不完全だった垣根は瀕死寸前だった。
そんな彼を助けたのが、初春だった。
風紀委員だった初春は、警備員に連絡して助けを呼ぼうとも思ったが、それを垣根は拒んだ。
何か思うところがあったのか、学園都市の治安維持機関に身を預けることだけは拒絶したのだった。
仕方なく自分の部屋に連れ帰って看病してくれた初春は、当たり前だが垣根の素性……というより倒れていたわけを訊ねてきた。
垣根帝督(俺が第二位の超能力者だとか、第一位の超能力者と喧嘩しただとか、今は無能力者に成り下がっただとか。些細なことでも反応が面白いガキだったな……)
しかし、初春は風紀委員。
そんな垣根の事情を知って、黙っている彼女ではない。
協力します、と提案してきた際には垣根も驚かされたが、彼の答えは決まっている。
垣根帝督「………風紀委員が、協力だと…? ナメやがって……ッ」
未元物質を集めるため、彼は学園都市を歩き続ける。
その心の中には、学園都市の治安維持に対する憎悪。
警備員と風紀委員を信じられない、明確な負の感情を抱え込みながら……。
垣根の後から学園都市の外に出た初春は、鼻唄を歌いながら柵川中学を目指す。
しかし、それは自分の気分を誤魔化す行為に過ぎない。
胸の中では、垣根に対する心配が渦を巻いていた。
初春飾利(垣根さんの、あの眼……。ほんの数日しか関わりを持てませんでしたが、あの眼は絶対に救いを求めているはずです……)
だが、垣根は肝心な部分を絶対に話したがらない。
最初は失った力に関係しているのか、と思っていたが雰囲気から考えて別の問題だと判断していた。
何を抱え込んで悩んでいるのか分からない以上、初春も手の出しようがない。
初春飾利「……あ、今日の放課後の予定、もう一度確認しておこうかな」
気を紛らわせるためではないが、風紀委員の件を怠るわけにもいかない。
初春飾利「えーっと……」
携帯端末を取り出して操作を開始した瞬間だった。
とある少女「うーいーはーるーんッ♪」
初春飾利「え……?」
バサァッ!! と捲られるスカートと、耳をつんざく初春の悲鳴。
学園都市の闇を知らない光ある世界は、今日も平和です。