SRP:妹達共鳴計画U

□Data.05 九月十一日
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 ミサカ9423号はモヤモヤしていた。

 三日前、絹旗との会話で気付いてしまったこと。

 一方通行に対する想い。

09423号「ミサカは………ぅぅ…」

 何となくだが、自分の気持ちに気付いていた。

 ただ、今ある環境を苦に思っていなかったがために、まだ気付いていないフリをしていた。

 しかし一度自覚してしまえば、もう戻ることはできない。

 認めよう。

 ミサカ9423号は一方通行のことが好きだ、と。

09423号(別に、一方通行に知られたわけではありませんし……いつも通り、何気なく顔を合わせることなど朝飯前です……と、ミサカは心の中で高ぶる胸を落ち着かせます)

 そんな行動を取っている時点で“いつも通り”とは言えない。

 真剣な様子の当人は気付く様子もないが、その動作を既に数十分は繰り返している。

 しかも、一方通行の病室が目と鼻の先という立ち位置で。

09423号「病室の扉を開けて、おはようございます、です………あ、いや…先に、失礼します、の方が適切でしょうか……と、ミサカは出来る女を演じるための予行練習を行います」

 廊下を歩きながらブツブツと呟いている少女の図、というものは実に奇妙だが、幸運なことに周りには誰もいない。

 否、怪しげな言動を止めてくれる者がいない、という意味では不運なのだが。

09423号「と、とにかくッ。全ては一方通行の病室前に到着してからですッ、とミサカは拳を握りしめて目的地へと挑む決心を固めますッ」

 深呼吸を繰り返し、一方通行の待つ病室へ歩を進める。

 だが、一方通行の病室の前まで来たところでミサカは気付いた。

 病室の中から一方通行の声が聞こえてくる。

09423号(……? 誰かいるのでしょうか……と、ミサカはこっそりと扉に耳を当てて来客の特定を行います……)

 盗み聞き体勢で病室内の会話を探るミサカの耳に届いた会話は……。





03709号『う〜』

一方通行『おォ、その調子だ……。結構上手ェじゃねェか…』

03709号『あーー、あぅ〜』

一方通行『あァ? そっちもヤってくれンのかァ? ンじゃ頼むわ』

03709号『ぉ〜』

一方通行『…ッ、ンッ、あ……く、ゥ…』

03709号『うううーー、ぇぅー』

一方通行『お、おい…、ちょっと待てッ。激し過ぎだ、そンなに動くンじゃ、ンッ、ねェよ…』

03709号『おー、あーうー』

一方通行『まさか、分かっててやってンのか……? あ、ン…ゥッ。く……まァ、気持ちイイから文句はねェけどよォ…』





09423号「ーーー何をやっているのですかッ、3709号ぉッ!! と、ミサカは鼻血を流すべきなのか涙を流すべきなのか分からない心境のまま、勢いよく病室に駆け込みますぅッ!!!!」

 バァンッ!! と病室の扉を開け放ったミサカ9423号は、色んな意味で赤面していた。

 そんなミサカ9423号を出迎えたのは、寝台の上に俯せ状態で横たわる一方通行と、その上に馬乗りになっているミサカ3709号だった。

一方通行「あァン? どォした?」

03709号「あぅ?」

09423号「あぅ? ではありません! 一方通行に乗りかかって、何をしているのだと訊いているのですッ!! と、ミサカは涙を堪えて詰め寄ろうとも思いましたが、ごめんなさい! もう我慢できない! うわぁぁぁんッ!!!!」

一方通行「来室早々、騒がしいことこの上ねェなァ! 急にどォしちまったンだ、テメェはッ!!」

09423号「びえええん! 離れて離れてッ、これ以上ミサカを視覚情報だけでイジメないでください! とミサカ9423号はミサカ3709号を一方通行から引き剥がそうとしますが、全然離れやがらねぇな、このクソガキ!!」

一方通行「まず落ち着け、今すぐ落ち着け。オマエは俺が知ってるミサカ9423号じゃねェ。つーかミサカ3709号! テメェ俺の腹に足ィ回してしがみ付いてンじゃねェよ! セミか!!」

03709号「あぅ!! あーーうーーッ!!!!」

 邪気がないから無邪気という。

 本能のままに一方通行の体に抱き着けるミサカ3709号を、ミサカ9423号は心から羨ましく思った。







 食蜂操祈のお見舞い品、ドリアンを両手で掴み取った一方通行は、その両手で二人のミサカの顔面を鷲掴みにした。

 最初はジタバタと暴れていた二人だったが、数秒後には沈黙。

 次に二人が目覚めた時、ミサカ9423号は泣きながらのポカポカパンチを、ミサカ3709号は肩から腕にかけての連続甘噛み攻撃を、それぞれ一方通行に放っていた。

 まぁ、どちらも一方通行に大きなダメージはなかったが、とりあえず場は落ち着いた様子。

一方通行「ったく、勘違いもイイとこだっつーの。ただのマッサージだ」

09423号「マッサージ、ですか? とミサカは首を傾げます」

一方通行「あァ。あの医者から支給された片手用の杖も使い始めたンだが、まだ慣れなくてな……。体の節々が痛ェから、ちょっくらマッサージを頼ンでただけだ」

 寝台の横には、現代的なデザインの松葉杖がかけられていた。

 一方通行のために、とカエル顔の医者が用意してくれた新しい松葉杖なのだが、まだ馴染んではいないらしい。

 疲れてきた体を解すために、一方通行はミサカ3709号にマッサージを頼んだことが、ミサカ9423号の盗み聞きした会話の真相だった。

一方通行「たまたまミサカ3709号が懲りもなく遊びに来てやがったから、ついでに働いてもらっただけだっつーの」

09423号「そうだったのですか……と、ミサカは真実を聞いてホッとします。しかし……」

03709号「う?」

09423号「羨ましい事実に変わりはありません、とミサカは歯噛みします。ぐぬぬ」

 面倒な説明を終えた一方通行が、ゴロンと寝台に身を預けた。

 そして、不意の一言。

一方通行「ンじゃあ、オマエもやってみるか?」

09423号「………え…?」
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